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15.交錯する覚悟 後編

突如何処からともなく現れた美月に驚き、兵藤は一旦距離をとった。

試合を見ていたクラスメイトたちもいきなり着物を着た女性が現れてざわついていた。


「何もないところからいきなり人が…。貴様、一体何者だ。」

「なんで出てきてんの?

助けてくれてありがとうなんだけど、色々ややこしいことになるから早く戻って!」


美月は慌てる俺の方へ黙って近づくと。


パシンッ!


俺は頬を叩かれた。

乾いた音が訓練場に響き渡り、着物美女の突然の行動を目撃した周囲は一瞬で静まり返った。

えっ、なんで?どうして叩かれたの?


「ちょっと! いきなり何してんの!?」

「何してるのはこっちの台詞ですよ。

稜君、あなたさっき彼女に攻撃するのを躊躇いましたね?

相手が女の子だからですか?それとも急に罪悪感が湧いたから?又は両方?

とにかく、あなたがしたことは戦いの場において、一番相手にしてはいけないことなのですよ?」


美月に諭されてやっと理解する。

自分が相手にしたことの意味を。

俺は真剣な兵藤さん相手に手を抜いたのだ。

覚悟だなんだと心の中では決心したつもりでも、そんなの口だけだった。

自分が急に恥ずかしくなる。


「ごめん美月姉さん。そしてありがとう。」

「その顔はわかった顔ですね。よかったです、伝わって。」


美月はいつものようにこちらに朗らかな笑顔を向けてくれた。


「おいっ、いつまで待たせる気だ!?」

「これは失礼。皆様お初にお目に掛かります。私は響八稜の能力であり、家族であり、姉の美月と申します。以後お見知り置きを。」

「意思を持つ能力だと!?そんなの聞いたことがない。」


今の美月の台詞は、美月が突然の出てきた時よりクラスを騒がせた。

「能力が喋るなんて!?」

「姉!?家族!? どういうこと?」


俺はこの時初めて知った。姉さんたちが日常生活で自分たちが能力体であるのを隠している理由を。

自分の意思を持ち会話できる能力はとても珍しいらしい。


「輪國先生。あの御仁はああ言っていますが、この前試合を続けてよろしいのでしょうか?」

「うーん、能力だって言われれば突然出てきたことに説明がつくし、いいんじゃないかしら!」


承諾軽っ!


「ありがとうございます。先生の寛大な措置に感謝いたしますわ。

それに燕さんと仰ったかしら?大変長らくお待たせしてしまって申し訳ございません。

ここからは私、美月がお相手をさせて頂きます。」

「ちょっと姉さん!? 姉さんが戦うの?」

「ええ、稜はゼストが切れないように一生懸命ゼストを練り上げてくださいね。」


いつのまにか出したはずの木刀は、美月が出てきてから美月の手元にあった。

木刀を片手に持った美月は兵藤の方はゆっくりと歩いていく。


「兵藤燕さん。この度は弟子兼弟が大変失礼を致しました。心よりお詫び申し上げます。

それと、結構な長話をしをしていたにも関わらず、攻撃してこない誠実さにも感服いたしますわ。」

「能力だと聞いていささか驚きはしたが、それ以上に、剣を手にした貴方の隙のなさに心底驚かされた。攻撃しなかったのではない、攻撃できなかったのだ(・・・・・・・・・・)。悔しいがな。」


少ない言葉数を交わすや否や、両者静かに構えをとる。


「おそらく貴方は私よりも遥かに格上だ。

だがしかし、それを理由に私は負けを認めたりはしない。

私にはこの学園で力を示し、果たしたい夢がある。

その夢を叶えるまで、決して誰にも負けるつもりはない!」


兵藤は喋り終わると、美月に向けて走り出す。

初撃は上段を打つと見せかけて手前で空振りさせ、猫騙しの要領でふぇいくをいれその勢いで身を低く屈める。

そこから逆袈裟斬り。

しかし、美月は軽く剣を動かして彼女の攻撃をいなす。


「まだまだっ!」


そこから兵藤は攻撃を繰り出し続ける。

だが、繰り出された攻撃は少しも危なげなく、余裕で受け切られる。

剣同士が当たるたび発する音だけが響く特訓場で二人の戦いに、俺だけじゃなく、全員が惹き込まれていった。


***


「はぁ…はぁ…。やはり今の私では手も足も出ないらしい…。」


しばらく続いていた二人の攻防は兵藤さんが息を整えるために一時中断された。


「そんなことはないですよ。体の動きといい剣捌きといい、いたる所にあなたがしてきた研鑽がみてとれて大変素晴らしい。

私も少し危なかったです。」

「よく言う。息一つ切らさず、初めて剣を交えた位置から一歩たりとも動いていないのにか?」


会話を交わしたあと、二人はそれぞれ静かに笑い合う。

二人は再び構えると、相手同士に視線を集中させていく。

側から見てもわかるほど、二人の集中力が高まっていくのがわかる。

みんな薄々気づき始めていた。

この勝負の終わりが近いことを。


「この一撃に、私の今の全てをかける!!!」

「いいでしょう、受けて立ちます。来なさい!!!」


兵藤はその場から高く跳躍すると、そこから下降する勢いを利用し、美月目掛けて切り掛かった。


「兵藤流天式(てんしき)翔波斬(しょうはざん)!!!」


兵藤の攻撃が地上に届くと、衝撃で大量の埃が舞い上がった。


「美月姉さん!」


時間が経って視界が開けていくと、互いに背を向け合う状態で静止する二人の姿があった。


「見事な一撃でした。まさか喰らってしまうとは思いませんでした。」


よく見ると、美月の着物の左袖が少し切れていた。

あの美月相手に一撃を入れるという大業を成したというのに、兵藤は少しも動かない。

しかし突然。


「……参り…ました。」


そう言うと、兵藤さんはその場で膝をついた。

力を使い切ったのか、さっきまで体を覆っていたゼストも今は見えなっていた。


「これにて勝負有り、ですね。」


そういう美月の剣の切先には、兵藤さんが身につけていた端末がぶら下がっていた。

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