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2.家族

〜一年後〜


 とある学園の校舎の教室に、予鈴のチャイムが鳴り響いた。

 あの出来事から時は経ち、俺、響八ひびや りょうは高校生になった。

 思えば、時が経つのが早く感じた。そう思えるのには色々と訳がある。


「おはよう、響八君。」


 隣の席の女子生徒が席につく際、こちらに挨拶してくる。


「おはよう瀬川さん。」

「あれっ? 瀬川君また寝不足? 目の下にすごいクマできてるよ?」


彼女は瀬川せがわゆう。ウチの近くに住んで、小さい頃ちょくちょく遊んでたいわゆる幼馴染というやつだ。

姉が亡くなってからも、それを心配して何かと声をかけてくれたり、色々気にかけてくれるとてもいい子だ。


「あはははっ、気にしないで。いつものことだし、割と元気だから。」

「そう...なんだ。ならいいけど...。何かあったら遠慮なく言ってね。」

「おーい委員長、ちょっといーい?」

「はーいっ! 今行くね! ごめん響八君、またあとでね。」


突然の声かけに、彼女は呼ばれた同級生の方へ歩いていった。

入学して一週間ばかりではあるが、昔から根が真面目で面倒見がいい性格だからか、すぐさまみんなに頼りにされ、友達もたくさんいるようだ。

 それに引き換え、自分はと言うと。


「ねぇ...あの人でしょ? さっき瀬川さんと話してたさ。」

「あー、あの・・5股してるって人でしょ。」


 と、教室の一角で噂されている...かと思えば。


「違うって、和服の人妻といけない関係になってるとかなんとか。」

「えっ? 俺はレディースの頭のバイクに引きずられてたって聞いてたけど。」


などなど、クラスメイトからあらぬ誤解を受けている。背中に刺さる視線の中、違うと正す度胸も自分にはない。元から根暗な自分はこの状況を知りながら、沈黙を貫いた。

 だけど完全に気にならな訳ではない。

視線とあらぬ誤解が聞こえてくるたび、俺の心はゴリゴリに削られているのだ。

 クラスメイトよ、俺みたいな陰キャにだって心はあるのだ。せめて噂するなら俺が聞き取れない場所でしておくれ...。

 そうこう考えてるうちに、今日も始業のベルはなり、1日が始まるのだ。


〜放課後〜


 授業が全て終わり、特に学校用事もないので即下校。部活は入ってない。まだ仮入部期間だが多分どこにも入らないと思う。部活するよりバイトしたいからだ。

それに、さっきみたいな噂が立っているのにわざわざ痛い視線を浴びやすい集団の中に飛び込む趣味はない。

 とにかく、早く帰って手頃な求人でも探そう。

校門を出て特に寄り道できそうなところもないくらいの短さの通学路を辿り自宅に着いた。

 二階建ての古いアパートの一室。昔から家族で住んでいた俺の家。最後の家族だった姉が死んで、もう俺一人だけの家...、そのはずだった。


「お帰りなさいませ、お勉強お疲れ様でした。はい、鞄をこちらへ。」


玄関のドアを開けると本来は誰もいないはずの家に、着物を着て黒く艶やかな長い髪をした女性が正座している。


「美月姉さん、毎回帰るたびにそうやって出迎えなくていいって言ってるでしょ?」

「あら? 照れてるの? いいのよ私がしたくてしてるんだから。お姉ちゃんとして当然です。」

「だからってさぁ、普通姉だからってそうやって出迎えるかなぁ?」

「出迎えるわよ、可愛い弟が帰ってきたんですもの。それにこれだけじゃないわよ? いつもなら、ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も、お姉ちゃん? ってするのが一連の流れなのに、稜君がどうしてもやめてって言うから、これだけにしてるのに。」

「いや、最後の方のは姉弟云々のやりとりじゃなくて、新婚夫婦とかがやるやつでしょ!!! それにまだ晩御飯には早いし。」


ツッコミを入れていると、アパートの正面に爆音を鳴らしながら、大型バイクが一台止まった。


「あれっ、なんで火鈴姉さんが来てんの?今日いる日・・・・・だっけ?」

「あぁそれはね・・・」


説明しようとしてる美月をよそに、フルフェイスヘルメットを外し、赤みがかった少しウェーブしたショートヘアをあらわにしたライダースーツの彼女は、玄関の二人に気づくと大きくこちらに聞こえるように喋りかけた。


「おーい、稜。今日パチンコで爆勝ちしたからよー!! 皆んなで菓子買おうぜー!!!」


確かに今日は出かけるって言ってたけど、パチンコ行ってたのかよ...。


「火鈴姉さん、近所に迷惑だからもう少し音抑えてっていつも言ってるでしょ?」


いつもバイクで爆音をかき鳴らす彼女のせいで、最近ご近所さんの視線も気になるようになってきていた。ここを追い出されるようになっては困る。


「細けーこと気にすんな! 周りのことなんて気にしなけりゃいい!」


いつもこれだ。豪快というか無神経というか、そういう人なのだ火鈴姉さんという人は。


「稜ちんと火鈴ちん帰ってきたの? じゃーはやく菓子パ始めよーよ。」

「あ〜稜ちゃん火鈴ちゃん、おかえり〜。」


ゲームのコントローラーを片手にヘッドフォンを首にかけた大きめのTシャツをきた透き通った水色の長い髪をした少女とボサボサの緑色の長い髪のバスタオル一枚体に巻いた少女が狭い家の中から続々と顔を覗かせた。


「ちょっと水姫、木陽こはる!そんな格好で外出ないでよ、恥ずかしいでしょ! 稜と火鈴も早く家の中に入るなら入ってよ。」

「「「「は〜い。」」」」

「返事は伸ばさない!!!」

「ったく、金恵かなえはいつもうるせーな。」


眼鏡を掛けた金髪おさげの少女に叱られると、文句を言いながら火鈴を最後に皆んなゾロゾロと部屋の奥に吸い込まれるように帰宅した。

そう、これが今の家族。たくさんいて、騒がしくて、寝不足の原因でもある。

だけど、どこか憎めない。楽しくて愉快な新しい俺の家族たちだ。

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