20.おつかい
上壁が入ってきて中断されたホームルームが再開されて数分後、早速上壁が行動を起こす。
急に立ち上がったと思いきや、輪國先生の前に立ち一言。
「…‥端末。」
と言い放った。
「あっ、端末。生徒手帳のことですね。
上壁は今日初登校ですからまだもらってなかったんですね。今は持ってきてないので、また後で……。」
「・・・・・・チッ。」
クラスに確かに響く、ザ・不良の舌打ち。
「ヒィッ!」
先生が誰にでもわかるくらいビビっている。
そりゃ、金髪でちょっと長い前髪から覗く鋭い眼光。服の上からでもわかる筋肉の膨らみ。
こんな奴が目の前でじって見てきたら誰だってビビる。
「すっすぐに職員室から取って来ますぅ〜。」
その場の空気に耐えかねた先生は、逃げ出すように教室を出て行った。
その瞬間、ゆっくりと自分の席に戻った上壁はすぐさま机に突っ伏して寝る体制をとった。
自由すぎるだろ。
先生が戻ってくるまでの時間誰も喋らず、ホームルーム中とは思えないくらい静かな時間が流れた。
***
先生が戻って来てからも上壁の自由な行動は止まらない。
「はい、お待たせしました。こちらが上壁君の生徒手帳です。」
息を切らしながらなるべく全速力で戻って来たことが見て取れる輪國先生が教室に帰って来て上壁に端末を渡すと。
「・・・・・・ども。」
それだけ言うと、来たばかりだと言うのに教室を出て何処かへ行ってしまった。
「はぁ…。」
先生も見るからに問題児な上壁に振り回されて、ため息をついていた。
「ああいうワイルドな男に振り回される人生も、これはこれでいいかもです〜。」
あっ違うわこれ。
走って来たことと、先生のドMな一面が刺激されて、極度の興奮状態になってるだけだわこれ。
この後のホームルームは特に連絡とかもなく、すぐに終了となった。
「何だか凄まじいクラスメイトが来たな。」
「うむ、見るからな問題を起こしそうな輩だったな。」
「ダメだよ二人とも。人を見た目で判断しちゃ。」
ホームルームが終わって先程の出来事などを話し合っている三人は、それとは別に気になったことに話題を切り替える。
「それにしても、今日はただでさえ出席人数が少ないのに、せっかく来たクラスメイトがすぐどっか行っちゃうとはね。」
「そうだね。なんでこんなに今日は欠席者が多いんだろう?風邪でも流行ってるのかな。先生は特に何も言ってなかったけど。」
「それなんだが、私が聞いた話ではポイント稼ぎがここ数日で本格的に始まったそうだ。
G組だけではなく、他のクラスでもちらほら戦いでの負傷で休んでいる者がいるようだ。」
あぁ、先生が前からちょくちょく言っていたポイントの争奪戦がようやく始まったようだ。
確かに、登校時だったり放課後などにドンぱちやっている生徒はちらほら見るが、ここまで急にクラスの人数が減るものなのだろうか?
「これはあくまで私が聞いた話なのだが、何処かのクラス同士が結託して、生徒を計画的に大人数で襲っていると言う噂があるらしい。」
「そんな。じゃあ、この休んだらクラスメイトの人たちは…。」
「あくまで噂だ。だがこれから登下校と放課後の時間帯は用心したほうがいいだろう。」
なんだが急に平穏な日常が崩れてく気がする。
先生はいつものことみたいな感じで、落ち着いてたけど、これがAHDの本来の姿なのだろうか。
「とにかく、確証のないこととやかく言っててもしょうがないよ。学生の本分は勉強。今は次の移動教室に行くとしよう。」
少し臆病風に吹かれたのでそれを振り払おうと最後変なテンションになってしまった。
「そうだね、行こ行こ。」
「そうだな。早めに教室を出ないとこの学園は広いから授業に遅れてしまう。」
授業に必要なものを持って3人は教室を後にする。
***
「むっ? あれはなんの騒ぎだ?」
教室を移動中、少し離れたF組の前を通り掛かると教室の周りには他のクラスの生徒で人だかりが出来ていた。
「ちょっとごめんね。」
人混みを掻き分けて教室の中が見える位置まで移動すると、驚くべき光景が広がっていた。
「なにこれ……。」
目に飛び込んできたのは、おそらくF組の生徒であろう複数の生徒が教室の床に倒れ込んでいた。
「酷いな…。」
「誰がこんなこと…」
野次馬の中の1人に話を聞くと、俺たちが来る数分前にF組がなんだか騒がしく、教室を覗くと、大柄な金髪の生徒が中から出てきたらしい。
絶対上壁じゃん!
マジで何やってんのアイツ。
おそらく上壁であろうその生徒はF組の生徒をシメると教室を出てまた何処かへふらっと行ってしまったらしい。
いや自由すぎるだろ!
そもそも次の授業がある教室に向かったとも考えにくいし、なんで学校来たのか不思議なレベルなんだけど。
***
時は経ち放課後。
全ての授業が終わり、クラスメイトが今朝の件で警戒して早足で帰って行ったので今は俺1人。
すっかり仲良くなった瀬川さんと燕は、燕が1人で帰るのは危険だというので瀬川さんを送っていくことになった。
燕が一緒なら問題ないだろう。
それにしてもこの学校は本当に普通の学校とは違うみたいだ。
今朝あれだけのことがあったのに、警察沙汰になる気配はなく。
あの後保健委員や風紀委員が複数名来て、怪我人の手当や出来事の確認に来たぐらいで場は治った。
朝から手間を取らさないでほしいと、現場に来ていた園田先生が愚痴ってた。
「さて、俺も何か面倒ごとに巻き込まれる前に帰るか…。」
『結局今朝のいざこざ以外特に事件起きなかったなぁ、つまんね。』
火鈴姉さん何を期待してるの?
何も起きないことに越したことないでしょ。
まぁ、そんなに頻繁に何か問題が起こるとは思えないけど。
「あーっ!響八君!!!よかったです〜、まだクラスに人がいて。」
嫌な予感がする。
「先生!? 何か俺に用っすか?」
「実は頼みたいことがあって〜。今朝来た上壁君覚えてます?」
忘れるほうが難しいと思う。
「私上壁君に渡すはずだったプリントをうっかり忘れてまして、これを響八君に代わりに届けて欲しいなって。」
いやいや、絶対やだ。
さっきの一言でフラグがたったかのように狙いすまして俺に厄介なおつかいの依頼がきた。
「えっ、なんで俺なんですか?それって先生の仕事なんじゃ?」
「そうなんですけど…、私この後用事がありまして。それに今月ミスばっかりでしてて、このミスもバレると生活指導の先生に怒られちゃうんです〜。」
完璧に自業自得だが、ここまで必死に頼んでくる先生を見てると少し可哀想にも思えてくる。
「わかりました、今回だけですよ。」
「うぁ〜、ありがとうございます〜。本当に響八君がいてくれてよかったです。」
俺も行きたくはないけど、こんな風に人に喜んでもらえるなら人助けも悪くない。
「おかげでこの後行われる街コンになんとか参加できそうです。」
「へっ?」
「じゃあこれ、よろしくお願いしますね!」
先生は渡すプリントと、上壁家の住所が書かれた紙を渡すとすぐにその場から去って行った。
去り際に言ったあのセリフ。もう輪國先生の頼み事は死んでも受けないと堅く心に誓うのだった。




