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18.頑張る理由 Ⅲ

私の実家は自分で言うのもなんだが、結構有名な剣の流派を代々受け継ぐ名家だった。

しかし、流星群が世界に降り注いだあの日から数十年。

世界は至る所で大きな変化が起きていった。

その変化は我が兵藤流にも大きな影響を及ぼした。

能力や道具(ギア)に頼らず、純粋な剣技と肉体を磨き、己の力だけで戦う方針の我が流派は、発達する能力技術や脅威を増す鉱獣の前に力及ばず。

門下生は減り、兵藤流は衰退の一途を辿っていった。




「私の母は体が弱くてな。私がまだ幼い頃に亡くなってしまったのだ。

夫婦の間に子供は私一人だけ。

女の私では流派を継ぐことはできず、このままでは兵藤流は潰えてしまうのです。」


「そんな…。」


「私に何か出来ることはないかと考えていたところ、この学校の噂を耳にしたのです。

全国から能力に秀でた強者たちが集まるこの学校で良い成績を残せば日本全国に名が知れ渡り、我が兵藤流の良い宣伝になるのではないかと。」


そうか。

彼女は家族の為に自分のできることをしようと、覚悟を持ってこの学園に来たんだ。


「私は上に行く為に出来ることはできうる限りなんでもやりたいのです。

どうか、これからご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします美月殿、いや、師匠!」


「なるほど。そのような殊勝な志を持っているのですから、あの強さも納得がいきます。

よろしい。毎日とはいきませんが、出来る時は稜君と一緒に稽古をつけてあげましょう。」


「えっと、これからよろしくね兵藤さん。」

()だ。先程試合をして剣を交わした仲だし、これからは兄妹弟子の関係だ。

兵藤さんなんて他人行儀な呼び方は変だろう。あと敬語もいらない。」


いきなり下の名前呼びは些か自分にはハードルが高い。


「じゃ、じゃあ、燕…。俺のことは稜って呼んで。」


少々照れて赤くなっていると、終業のベルが鳴り響いた。


「じゃあクラスに戻りましょうか。燕さんはまだ寝ていた方がいいでしょう。」

「そうします、師匠。」

「じゃあゆっくり休んでね燕。」


席を立ち、カーテンから出ようとする俺の袖を燕はそっと掴んだ。


「ん?どうかした?」


耳元に近づき、小声で。


「今朝は助けてくれてありがとう…。」

「!!!」


囁くように素直な態度でお礼を言う燕の姿に、何故か心が揺さぶられた。


「そっそれと!今度戦う時は貴様には負けないからな。首を洗って待っておけよ。

そっそれだけ伝えたかっただけだ。用は済んだ。とっとと行くがいい!」


どこか顔を赤らめていたように見えた燕は、言いたいことだけ言うと、布団を頭から被って早々と横になってしまった。


「どっ、どゆこと?」


訳がわからぬまま、俺は美月と保健室を後にした。


***


「はぁー…。なんか戻るの嫌だな。」


さっきの授業で美月が姿をみせたから、帰ったら質問攻めに合うことは間違いない。

それを思うと、基本人見知りな俺は今から気が重い。


「稜君、考えてることはだいたい察しがつきますが、これは多分避けては通れない問題だと思いますよ。」

「それはわかってるんだけどね。やっぱり緊張すると言うかなんというか。」

「これから稜君が進もうとしてる道はとても険しい道です。こんなことで尻込みしてたら、一生辿り着けませんよ。」

「うん…、そうだね。」


今になって思う。

さっきの勝負、燕は自分の負けだと言っていたが、それは結果だけみればの話。

内容をみれば、俺は燕に負けたのだ。手も足も出ずに。


「燕さんとの勝負のことを気にしてるんですか?」


基本美月姉さんに隠し事はできない。

俺が顔に出やすいタイプなのか、すぐに本心を見透かされてしまう。


「ちょっとね。みんなに特訓つけてもらったのに、何にもできなくて。」

「そうでしょうか?」

「そうでしょ、あの時美月姉さんが出てきてくれなかったらきっと…」

「稜君は少し、勘違いをしてるみたいですね。」


美月は歩くのをやめて、こちらを振り向く。

近づいてきたかと思うと、両手をそっと俺の顔に添え、顔を近づけてくる。


「美月姉さん?」

「私は稜君のなんですか?」

「なんですかって言われても。家族…とか?」


この状態でこの距離感は家族同士でも中々ないと思うけど。


「そう、家族です。それに貴方の能力でもあります。家族は助け合うもので、能力である私たち姉妹は、貴方の一部でもあるわけです。」

「う…うん?」


よく理解してなさそうな雰囲気を感じ取ったのか、顔に触れている美月の手に力が入り、顔を少しむぎゅっとされる。


「何が言いたいかというと、あれは私の勝利ではなく私達の勝利(・・・・・)ということです。」


美月は顔から手を離して、もう一度教室へと歩みを進める。


「剣術家にとって、刀は体の一部のようなもの。

燕さんも同じ考えだからこそ自分の負けだと思ったのでしょう。

それに、私があれだけ実体化して力を使えたのも、これまでの一年間、稜君が真面目に特訓したからゼストの量が増えた結果じゃないですか。」


あぁ、いつぶりだろうか。人に素直に自分の努力を誉めてもらえるなんて。

その瞬間、自分の心の奥底から何か感じたことのない感情が湧き上がってくる。

少し考えて、その感情がなんなのかわかった。

そっか…、俺、負けて悔しかったんだ…。

今までここまで本気で何かをやったことなかったから、気付かなかった。

これまで失敗した時と同じように、自分ができないことを当たり前だと思い込んで、諦めをつけていた時とは違う。

本気でやってきたからこそ、こんなに苦しく感じるのだ。


「貴方がしてきたことは決して間違いではないですよ。

ここまで言っても納得できないのなら、納得ができる勝ち方が出来るまでまたこれから精進すればいいだけのことです。

あの時力になると言ったんですから、いつでも頼ってください。

付き合いますよ、どこまでも…。」


「うん…、ありがとう美月姉さん。」


ふと前を見ると、だいぶ美月と歩く距離が空いていたことに気づいた。

でも、今はこのままでいい。

目に浮かべた少しの涙に気づかれたくなかったから。

でも大丈夫。

この涙はいつかは乾いて、また真っ直ぐ前を向いて歩ける時がきっと来る。

その時今よりもっと頑張って、美月姉さんと、

いや、美月姉さん達の隣に立って歩けるように努力しよう。


「稜く〜ん?そんなに遅いと置いてっちゃいますよー?」

「うん、今行くよ!」


呼ばれた方へ、俺は勢いよく駆け出した。

日々私の小説を読んでくださっている皆様にお知らせがございます。

活動報告でも先にお知らせさせていただいておりますが、今回の投稿を最後に、自分の生活の都合上投稿時間を12時から20時前後へと変更させていただきます。


急な変更になり、いつもお読みいただいてる皆様(多分ほぼいないに等しい)にはご不便をおかけしますが、何卒これからもよろしくお願いいたします。

                   六凰 采

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