護衛の仕事には危機感を持て 玖
「!」
政府の役人、と自称する人物に警戒心を強めた。
「反乱軍の一員とお見受けした 大人しく縄につくことをお薦めする」
二葉亭の顔が更に真剣味を帯び、険しくなる。
彼が近づくにつれ、彼女もジリジリと後退する。
「………あ?」
体にかかっていた圧力と息苦しさがなくなり、何が起こったのか、と虚ろな顔を上げ、直哉は視線を彷徨わせる。
男の足跡が直哉の目の前で止まった。
「……とはいっても、直哉をここまで弱らせるとはな」
許せんな、と怒りを感じさせる低い声に、直哉は体を強張らせるも、どこか聞き覚えがあった。
カツン、と靴の音がして、黒いスーツが目に入った。
ぽん、と頭に暖かい、重みのある何かが乗った。
「よくやった、直哉─────後は任せろ」
「かい、しゅー……さん」
彼は勝海舟。
優しい笑みに安心した直哉は今までにない極度の疲労からか、ゆっくりと目を閉じ、意識を遠ざけた。
「さて………じゃあ、闘るか?」
立ち上がった彼は笑っていた。
直哉に見せた、あの優しい笑みではなく、とても正義の味方とは思えない邪悪な笑みで。
変わりように二葉亭は顔を歪める。
「……思い出したぜ。『波動遣い』の勝海舟か」
「おや、俺のことを知っているとは、随分と名が売れたものだ」
「反乱軍じゃあ『政府での最上級危険人物』だとの噂だからな」
ドゴォオオオン!!!
「「おっ/はっ?」」
ピリピリした雰囲気の中、壁が壊れ、そこから溢れるように殺気が部屋を支配する。
一般人が居れば、間違いなく発狂、失禁してしまうだろう。
それ程に強大で、恐ろしい。
「おらあああ!!まだまだまだ踊れんだろうが中岡よおおお!!!」
「しつっ……こいな、貴様は!!」
「慎太!」「高杉さん……」
「ん?」「お?」
お互いに傷を作り、壁を破り、乱入してきたのは中岡と高杉。
「海舟さん!?どうして此処へうおっ!?」
中岡が勝が居ることに気を取られて居る隙に、高杉がその首を刈ろうとしていた。彼は愉快そうに喉を鳴らす。
「ちっ」
「ち、じゃねぇんだよ……!!」
「慎太、手伝おうか」
ポンと中岡の肩に手が置かれた。彼の後ろから勝が手を突き出して、そのまま前へ進む。
同じようにして二葉亭が高杉の前に現れ、手を突き出した。
ドオオオオオン!!!
その瞬間、互いの力が拮抗するように、大気が震え、波を打ち、波紋のように、周囲に広がった。
それにより、勝側と二葉亭側は押されるように後ろへと跳ぶ。
「……成る程 似たタイプの異能か」
「…………っらしい、な……っ、」
手首を回して、まだ余裕そうな勝と違い、二葉亭は息が上がってきている。
つい先程の直哉戦がの疲労が今きているのか、もしくは……
「(異能の副作用か) ……海舟さんはまだ平気で?」
「あぁ、まだいけるし、薬も一応飲んだ」
そう言って、敵と見なしている2人に向かって、手を軽く広げたまま後ろへと振りかぶる。
「おい、イケるか四迷」
「ふ……っ。…っんとに人使い荒れぇ……!」
懐から手の内に収まる、四角く平たいケースを取り出し、白い粒のような錠剤を1つ出し、口へ放り込み、飲み込む。
「よっ、と」
軽いかけ声と共に振りかぶっていた腕を前へと振った。
すると、空気が歪み、揺れて、うねるように空気の塊の波が、反乱軍の2人へと襲いかかる。
それを再び二葉亭が広げた掌を突き出し、打ち消す。
ひゅ、と彼女の喉が鳴って、動きが止まった。高杉は勝へと走り、1人となった二葉亭に中岡が瞬時に間合いを詰めて、刀を振る。
二葉亭は1つ舌打ちをすると、自身の異能を発動させた。ピタリと中岡の動きが止まり、
「ぐっ!!」
刀を持つその腕に二葉亭は回し蹴り。刀が飛び、宙でグルグルと回転して、カランと地を滑った。
更にその顔目掛けて前蹴りを繰り出す。
バシッ、と音がした。
「っはあ……!?」
足が動かなかった。何故か。その足が掴まれていたからだ。
「人の刀を足蹴にするんじゃねぇよ」
荒く呼吸をする二葉亭にギラリと睨みをきかせる中岡は低く呟く。
素早く軸足を蹴ると、掴んでいた足を引く。体制を崩した彼女に向かって、倒れ込むように腹部へ肘を入れ込んだ。
「げっ……!?」
目を剥き、口から胃液を吐き出し、苦痛と残る吐き気に歯を食いしばる。両手を動かし、彼女は中岡の頭を掴む。
「くた………ば、れやっ……!」
「貴様が……、………!」
言いかけて、目を見開く。目の前には嗤っている女。頭を掴む両手を剥がして彼女から距離を取ろうとした、が──
ボンッ!!
右腕は僅かに遅かった。
「~~~~~~っ!!!」
「慎太ぁ!!」
遠くで勝の叫び声が聞こえた。
右腕がバラバラの肉片へと変わり、はじけ飛んで、中岡は勿論、その近くに居た二葉亭にもパタパタ、ボトボト、血肉が降りかかる。
「ザマァ……、み、」
ぜぇ、ぜぇ、と苦しそうに空気を吸い込むも、相手を嘲ることを忘れない。そんな彼女から今度こそ離れる。
勝が高杉を振り払ったのか、駆けつけて体を支えた。
「大丈夫か?大丈夫じゃないな?
痛いか?痛いよなそりゃあ」
「焦りすぎですよ」
自問自答している姿に激痛を耐えながら苦笑いする中岡。
高杉はいつの間にか二葉亭の傍にいた。
「あーあー……。中岡の右腕が……壊すんじゃねーよ、俺の獲物だぞ、四迷」
「無茶、言う……な、…戦、とー……きょ、」
ぐい、と腕を引かれて、フラフラと起き上がる二葉亭。高杉を青ざめた顔で睨んでいるが、それを無視する彼。
「まぁいい、痛み分けだ。腕1本は負けてくれや」
「ふざけ……」
笑んでいる高杉に能力を発動させようとする勝を止めたのは中岡。残った左腕で制した。
「下がってくれるのなら良し……。ここで打ち止めにしましょう、海舟さん」
「だが、」
何かを言おうとする勝だが、血が流れ、顔が青ざめてきている中岡を見て、悔しそうながらに殺気を消した。
「賢明だ。お前、名前は?」
獲物を見つけたと言わんばかりの獰猛な笑みで問う高杉、勝は睨んでいたが、少し後に口を開いた。
「………勝、海舟」
「カツカイシュー……か。…覚えた。誇りに思え、俺が殺してやるぜ」
「抜かせ小童、牢にぶち込んで殺るから首でも洗っていろ」
「(文字が)」
挑発のように不敵に嗤った勝に、高杉もニィ、と笑う。
「そうだよなぁ、じゃねぇと愉しくねぇよなぁ? 見込みあるぜ、保証してやる」
「おら、行くぞ」と踵を返す高杉に二葉亭は顔を青ざめたまま彼に続こうとして、その足を止めた。そして振り向く。
その行動に不思議がりながらも警戒する2人、高杉も「どうした」と足を止め、声を掛ける。
彼女の目線の先には気絶している直哉の姿。
「……………ふん」
不機嫌そうに、でもほんの少し楽しそうに鼻を鳴らすと、つい、と彼から目を離し、高杉の後を追っていった。
反乱軍による奇襲はこれで終わりを迎えた。




