21.重なる姿
「ついてしまった…。」
先生に頼まれてお使いを遂行するため、先生が書いてくれた上壁の住所のメモを頼りになんとか目的地までたどり着いた。
とゆうか、今更すぎるが生徒の個人情報こんなに簡単に渡していいんだろうか。プライバシーはどうなってんだ。
「ここが上壁君の家。」
住所を見て薄々思っていたが、俺の家と割と近所だったことに驚いた。
それに…。
「俺んちのアパートよりボロい…。」
俺んちと同じ二階建てのアパートの一室が上壁の家らしいのだが。
2階に上がる階段はボロボロ。もう夕方で薄暗いって言うのに照明はチカチカとしているか消えてるかのどちらかだ。
本当に人が住んでいるのかさえ怪しい。
「オンボロで悪かったね。」
「うおっ、びっくりした!!!」
後ろを振り向くと、小柄なお婆さんがちょこんと立っていた。
「あんた誰だい?おや?その制服、確か櫂の学校のと同じ…。」
「あのー、俺、上壁君と同じクラスの響八って言います。上壁君ちここであってますか?」
「ほーう。櫂のクラスメイトね…。」
何だかクラスメイトって名乗ってからすっごい見てくるんだけど。
なんなんだよ一体。
「いいだろう、ちょっと付いて来な。」
「はい?」
***
突如現れたおばあさんの言われるがままにアパートの一室の前まで案内される。
「ここじゃ。」
連れてこられた部屋の扉には管理人室と書いてある。
やっば、大家さんの前で思いっきりボロいって言っちゃったよ。
「あの、ここの大家さんだったんですね。さっきは、その…アパートのことボロいって言っちゃって、すみませんでした。」
「あん?なんだい、さっきのこと気にしてんのかい?随分と素直に謝るじゃないか。
そんなことこっちは気にしてないよ。ボロいのはホントのことだしね。」
怒っているかと思いきや、おばあさんは笑みを浮かべながら話をしていた。
「あんた櫂に用があんだろ? 生憎今あの子はバイトに行ってていないんだ。だから悪いんだけど、部屋に上がって待ってておくれ。」
「いやいや、そんなの悪いですよ。プリント渡しに来ただけですから、それだけ置いたら失礼します。」
正直言うと、上壁が帰ってくる前にさっさと帰りたい。
「そんなこと言わず、せっかく来たんだから私達の話し相手ぐらいしてくれてもいいだろう?」
「私たち?」
ガチャ!
「おばぁちゃん、おかえりなさい!」
突如管理人室のドアが開いたかと思うと、中からドアノブの位置よりも背の低い女の子が顔を出した。
「おお〜さっちゃん、ただいま〜。いい子にお留守番してかな〜?」
おばあさんはさっきの無愛想な態度とは一変、人が変わったかのように猫撫で声で女の子に接し始める。
「おばあちゃん、このお兄ちゃんだれ?」
おばあさんの後ろにしがみついて顔だけ出し、愛くるしく上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
「こんな外で立ち話も何だから入んな。茶ぐらい出すよ。」
***
結局部屋に上がってしまった。
だけどなんで、大家さんの部屋に?
当の大家さんはお茶を入れた後、先程の女の子を膝に乗せて満面の笑みで話を弾ませていた。
差し出されたお茶を啜りながら、今の状況を整理する。
そして考え、一つの結論に至る
これ俺が話し相手じゃなくても良くない?
とゆうか帰りたい。今すぐ!
あーもうダメだ、頭の中が帰りたいと言う気持ちで溢れかえっている。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
いっいつの間に…。
先程までおばあさんの膝の上で楽しそうに足をバタつかせながらおしゃべりをしていたのに、今度は黙りながら俺の服の袖を引き、こちらの顔を覗き込んでいる。
「なっ何かな?」
「一緒に遊ぼっ!」
なんという無垢な笑顔。
初めて上がる家で人見知りを発揮しながら俯き黙る陰の者にはその真っ直ぐな笑顔は眩しすぎる。
見るからにいい子そうな子のお願いを断るなんてことはできるはずもなく、おままごと、お馬さんごっこ、お人形遊び。
少女が遊び疲れて眠ってしまうまで付き合うのだった。
***
「悪かったね、すっかり遊び相手になってもらって。あの子があんなに楽しそうに遊んでるところ久しぶりに見たよ。」
眠ってしまった少女を隣の部屋に寝かしつけ、部屋に戻って来たお婆さんに笑顔でそう言われる。
「いえっ、えっと。大家さんは…」
「初代だよ。初代さんと呼びな。」
「初代さんはここでお孫さんと二人で暮らしてるんですか?」
「美咲ちゃんはアタシの孫じゃないよ。櫂の妹さ。
櫂がバイトで遅くなる日は預かってんだ。まぁ、労働基準法ギリギリ…いや、バレないようにそれ以上やってるのかもね。」
孫じゃなかったんかい、まさか上壁にこんなに似てなくて可愛い妹がいたとは。
「そのおかげで、いつもさっちゃんが寂しい思いしてんのさ。
でもね、ウチみたいな風呂なし激安ボロアパートでも兄弟二人暮らしするには学校以外の時間はバイトに当てないと、生きていけないのよね。」
この歳の兄妹が二人暮らししなくてはいけないということは、言わずもがな何かしらの理由で両親はいないのだろう。
聞くのは流石に野暮なので聞かないでおく。
「どうだい、櫂のやつは学校でうまくやってるかい?」
いえ、全然。
とは言えないので。
「ハイ、フツウニスゴシテマシタヨ。」
「そうかい、またなんかやらかしたのかいあの子は。」
秒でバレた。
「あの子に今の学校を勧めたのはアタシなのさ。聞いたところによると、任務をこなすと報奨金が出るとかなんとか。
あの子、中学出て働くなんて言ってたけど、今時高校ぐらい出なきゃと思ってね。」
なんか最近似たような会話を聞いた気がする。
入学前の俺と同じじゃん。
「そうかい、また初日からうまくいかなかったのかい。あの子、あの見た目だろ?
昔はボクシングやっててそこそこ有名な選手だったんだけどね。
トラブルに巻き込まれるは、不良どもに喧嘩売られるわで、周りに迷惑かけるからってぼくしんぐやめちまってね。挙句には親がいないことを馬鹿にされたりして、すっかり今みたくグレちまって。」
確かにあの見た目じゃあ色々と悪い方に勘違いされやすいだろう。
だからといって、今日のように学校の規則的には問題が無いといえ、F組にしたことはいただけない。
「あの子は育った環境が環境なだけに、人に頼ることを一切せず、自分の力だけでなんとかしようとする節がある。
それじゃあいつまで経っても他人と打ち解けられず、孤独なままだ。」
何だか話を聞いていると他人事とは思えなくなってくる。
そうなった理由は違えど、上壁は姉さんと似ているのだ。
周りの知り合いに迷惑かけたくないとことか、俺や美咲ちゃんのように、弟や妹に心配かけたくないという独りよがりなところとか。
姉さんと重ね合わせてしまうからこそ、もっと周りにわがままになってもいいんじゃないかと思う。
俺みたいな奴がいきなりそんなこと言っても、なんだこいつと思うだけかもしれないが。
姉さんみたく、上壁が何か一人で無理をして、美咲ちゃんの前からいなくなってしまうようなことがあっては遅いのだ。
「あの!初代さん俺っ…」
ガチャ!
「おい婆さん、今帰ったぞ。
ん!? 誰だオメェ?ここで何してやがる?
まさか…、テメェも連中の仲間か?」
あれっ、なんか怒ってらっしゃる?
教室にいたはずなのにまた顔を覚えられてない。
燕といい上壁といい、うちのクラスにはクラスメイトの顔を気にしなさすぎな奴が多すぎる。
そのせいか、なんか変な誤解をされてるみたいで、めっちゃ睨んでくる。
あぁ、今になってやっぱり帰っておけばよかったとつくづく思うのだった。




