古代竜狩り 54
首を傾げたままのジュラードの様子に、マヤは「あんたって閃きはいいけど察しは悪いわね」とひどい事を言う。そしてこう説明を付け足した。
「いいジュラード、今アタシたちはここまでの道のりで迷わないように目印残しながら進んでるわよね?」
「え、あぁ……」
マヤの言うとおり、同じ場所を行ったり来たりしないように壁に印をつけたりして目印を残しながら自分たちは進んでいるわけだが、その確認を今更して何だというのか……そんな表情でジュラードはマヤを見返す。
マヤはジュラードの表情と視線の意味を理解しながら、「じゃあ続けるわ」と言った。
「つまり目印を順番に辿っていけば、ここから地上へ戻ることも、またここへ戻ってくること も出来るわけよね?」
「……そういうことだろう?」
「逆に言うと、どうして目印付けて進まなきゃいけなくなってるわけ?」
「え……だって目印ないと、ここがどこだか全然わからないし……暗いし、変わり映えしない光景ばっかり続くし、元々の目立つ目印もないから……」
「そうそう、そこなのよ」
「……?」
眉根を寄せて『どういうことだ?』という顔をするジュラードに、マヤは『まだわかんねぇのか』とでも言いたそうな溜息を吐く。そして説明を続けようとした時、それより先にウネが口を開いた。
「空間転移は、通常の術者なら転送したい場所の風景を頭の中でイメージするの。そのイメージが明確で、かつ正確なものであるほど目的の場所への転送は確実になる。私の場合はこの通り目が見えないから、場所のイメージは難しい……代わりに目で見る以外のその場所の雰囲気を思い出してイメージしている。空気や匂いやマナの感じ、音……とにかくそういうもので転送したい場所を決めているの」
ウネの静かな声の説明に、ジュラード以外も真剣に耳を傾ける。
「でもそのイメージがこういう場所じゃ難しい……洞窟とかこういう入り組んだ坑道とかは、正確な座標を定める事が困難なの。目で見る以外の情報も、こういう場所じゃ限られているから……」
そこまでウネが説明をすると、やっとジュラードも大体話が理解できたようだった。
そしてローズも話を理解できたようで、彼女は驚いた様子で「それは知らなかった」と呟いていた。それを聞き、思わずジュラードはこう言う。
「……お前が知らないのはどうなんだ? 魔法、使えるんだろ……?」
「え、使えるけど……正直、まだよくわからないことの方が多いからなぁ。私ってそんな頭良くないから、マヤに説明されても一度には覚えきれないし……」
ローズののほほんとした笑顔の返事に何か呆れつつ、ジュラードは「とにかくダメなのはわかった」とマヤたちに言葉を返す。
「今の説明で諦めがついた……」
「うふふ、そうがっかりしないでよジュラード。戻ってくるのは難しいけど、つまり完全に用が済んで地上へ帰るって場合はウネの魔法も役に立つんだから」
肩を落として暗い表情をするジュラードに、マヤが励ますようにそう声をかける。まぁそれは確かにそのとおりかもしれないので、ジュラードは僅かに顔を上げて「わかった」と頷いた。
下層へ進むに連れて、魔物と遭遇する頻度が高くなっているように思える。
それは気のせいじゃなく、今もジュラードたちは出発を再開させてから本日五度目の魔物との戦闘へと入ろうとしていた。
『キャシャアアアアァアァッ!』
好戦的な雄叫びを上げながら、前方の闇より半竜の魔物が複数迫り来る。
先頭のローズが「気をつけろ!」と叫び、ジュラードはそれに返事をする代わりに戦闘の準備へと入った。
「はあぁっ!」
『ギャオオォォオッ!』
素早く剣を抜いたローズがすれ違い様に一匹を切り倒し、そのわきを先行して進んでいたもう一匹の半竜がすり抜けていく。
「一匹いった! 頼むぞ!」
背後に目をやることなくそう叫んだローズは、団体で襲い掛かってきた残る半竜へ走っていた。
(数は1、2、3……6匹)
マヤの照らす明かりで素早く目の前の敵の数を把握しながら、ローズは剣を握りなおす。
急速に距離を詰めて、二匹の半竜がこちらへと迫っていた。
一匹は長い金属の棒のような凶器を持ち、もう一匹は金属と石を組み合わせて作った鈍器のようなものを持っている。武器を持つこと自体魔物には珍しいが、人のように道具を作る知恵があることはひどく驚く事実に思えた。
半竜は魔物というより、人との戦闘のように考えて動いた方がいいかもしれない……そうローズが考えた直後、半竜の持つ金属の棒が闇を抜けて、槍のようにローズへ向けて突き出された。
「っ……!」
咄嗟にローズは自分の右腕で、狙われた胸を庇う。
金属の切っ先が腕の皮膚を突き破って痛みと共に鮮血が滴ったが、直ぐに棒は引き抜かれる。そして半竜の濁った雄叫びのような悲鳴。それらの直前に自分のわきを疾風のように何かがすり抜けるのを、ローズは視界の端に入れていた。
「援護いたします、ローズさん」
その言葉をローズへ告げたのはフェイリスで、ローズのわきをすり抜けて飛び出した彼女は、その勢いで放った強烈な蹴りの一撃で、ローズを攻撃した半竜を吹き飛ばして昏睡させたのだった。
ローズは短く「助かる」と彼女へ返し、もう一匹凶悪な凶器を振り上げて襲い掛かってきた半竜へ意識を集中させる。
ローズの視界に、唸りを上げて振り下ろされるハンマーを模した凶器が見えた。あれをまともに受ければ一瞬で粉砕されて死ぬだろう。だがそう簡単にやられてたまるかと、ローズは掲げた剣の刃で凶器を受け止めた。
甲高い音と共に、防御に掲げた剣を支える両腕に強い負荷がかかる。しかし筋力面においてのハルファスのサポートは恐ろしく優秀だ。元々よりなお戦いには向かない今のローズの細腕でも、余裕すらもって破壊の鉄槌を押し返すことが出来る。
「はああぁあぁぁぁっ!」
気合の声と共に半竜の凶器を押し返しきり、その勢いで僅かに体勢が崩れた半竜へ、ローズは大剣の刃を薙ぎ払う形で当てた。




