17.頑張る理由 Ⅱ
「…ここか。」
やっとついた保健室の扉にノックをする。
・・・・・・。
「二人ともいるはずだよな?」
ドアに耳をつけ、中の様子を伺ってみる。
すると、微かに人の話し声が聞こえてくる。
どうやら兵藤さんは目を覚ましたようだ。
ガチャ…。
「しっ、失礼しま〜す。」
そっとドアを開け中を見渡すと、部屋の奥にカーテンで周りを囲んだベッドが一つある。
目を凝らしてみると、二つの人影が動いているように見えた。
「えっ…ちょっと、ここでですか?」
「いいじゃないですか…。ここには私たちしかいませんし…。」
話に夢中で俺の声に気付いてないようだ。
仕方なく、二人がいるであろうベッドのカーテンに手をかけた。
「キャーーーッ!!!」
カーテンを開けた途端、耳をつんざくような高音の叫び声が保健室に響き渡った。
理由は明白だ。
兵藤さんは、ベッドの上でワイシャツのボタンは全開。
おまけに胸に巻いていたのであろうサラシが緩みきって、高校生にしては大きい方であろう胸がほぼあらわになっていたのだ。
そんな時に同級生の男子がカーテンの中に入ってきたのだから、それはこうなるだろう。
だがどうしても一つ気になるのは、ベッドの隣にある椅子に腰掛けている美月も同じように着物がはだけ、サラシが乱れた姿になっているということだ。
「きっ貴様!どうしてここに!?なぜ急に入って…。」
「あら、稜君? お見舞いですか? でも、こんなタイミングで入ってくるなんて、いけない子ですね。」
取り乱しまくる兵藤さんとは対照的に、美月は大人の余裕からなのか口元に手を当て、クスクスと笑っている。
「ちょ、何やってんの二人とも!?なんで上着を…。」
「いいからとりあえず、出ていけえぇーーー!!!」
兵藤さんが投げた怒りが籠ったベッドの枕が顔面にクリティカルヒットし、俺は保健室の入り口のほうへとぶっ飛ばされた。
***
「全く貴様という奴は、何度私を辱めれば気が済むのだ。」
「ご、ごめんなさい。」
少しして落ち着いたら兵藤さんのベッドの脇で、美月と椅子を並べ、先程の受けた一撃の痛みに噛みしめながら話を続けた。
「それはそうと、美月姉さん。さっきは二人で何してたのさ?」
「あぁ、あれですか。あれは燕さんにサラシの正しい巻き方を教えて差し上げてただけですよ。
彼女の介抱をしてる時に気づいて、そのままだと解けやすいですし、何より間違ったやり方をし続けると将来的に胸の形が崩れる恐れがあったので、それで…。」
兵藤さんの方は視線をやると、上着を抑えながら顔を赤くし、俯いたままコクコクと頷いていた。
「お陰でいい勉強になった。今まではただキツく巻いて、胸が邪魔にならないことばかり考えていたからな。」
確かにあれだけ激しく動くのだから、あの胸の大きさだと鬱陶しくもなるのだろう。
ちらっと兵藤さんの胸に目をやると、一瞬で気づかれ、睨まれたので慌てて視線を逸らした。
「ところで、稜君は何しに保健室へ?」
「いや、ただちょっと二人が気になって…それで…。」
「「「・・・・・・」」」
三人の間に少し沈黙の時間が流れる。
二人が気になったのは事実だが、様子を見るという目的を果たした途端、やることがなくて気まずい雰囲気になってしまった。
何か話題はないかと考えている最中、意外にも兵藤さんが会話を切り出した。
「響八、今更だが、その…。色々とすまなかった。」
突然なんだ?
なんのことかわからず首を傾げる俺を他所に、彼女は話を続けた。
「美月殿に話は聞いた。貴様が噂されている女性たちというのは、貴様の能力よって生み出された美月殿を含めた姉妹たちであることを。
それならば噂の内容とも一致するし、仕方ないとも思える。
知らなかったとはいえ、色々誤解してしまってすまなかった。この通りだ。」
「ちょっと、頭あげてください。気にしてない、気にしてないから!」
わざわざベッドの上に正座し直して深々と頭を下げる彼女に対して、流石にそこまでしてもらわなくてもという罪悪感が勝ってしまう。
「寛大な措置に感謝する。それはそうと話は変わるのだが、美月殿に折り入って頼みがあるのだ。」
「なんでしょう?」
「はい。先程の手合わせで私、美月殿の剣技に感銘を受けまして。是非、私目を美月殿の弟子にして頂きたく…」
「いいですよ。」
即答!?
ってゆうか、俺の都合は?
「よろしいのですか!? ありがとうございます。
響八もこれから何かと迷惑をかけると思うが、何卒よろしく頼む。」
口を挟む間もなくとんとん拍子に話が決まってしまった。
「それにしても、私の剣技に惚れたとはいえ、先程負けた相手を邪険にせず、寧ろその技術を我が物にしようとは見上げた心意気ですね。
何が貴方をそうまでさせるのか、何か理由があるのですか?」
「ちょっと美月姉さん。あんまりプライベートに踏み込んだこと聞いちゃ悪いよ。」
「ぷっ、ぷら?すみません。それってどういう意味ですか?」
※今は関係ないことだが、美月姉さんは横文字に極端に弱い。
横文字どころか普段よく使う家庭用コンロなどがギリギリ使えるレベルで、他の機械という文明を受け付けない体質なのだ。
「いや、いいのだ響八。教えを乞う以上、こちらの事情もある程度お話しするのが筋というもの。
ここですべてをお話しいたします。」
真剣な表情になった兵藤さんは、自分の昔話を話し始めた。




