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14.交錯する覚悟 前編

特別訓練場の中心、兵藤さんと一定の距離を空けて向かい合う。


「この特訓場はすごくて、特殊な技術で地形とか景色とか色々と変えられるんだけど、今回は何も設定なしでシンプルにこのまま戦ってもらうね。」


先生がシステムの調整をしている途中、兵藤が口を開いた。


「貴様、響八とか言ったな。ようやく今朝のあの一件に決着(けり)をつけることができる。覚悟しろ、不埒者め。」

「あの、兵藤さん?何か誤解されてるかもしれないけど、あれは単なる事故であって、別に兵藤さんに何かしようとしたわけじゃ…。」

「フンッ、確かにあの時は感情に任せて取り乱してしまったが、ゆくゆく考えれば私を助けようとして起きた不慮の事故といったところであろう。」

「そっそうなんですよ。いやー、わかってもらえたようでなによ…」

「しかし、私は貴様についてある噂を耳にした。」


晴れかけた疑いがまた雲行きを悪くしていく。


「貴様が複数の女性と関係を持ち、誑かしているクソ外道だという噂がな…。」

「あっ…。」


最悪だ。ここにきて、その噂が兵藤さんの耳に入ってしまったら確実に今朝のことがセクハラ目的だったと思われてしまう。


「差し詰め心配を装って近ずき、私を手篭めにするきっかけでも作ろうとしたのだろう。」


もうなにを言っても無駄な気がしてきた。

そんなことより、兵藤さん以外に妄想激しすぎない?


「しかし残念だったなぁ。あれしきのことで手篭めにされるほど、私は単純な女ではない!!!」


彼女は竹刀を構えると、顎を引き、視線をこちらに集中させてくる。


「よーし、それじゃあ行ってみようか! 今回のルールは単純にポイントを先に取った方が勝ちってことで。それでは対戦開始(バトルスタート)。」


先生が開始の合図を告げると同時に兵藤はこちらに向かって走り出す。


「ルールがポイント先取な以上、先手必勝だ!」


移動する最中、彼女は武器も含めて体全体にゼストを纏った。

ゼストを纏った瞬間速度が上がり、一気に竹刀のリーチが届く範囲に到達した。


「てやっ!」


素早く繰り出される上段からの一振り。

それを寸でのところで後ろに下がって躱わす。


「あっぶね!」


躱したあとも、彼女の攻撃は続く。

繰り出される攻撃のすべては一連の動作として一切無駄がなく、先ほどの上段から胴狙いの一文字。

そのあとは体の中心目掛けての突きなど、身体強化された素早い動きから繰り出される攻撃は気を抜くとすぐに喰らってしまいそうになるものばかりだった。


「中々やるな、私の連撃躱わすとは。だが、交わしてばかりでは私には永遠に勝てないぞ。」


確かに、兵藤さんの言う通りだ。このまま躱してばかりでは絶対に勝てない。体力にも限界があるし、現にさっきから竹刀の切先が体操服を掠めるようになってきている。


「チッ!」


幸いこれほど軽微な当たりでは、ポイント獲得条件には満たないらしく、端末に動きはない。

こちらもゼストによる身体強化は前の特訓で習った。それに身体能力も一年間の特訓のおかげで前とは比べ物にならないくらい向上している。

しかし、一年間やってきたのは基礎中の基礎である体力作りと、ゼストの簡単な操作だけ。このままでは肝心の決め手に欠ける。

考えろ!

他に俺ができることといえば…、そうだ!


「来いっ!木刀!!!」


バチンッ!


できた!? 美月姉さんの能力の一部。木刀の顕現。


「驚いたな。貴様も剣の使い手だったか。だったら同じ剣の使い手として、負けるわけにはいかぬ。」


計らずも彼女の闘争心に火がついたのか、攻撃の手はこれまで以上に激しさを増していく。

唯一美月姉さんに習った剣の型が役に立つと思って出してみたが、初めての実践ということもあり、兵藤さんの竹刀を受けるのが精一杯だ。


「どうした!?その木刀は飾りか?さっきまでと差して変わらんではないか!」

「このっ!」


簡単な煽りに誘われて、型関係なく力任せに相手の竹刀を弾き返した。


「くっ!」


兵藤の体が少しのけ反るようにバランスを崩した。

千載一遇の好機。

隙の出来たら胴体に一撃喰らわせれば俺の勝ちだ。


「そこだ!!!」


攻撃を打ち込もうとした手が、急に止まった。

頭によぎってしまったのだ。

今まで人を傷つけた経験のないことによる、躊躇い。

ここまでやってきて今更と思うかもしれないが、我に返って考えると、人を傷つけることは悪いことだ。

なんて甘いことを考えてしまった。


「もらったぁ!!!」


急に動きを止めた俺に、頭上から兵藤の渾身の上段が迫っていた。

すかさずガードを試みるが間に合わない。

頭にある二文字が過ぎる。


「負け…」


竹刀が当たる瞬間反射的に目を閉じる。

痛みを覚悟して待っているが一向にそれは来ない。

不思議に思いながら恐る恐る目を開けると。


「何やってるんですか?まったく。」


兵藤さんの一撃を片手に持った木刀で受けている美月の姿があった。

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