23.俺なりに
一夜明けて今日。
今朝の学校の教室に上壁の姿はなかった。
美咲ちゃんの容態が悪くて側に付きっきりなのか、はたまたバイトが忙しくて今日は来れないのか。
そんなことを考えながらホームルームの先生の間ずっとぼーっとしていた。
別に先生の話を聞いていなくても今日は問題ないだろうと思えた。
なぜなら、輪國先生が今朝してた話は連絡事項でもなんでもなく、昨日の街コンでの成果報告でだったからである。
なぜなのかとか、参加した男が見る目なさすぎとかずっと嘆きっぱなしだった。
そういう話は同僚などの先生同士でだけやって欲しいものである。
愚痴続きのホームルームが終わった後も、今日はパッとしない授業が昼まで続く。
自習だったり、先生が余談ばかりしたりで授業内容は一向に進まなかった。
まぁ無理もない、今はほとんどの生徒が欠席しており、いわばインフルエンザが流行った時の学級閉鎖一歩手前状態なのだ。
そんな中授業内容もそんなに先に進むわけにはいかず、復習などばかりで教師陣からもやる気が感じられない。
***
昼休みになった。
自分のお昼ご飯は基本美月が持たせてくれる弁当を食べている。
いつもどこで食べるかだけが日々の問題の一つだ。
俺は友達が少ない、いやほぼいない。
だから友達同士で食べる生徒が多い教室では食べにくい。
いつもは中庭の人気のない陰。廊下の階段の下の陰。この学園は無駄に広いので、探せば一人っきりで人目を気にせずに食べられる場所は結構ある。
最近はたまに、瀬川さんと燕が一緒に食べるときに混ざるかと誘われるが、それはそれで気が重いのでお断りさせていただいている。
「さて…今日も安息の地を求めて学園を探索するとしますか…。」
それは席を立ち上がった瞬間だった。
「おい。」
「うおぉいっ!? って、上壁くん?」
今日は来ないかと思っていた上壁が今来たと言わんばかりの格好で急に背後に現れた。
「ちょっとツラ貸せや。」
えっ、もしかして校舎裏?
俺は上壁に言われるがまま、クラスを後にした。
***
今日の天気は曇りだ。少し厚みのある灰色の雲が空には広がっている。
そんな天気がよく見える屋上で、俺はなぜか上壁と一緒に昼飯を食べていた。
上壁に連れられて階段を登って行き、普段は立ち入り禁止の屋上の入り口にあるドアを無理矢理力技でこじ開けて入った。
これ、後で俺も怒られるパターンじゃないか?
「これ、婆さんがお前に渡せって待たされた。」
渡されたビニール袋には大量のおにぎりがアルミホイルに一つ一つ丁寧に包まれて入っていた。
「昨日の礼だとよ。美咲と遊んでくれたからって。」
こちらに目も合わさず、片手はポケットに突っ込んだままの上壁から袋を受け取る。
「こんなにたくさん…ありがとう。」
「礼なら婆さんに言え、それじゃあな。」
「ちょっと待って!」
少し想定外だったが、向こうから声を掛けてくれたのだ。
昨日のことが気まずくて話しかけて来ないか、無視されるかぐらいは覚悟したのにこれはチャンスだ。
ここで会話を終わらせてはいけない。
「まだなんか用かよ?」
「上壁はお昼食べた?よかったらもらったおにぎり一緒に食べない?俺弁当もあるからこんなに食べられなくて。」
「はぁ?なんで俺がお前と一緒に飯食わねぇといけないんだよ。」
「ほら、今から食べる場所探してる時間もったいないし。それに、誰かと一緒に食べたほうがご飯は美味しいっていうしさ。」
我ながら後半の言い訳は少し苦しかったかと思う。
「馬鹿馬鹿しい、俺はもう行く。」
「あっ、ちょっ待って!」
「しつけーぞ!まだなんかあんのか?」
上壁くんはもうすでにご立腹だ。この次の誘い文句が最後の一言になるだろう。
この手段は使いたくなかったが、仕方がない。
「あーあ、昨日プリント届けてあげたのになぁ〜。しかも、お礼も言わずに急に殴りかかってきて、本当に最悪だったなぁ〜。」
「はぁ?」
「それなのに謝りもせずにご飯の誘いも断るなんて、なんて恩知らずなんだろうなぁ。」
「・・・・・・」
流石にわざとらしく、且つウザすぎただろうか?
また急に殴りかかって来るかもしれないので、黙って立ち尽くす上壁対して構えを取っておく。
「フンッ。」
ばさっ!
上壁はその場に急にあぐらをかいて座り出した。
「おいっ、今回だけはその挑発に乗ってやる。これで貸し借りはチャラだ。さっさと握り飯寄越せ。」
なんとか引き止められた…。
内心ホッとしながら、高校入学が初めての気まずいランチタイムがスタートした。
***
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
しっしんどい…。
だいたいわかってたことだけど会話がない。
こっちから色々と会話は振ってみた。
美咲ちゃんの具合どうとか、バイト何してんのとか、出来るぎり過去のことに触れない話題を。
上壁は何回話を振っても答えずに黙々と握り飯を口に運び続けた。
会話が成立しないまま、時間と昼飯だけが消費されていく。
今日は風もなく、昼飯を食べるときに出る微かな音がよく聞こえるが、それが急に少し静まる。
「お前、なんで俺と急に飯食おうなんて思ったんだ?」
「えーっと、ただクラスメイトと一緒にご飯でも食べて親睦を深めようかと?」
「なんで疑問形なんだよ。大方婆さんに俺のこと色々聞かされたんだろ。ったくあのお喋りババアめ。」
上壁は食べ終わった昼飯のゴミをまとめてその場で立ち上がる。
食べ終わるの早っ!
「言っとくが、今回一緒に飯食ったのは貸しをなくすためだ。これからはクラスが一緒だからって、馴々しくしてくんじゃねえぞ。」
入り口の方を向いて立ち去ろうとする上壁の前に俺は立ちはだかる。
「おい、何の真似だ?」
「上壁君はさ、またそうやって人と関わらずに生きていくつもりなの?」
上壁の前髪から覗く鋭い眼光に、こちらも目を逸らさずに真っ直ぐに目を合わせ続ける。
「お前、あんま調子乗んなよ?ババアに何言われたかは知らねぇけどな。
それだけで俺のことわかった気になったり、可哀想とか勝手に思ってんなら殺すぞ。」
胸ぐらを掴まれ、少し体が宙に浮く。
内心の恐怖を拳をこれでもかと握りしめて、必死に堪える。
少しも目を逸らしたりなんかしない。
「わかんないよ!!! 上壁君のことなんか今は、これっぽちも。
でもね、だから知ってこうと思ったんだ!
そうじゃないと、何も分かり合えないから!!!」
真っ直ぐに見返す俺の視線を遮るように、上壁が瞳を閉じる。
その後に俺の胸ぐらから手を離すと、俺を横をゆっくり通り抜けて、屋上の入り口から出て行った。
「ダメだった…かな。」
「いや〜、これぞ青春だねぇ。」
しんみりした雰囲気などお構いなしと言わんばかりに、火鈴が指輪から姿を現す。
「火鈴姉さん。俺なりにやってみたけど、やっぱダメだったかも…。」
「何言ってんだ、気にすんな!まだ始めたばかりだし、これから何かと突っかかっていけばいいさ。」
いつでも明るく元気な火鈴を見ていると、こちらの憂鬱な気分も少し晴れる。
「俺から言わせれば、少なからず兄ちゃんの心には響いたと思うぜ。お前のあの真っ直ぐな目が偽物じゃねぇってのは伝わったはずだ。」
「そうだといいなぁ…。」
上壁がこの場を去って、風がさっきよりも強く吹くようになっていた。
それのせいか、雲の色は先程より暗く形は厚みを増したように見える。
嫌な天気だ。
まるで、俺と上壁の今後の行く末を表しているかのようで、あまりいい気はしなかった。




