護衛の仕事には危機感を持て 漆
投稿しました。
次回の投稿は未定です。
どうぞお楽しみ下さい。
「てめえっ!!!」
地を蹴れば、すぐに相手の傍まで寄ることが出来た。
相手が驚いているのがよく分かった。
その顔目掛けて拳を振るうのと、相手が防御の為に腕を上げたのがほぼ同時だった。
骨肉の殴った時の鈍い音がするが、今は気にも止めない。
───今、俺はとにかく二葉亭に1発入れてやりたいから
あいつは横へと吹っ飛び、空中で体をひねって床へと着地。
その顔に先程までの余裕ある勝ち気な笑みはなく、険しく油断ない表情に変わっている。
「(異能持ちか) ……成る程」
しゅっ、きゅっ、と二葉亭は藍色の手袋をつけ始めた。
俺は顎を引く。
「ナメてかかると返り討ちになる、か……。
………面白ぇ」
「!」
ゾクゾクと背筋に走る悪寒。
怖い、凄く怖い。
あ、手が震えてるや……
………でも、俺がやんないと
「(さっきは気が動転してたけど、よく考えてみれば中岡さん達にも敵が現れているのかもしれない)」
俺がやんないと
「ならオレは───お前を全力でねじ伏せる」
愉快そうに、あいつは笑う。
来いよ、というようにクイ、と人差し指を曲げる相手に、俺は覚悟を決めて走った。
直哉は再び飛び込んで右拳を振り抜く。二葉亭はそれを逸らすように左手を添えて、懐に潜り込む。
「正面からの突撃、」
ズドドッ!
彼の腹部に数発の拳が入る。
思わずの腹への激痛に目を剥いた。
「げほっ……!?」
「戦闘じゃあ禁忌だ」
後ろへとよろめく直哉に二葉亭は一歩前に出て、フック気味に右拳を突き出す。相手の左頬を捉えたが、彼の戦意は喪失しない。そのままその手首を掴むと引き寄せて頭突きを繰り出した。
「つっ!!」
今度は二葉亭がグラリと揺れたがほぼ僅かな揺れ。
直哉の前に出る勢いをそのまま利用して、彼に足を掛けて、倒れる顔面に向かって膝を入れる。
ゴッ!
鈍い音がした。
……にも関わらず、彼は地面に手をつくと逆立ちの姿勢で腰をひねって蹴りを入れた。
これも防ぐ二葉亭。ダメージ軽減の為に後ろへと跳ぶ。
「(頭蓋骨、粉砕するつもりで入れたんだが……)」
ズザッ
地面にブレーキをかけ、更に距離を取った後、相手を見れば、鼻どころが痣も傷も無い、少し汚れただけのほぼ無傷の状態。
彼女は思わず目を見開いた。
「(力が無いとはいえ、鍛えているから一般人くらいは余裕で素手でヒネり潰せるんだがな……)
………相手が異能持ちとはいえ、少しヘコむな」
そう言葉で呟くも顔では不敵な笑みを浮かべる二葉亭を、紅眼で睨んだ後、彼は三度突進。
二葉亭は興味を失ったような目でその様子を見た。
「成長しねぇなぁ」
ギリギリまで引きつけ、相手が拳を振りかぶった瞬間に合わせて、自身も動こうとした。
でも無理だった。
「っな……!?」
目の前から少年が消え、背後でジャリ、と地を踏む音が彼女の耳に響いた。
「速っ…!?」
「フェイントは反則じゃないだろ?」
振り返り、迫る拳を両腕で上半身を守るように体の前に出し、受ける。
メキ、と骨が軋む音がして、彼女は後ろへ跳ばずとも吹っ飛ばされた。
地面に足をつき、削るように後退していく。彼女の顔は痛みに歪んでいた。
ビリビリと衝撃に震える両腕を振りながらも、頭の中では疑問が支配していた。
「ってぇ……!
(初擊より相当力上がってねぇか? 身体強化系統の異能なのは間違いないが何が条件で……)
……ん?」
ふと相手を見れば、体から立ち上がる透明なオーラのようなものが見えた気がした。なんだ、と警戒していれば、
「なんで、」
「ん?」
「なんで、殺したんだ」
問いかけられていると気付き、警戒を緩めると、帽子を一度外してまたかぶり直した。
「なんで、か……。まあ、上からの命令だったってのが答えだな。殺害対象に情けをかける義理もねぇし」
「殺害対象……?」
訳が分からない、というように眉をひそめる直哉に二葉亭は説明を付け加えた。
「オレが殺した奴ともう一人……。お前らと同じ護衛に付けられたスーツの奴な。
そいつは今頃伊奈が……。ああ、あの金髪チャラ男の奴な。
そいつが殺す予定だが……。あの女好きのことだ……大和撫子の女にしか目がいかないだろうよ」
「……反乱軍は、そんな簡単に人を殺すのか」
「反乱軍と人殺しの集団を一緒にすんじゃねぇよ。組織にとって必要だからやることだ」
「っ!」
拳を握り締めた。ギリ、と歯が軋む音がする。
「必要だったら人を殺しても良いと思ってんのか!!」
「甘いな。こんな御時世じゃ、結局殺るか殺られるかだぜ? そんな世界に今、お前は足を突っ込んでんだよ。ま、敵に情けをかけるのも得策じゃねぇしな」
「っ……! でも、それでも…、」
その世界に居るからこそ言える言葉に何も言えなくなる彼。
どうしても認めるのは嫌で、認めてしまえば自分を失うような、今までのことを否定してしまうような気がして、
「殺していい理由にはならないだろうが!!」
絶叫と共に再び二葉亭へと駆ける。
ぶつかった。
直哉の異能『自己を熱望せよ』
自身の感情、思いによって様々な恩恵を得る能力である。
その思いが強く、純粋であればある程、それに比例して恩恵は限界無しに強まっていく。
『怒り』は攻撃力全般に。
「(こいつっ……!)」
二葉亭が持っていたナイフを弾丸の如く、直哉の額目掛けて投げつけた。
キュン、と空を瞬く間に駆け、見事命中。
頭がガクンと後ろへと倒れた。
「(殺ったか……?)」
手応えを感じてそう思うも、
「…………ザッ………………ンな…………」
『危機感』は防御力全般に。
「フッッザケンなぁぁああ!!!」
「っ!?(ナイフが通らねぇ!?)」
「あああああああああああ!!」
直哉の能力は人の持つ思いによって上下される不安定なもの。
殴りかかる直哉。
彼女は自分より遥かに強い。
だからこそ『危機感』は常に、油断もしない。
───それはナイフも弾く程に。
「『陽炎』」




