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ヒステリー・パニック!  作者: シュガームーン
14/17

護衛の仕事には危機感を持て 玖


「!」


 政府の役人、と自称する人物に警戒心を強めた。


「反乱軍の一員とお見受けした 大人しく縄につくことをお薦めする」


 二葉亭の顔が更に真剣味を帯び、険しくなる。

 彼が近づくにつれ、彼女もジリジリと後退する。


「………あ?」


 体にかかっていた圧力と息苦しさがなくなり、何が起こったのか、と虚ろな顔を上げ、直哉は視線を彷徨わせる。


 男の足跡が直哉の目の前で止まった。


「……とはいっても、直哉をここまで弱らせるとはな」


 許せんな、と怒りを感じさせる低い声に、直哉は体を強張らせるも、どこか聞き覚えがあった。


 カツン、と靴の音がして、黒いスーツが目に入った。


 ぽん、と頭に暖かい、重みのある何かが乗った。


「よくやった、直哉─────後は任せろ」


「かい、しゅー……さん」


 彼は勝海舟。

 優しい笑みに安心した直哉は今までにない極度の疲労からか、ゆっくりと目を閉じ、意識を遠ざけた。




「さて………じゃあ、闘るか?」


 立ち上がった彼は笑っていた。

 直哉に見せた、あの優しい笑みではなく、とても正義の味方とは思えない邪悪な笑みで。


 変わりように二葉亭は顔を歪める。


「……思い出したぜ。『波動遣はどうつかい』の勝海舟か」

「おや、俺のことを知っているとは、随分と名が売れたものだ」

「反乱軍じゃあ『政府での最上級危険人物』だとの噂だからな」


 ドゴォオオオン!!!


「「おっ/はっ?」」


 ピリピリした雰囲気の中、壁が壊れ、そこから溢れるように殺気が部屋を支配する。

 一般人が居れば、間違いなく発狂、失禁してしまうだろう。

 それ程に強大で、恐ろしい。


「おらあああ!!まだまだまだ踊れんだろうが中岡よおおお!!!」

「しつっ……こいな、貴様は!!」

「慎太!」「高杉さん……」

「ん?」「お?」


 お互いに傷を作り、壁を破り、乱入してきたのは中岡と高杉。


「海舟さん!?どうして此処へうおっ!?」


 中岡が勝が居ることに気を取られて居る隙に、高杉がその首を刈ろうとしていた。彼は愉快そうに喉を鳴らす。


「ちっ」

「ち、じゃねぇんだよ……!!」

「慎太、手伝おうか」


 ポンと中岡の肩に手が置かれた。彼の後ろから勝が手を突き出して、そのまま前へ進む。

 同じようにして二葉亭が高杉の前に現れ、手を突き出した。


 ドオオオオオン!!!


 その瞬間、互いの力が拮抗するように、大気が震え、波を打ち、波紋のように、周囲に広がった。

 それにより、勝側と二葉亭側は押されるように後ろへと跳ぶ。


「……成る程 似たタイプの異能か」

「…………っらしい、な……っ、」


 手首を回して、まだ余裕そうな勝と違い、二葉亭は息が上がってきている。

 つい先程の直哉戦がの疲労が今きているのか、もしくは……


「(異能の副作用か) ……海舟さんはまだ平気で?」

「あぁ、まだいけるし、薬も一応飲んだ」


 そう言って、敵と見なしている2人に向かって、手を軽く広げたまま後ろへと振りかぶる。


「おい、イケるか四迷」

「ふ……っ。…っんとに人使い荒れぇ……!」


 懐から手の内に収まる、四角く平たいケースを取り出し、白い粒のような錠剤を1つ出し、口へ放り込み、飲み込む。


「よっ、と」


 軽いかけ声と共に振りかぶっていた腕を前へと振った。

 すると、空気が歪み、揺れて、うねるように空気の塊の波が、反乱軍の2人へと襲いかかる。

 それを再び二葉亭が広げた掌を突き出し、打ち消す。


 ひゅ、と彼女の喉が鳴って、動きが止まった。高杉は勝へと走り、1人となった二葉亭に中岡が瞬時に間合いを詰めて、刀を振る。

 二葉亭は1つ舌打ちをすると、自身の異能を発動させた。ピタリと中岡の動きが止まり、


「ぐっ!!」


 刀を持つその腕に二葉亭は回し蹴り。刀が飛び、宙でグルグルと回転して、カランと地を滑った。

 更にその顔目掛けて前蹴りを繰り出す。


 バシッ、と音がした。


「っはあ……!?」


 足が動かなかった。何故か。その足が掴まれていたからだ。


「人の刀を足蹴にするんじゃねぇよ」


 荒く呼吸をする二葉亭にギラリと睨みをきかせる中岡は低く呟く。

 素早く軸足を蹴ると、掴んでいた足を引く。体制を崩した彼女に向かって、倒れ込むように腹部へ肘を入れ込んだ。


「げっ……!?」


 目を剥き、口から胃液を吐き出し、苦痛と残る吐き気に歯を食いしばる。両手を動かし、彼女は中岡の頭を掴む。


「くた………ば、れやっ……!」

「貴様が……、………!」


 言いかけて、目を見開く。目の前には嗤っている女。頭を掴む両手を剥がして彼女から距離を取ろうとした、が──


 ボンッ!!


 右腕は僅かに遅かった。


「~~~~~~っ!!!」

「慎太ぁ!!」


 遠くで勝の叫び声が聞こえた。

 右腕がバラバラの肉片へと変わり、はじけ飛んで、中岡は勿論、その近くに居た二葉亭にもパタパタ、ボトボト、血肉が降りかかる。


「ザマァ……、み、」


 ぜぇ、ぜぇ、と苦しそうに空気を吸い込むも、相手を嘲ることを忘れない。そんな彼女から今度こそ離れる。

 勝が高杉を振り払ったのか、駆けつけて体を支えた。


「大丈夫か?大丈夫じゃないな?

 痛いか?痛いよなそりゃあ」

「焦りすぎですよ」


 自問自答している姿に激痛を耐えながら苦笑いする中岡。

 高杉はいつの間にか二葉亭の傍にいた。


「あーあー……。中岡の右腕が……壊すんじゃねーよ、俺の獲物だぞ、四迷」

「無茶、言う……な、…戦、とー……きょ、」


 ぐい、と腕を引かれて、フラフラと起き上がる二葉亭。高杉を青ざめた顔で睨んでいるが、それを無視する彼。


「まぁいい、痛み分けだ。腕1本は負けてくれや」

「ふざけ……」


 笑んでいる高杉に能力を発動させようとする勝を止めたのは中岡。残った左腕で制した。


「下がってくれるのなら良し……。ここで打ち止めにしましょう、海舟さん」

「だが、」


 何かを言おうとする勝だが、血が流れ、顔が青ざめてきている中岡を見て、悔しそうながらに殺気を消した。


「賢明だ。お前、名前は?」


 獲物を見つけたと言わんばかりの獰猛な笑みで問う高杉、勝は睨んでいたが、少し後に口を開いた。


「………勝、海舟」

「カツカイシュー……か。…覚えた。誇りに思え、俺が殺してやるぜ」

「抜かせ小童こわっぱ、牢にぶち込んで殺るから首でも洗っていろ」

「(文字が)」


 挑発のように不敵に嗤った勝に、高杉もニィ、と笑う。


「そうだよなぁ、じゃねぇと愉しくねぇよなぁ? 見込みあるぜ、保証してやる」


 「おら、行くぞ」と踵を返す高杉に二葉亭は顔を青ざめたまま彼に続こうとして、その足を止めた。そして振り向く。

 その行動に不思議がりながらも警戒する2人、高杉も「どうした」と足を止め、声を掛ける。


 彼女の目線の先には気絶している直哉の姿。


「……………ふん」


 不機嫌そうに、でもほんの少し楽しそうに鼻を鳴らすと、つい、と彼から目を離し、高杉の後を追っていった。






 反乱軍による奇襲はこれで終わりを迎えた。


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