古代竜狩り 53
「よーし、それじゃあ運がいいままさくっと先へ進みましょうー!」
恐ろしく前向きというか無理矢理なマヤのその言葉を聞き、ジュラードはいっそうぐったりした様子になりながら「あぁ……」と力なく返事をする。
しかし正直こんな地中深くに長時間いると普通なら気が狂いそうなものだが、マヤが無理矢理にでも場の雰囲気を明るくするのでどうにか精神を病まずにすんでいるのかも……と、ジュラードはそんな事を密かに思った。
そう考えると、マヤによる元気の押し売りもありがたいものなのかもしれない。
「ふふ……マヤの言うとおりかもな。運がいいうちに進んだ方がいいかも」
ローズも笑いながらそんな事を隣で言うので、ジュラードは内心で彼女も同じ事を思ったのだろうかと思いながら頷いた。
その時、坑道内を不吉な地響きの音と共に、僅かだが揺れが襲う。足元の僅かな揺れと共に頭上からパラパラと小さい岩壁の欠片が落ちてきて、ジュラードは思わず「うわっ!」と小さく声を上げた。
皆その場で緊張した面持ちとなり反射的に身構えたが、しかし幸いにも揺れは直ぐに収まる。
「きゅ、きゅいいぃー……」
暗い地下内での地震は無条件に恐怖を感じるが、とくにうさことジュラードは足元の崩壊で落ちた経験から、皆はよりいっそう揺れに敏感になっている。
二人……いや、一人と一匹は揺れが収まっても蒼白な顔色でしばらくその場に硬直していた。
そんな彼らを横目で心配しつつ、揺れの収まりと周囲の安全の確認をしたローズが、皆に語りかけるように口を開く。
「……驚いたな。また地震か?」
隠し切れない不安を滲ませたローズの声に、マヤが「かしら」と返事を返す。するとウネが直後にこう口を開いた。
「いえ、ただの地震ではない。遠くからドラゴンの声が聞えた……それが原因だと思う」
「ドラゴン?」
ジュラードの疑問の声に、ウネは無表情に「そう」と頷く。
「あぁ、ドラゴンが暴れた結果に揺れてるってわけね」
「怖いなぁ…」
マヤがウネの返事に言葉を続けると、ローズが苦い顔をしてそう小さく呟いた。そんなローズをフェイリスが楽しそうに眺めている傍で、マヤが考える表情でウネに声をかける。
「ねぇウネ、そのドラゴンの声……っていうか、気配? そういうのあなたならどこまでわかる?」
マヤのこの問いに、ウネは小さく首を傾げながら「どこまで、とは?」と問い返した。
「えぇと、具体的にどこら辺にいるとかこの近くだとかもっと下のほうだとか……そういうことよ。あなたならそういうの、アタシたちよりはよっぽど詳しく探れそうじゃない」
マヤの説明を聞いて、今度はウネが考えるように眉根を僅かに寄せてしばらく沈黙する。そんなウネの様子を、ジュラードたちは何となく喋ると邪魔になりそうなので無言でそっと見守った。
そうして数秒後、ウネは「今の一瞬ではそこまで詳しい事はわからなかったけども」と口を開く。
「でも大体はわかるかもしれない……今の揺れの発生源はもう少し地下で、方向的にはあっち。揺れを起こしたドラゴンはかなり大きいと思う」
「それはいいわね。大きければ大きいほど歓迎よん、こっちとしては」
ウネが進行不可能な壁の方向を指差しながら報告すると、恐いもの知らずなマヤらしい返事が返された。
「ついでにドラゴンの種類はわかんないかしら。具体的にはヴォ・ルシェかどうか、って事なんだけど」
「……さすがに今聞えた声だけじゃそこまでは私も判断出来ない。もう少し近くで、声以外の気配とか感じられたらわかるのだけど……」
マヤの無茶要求にも高確率で応えてくれるチートすれすれな万能ウネにも、一応限界というものはあるらしい。それを改めて知り、ジュラードは何故かちょっとほっとした。
そしてほっとしたついでに、彼は気づく。
「ん? そういえばウネって……なんかこう、便利な移動術使えなかったか? 名前忘れたけど、ほら……」
ジュラードのその言葉に、マヤは「空間転移?」と返す。そういう名前だったかはよく覚えてないジュラードだったが、「多分それ」と返した。
「それがどうかした?」
「どうかしたって……それ使えば、昨日わざわざこんな恐い地下で寝る羽目にならなくてすんだんじゃないか?」
ジュラードのその言葉に、マヤは「そこに気づくとはなかなか賢いわね、ジュラード」と返す。褒められたのか何なのかわからないが、しかしジュラードはマヤのその返事に血相を変えた。
「おい、それどういうことだ! マヤ、お前それ気づいてたんなら言えよ!」
ウネのその術を使えば、やはり一旦地上に出ることも可能だったということを知り、ジュラードは怒った様子でマヤに詰め寄った。
「昨日のあの恐怖の一夜はなんだったんだ! 無駄に恐い思いしたってのか?!」
するとローズも「え、もしかして普通に外出れたのか?」と、こちらも今それに気づいた様子でマヤに視線を向ける。
マヤは涙目になりそうなジュラードに冷静な表情で「まぁまぁ落ち着きなさいよ」と返し、こう彼に説明した。
「そうね、精神を鍛える一種の修行をしたのよね、昨日は!」
「そんな修行いらない! 勝手に修行させるなよ!」
本気でキレそうな剣幕のジュラードを見て、マヤは少し笑った後に「冗談よ」と返す。だがジュラードの不信と怒りの入り混じった表情は変わらず、マヤはウネを見てこう言った。
「アタシはそこまでその術に詳しくないんだけど……でも多分無理なんじゃないかな」
「え、無理?」
今度は『どういうことだ』といった表情で自分を見てきたジュラードに、マヤはウネを見たまま「便利だけど万能じゃないのよね」と言った。
まるでウネのことを言ってるようなマヤの返事に、ジュラードは困惑した表情で、今度はウネの方を見る。するとウネは彼の視線に気づいてか、こう説明した。
「実は彼女の言うとおり……空間転移は転送先を何らかの形でイメージ出来ないと、望む場所には転送出来ない術なの。こういう周囲の変化に乏しく、特徴も少ない閉鎖的な場所への転送は失敗する確率が高くなるので危険……だからあまりやらない方がいい」
「? ……つまりどういうことだ?」
ジュラードが首を傾げると、再びマヤが口を開く。
「つまり地上へは魔法で戻れても、またここへ戻ってくるのは難しいってことよ。下手したら全然違う階層に飛ばされるかもしれないってことー」
「え、なんで? よくわからん……」




