11.新たな道標
ホームルームが終わり、体育館に移動した俺たちは入学式に出席した。
校長やら来賓やらが長話をして、その前と後に立ってお辞儀して座っての繰り返し。
まだ昼前だと言うのに、春の陽気だったり緊張したりでかなり強めの眠気が襲ってくる。
なんとか意識を保ちながら入学式を乗り切った。
***
今日は入学式と軽い顔合わせのホームルームがメインで、学校は午前中までだ。
「じゃあみんなお疲れ様ー!また明日、気をつけて帰ってねー!」
先生はそれだけ言うと風のように颯爽と教室を出て行った…、かに見えた。
「あっ、そうそう。一つ忠告よ。この学校縄張り争いとか、上下関係はっきりさせたい子とか、とにかく血の気が多い子がたくさんいるから、気をつけて帰ってね。じゃ、生きてたらまた会いましょ?」
急に戻ってきたと思ったら、ひょっこり入口から顔だけ出してさらりと不吉なことを言ってまた去ってった。
去り際のサムズアップがなんだか腹立つ。
とにかく、もう今日は学校に用ないしさっさと帰ろっと。
学校を見て回りたかったけど、輪國先生の忠告が気になって周囲を警戒しながら壁を背に歩をすすめる。
べっ、べつにびびってるわけじゃないから。
「ねぇ、ちょっといい?」
「ひゃい!?」
突然背後から声をかけられ、咄嗟に変な声が出てしまった。
恐る恐る振り返ると、わざと着崩した制服を着こなした1人の女子生徒が立っていた。
うちの高校の指定の制服であるホワイトグレーのブラザーにチェック柄のスカート、それにネクタイをしてるから、ウチの生徒で間違い無いだろう。
「君、なんでここにいるの?」
なんでここにいるのって?どう言う意味だ?
「あの〜、ここってもしかして通っちゃいけない廊下だったりします? すみません、新入生なものでまだこの学校のルールとかよく知らなくて。」
「そうじゃなくて、なんでこの学校に入学して来たのかって聞いてるの。私、関わるなって言ったわよね?」
? 話が見えてこない。俺はなんで初対面の人にこの学校に入学して来たこと怒られてんの?
「えっ、人違いじゃ無いですか?俺、あなたみたいなギャルっぽい知り合いいないんですけど…。」
「ギャル…、あっそっか。」
彼女は少し首を傾げた後、何かに気づいた素振りを見せると、サイドテールのシュシュをとった後に懐からメガネを取り出してそれを掛けた。
「あの時はこの格好で行ったんだっけ。どう? これで思い出した?」
「あっ!」
セミロングの髪に縁の厚いメガネ。確かに見覚えがあった。
あの時はスーツ姿で髪色が今より明るくはなかったと思うが間違いない。
この人、姉さんが亡くなった時に知らせに来た同僚の人じゃん。
***
「改めて聞くけど、なんでこの学校入ったわけ?私、入ってくるなって言ったわよね?」
ここではなんだからと、人目のつかない校舎裏の陰に連れてこられて、壁ドンの状態でさっきの話の続きが始まった。
「えっと、あの時は姉さんが亡くなったって聞いた後、頭がボーッとしてたって言うかなんと言うか。
何を話したか、よく覚えてなくて。」
「よく覚えてないんだったら、なんでこの高校受けることになるわけ?」
「それは貴方が置いて行ったこの学校のパンフレットを見つけて。
ちょうど進路の話をするタイミングがあったので、ここにしようかなって…。」
話を進めていく程、彼女の顔は険しくなっていった。
「チッ、最悪。全部裏目に出てたってこと?私が会いに行ったのも、パンフレット持って行ったのも、全部…。」
俯き、少し落ち込む様子の彼女にこちらも質問してみる。
「あの、ちょっといいですか?」
「はぁ…、なに?」
イラつきながら聞き返す彼女に怯えつつ、質問を投げかける。
「貴方は、姉のなんなんですか?それに、なんで俺はこの学校に入って来ちゃいけなかったんですか?」
「それは…。」
質問の後、僅かにあった沈黙を破って彼女が何かを言おうとした瞬間、首に下げてあった指輪が光出した。
「それ以上はダメよ、光。」
会話を遮るように美月が出て来た。
出て来た美月の表情は、光と呼ばれた彼女と、同じでどこか神妙な面持ちに感じられる。
「どうして貴方がいるのよ美月!? まさか、あんた全部喋ったの?」
「落ち着きなさい。稜のもとにいるのは叶愛の意思で、この学校に来たのは、稜自身の考えよ。」
「美月姉さん、知ってるのこの人のこと?」
「この子は、遠野光。貴方のお姉さんの親友よ。そして、この学校の最高峰の実力者が集まる特級クラス、Sクラスの7人のうちの1人。」
叶愛姉さんの友達…。
姉さんは自分のことはあまり喋らない人だ。友達ぐらいはいると思ってたけど。
「そうよ、私はこの学園で理事長に次ぐ権力を持つ生徒のうちの1人。叶愛…、貴方のお姉さんと同じでね…。」
「姉さんと同じ…、ってことは、姉さんもこの高校の生徒だったの!?」
どおりでここの女子生徒の制服に見覚えがあるはずだ。
そうだ、確かに姉さんが同じ制服を着てた。
姉さんは家にいる時間が少なかった。だから制服姿も数えるぐらいしか見たことなかった。
だから気づかなかったんだ。
「本当に何も知らないのね、お姉さんのこと。
まぁ、何も知らないんだったらそのままの方がいいわ。そのまま余計なことはせずに、静かに三年間を過ごすことね。」
「ちょっとまって、それってどう言うこと?何か姉について知ってるんですか?」
この場を去ろうとする光を引き留め、問いただす俺を隣にいた美月は引き留めた。
「なんで止めるの?」
「貴方を守るためです。理由は今は詳しく言えませんが、これ以上は貴方に危険が及ぶ可能性がある。」
「そうよ、これ以上知りたいのなら、強くなりなさい。そして、上がって来なさい、Sクラスまでね。」
何がどうなってるかわからない。
でも、この学校に入学してなんの目標もなく毎日を過ごしていくんだろうと思っていた俺に、新たな風が吹き荒れようとしていた。




