救済の方法 10
「結局……また……こうなるのか……」
フェイリスからバスタオルを受け取りながら、ローズはか細い声でそう呟く。そんな彼女にマヤが小さく「馬鹿」と、不機嫌そうに言った。
そしてそんな彼女たちのやり取りをボケーっと見ていたジュラードは、ソファーに座って新聞を眺めていたユーリにこう声をかける。
「何故ローズはあんなに女同士で風呂に入るのを嫌がるんだろう?」
前回のお風呂屋の時といい、そんなに恥ずかしいのかとジュラードは心底不思議に思った。
「大体恥ずかしいのならば、シャツとパンツだけの格好で寝る方が恥ずかしいと思うんだが」
「あー、ローズのことは気にすんな。いいんだよ、あいつのあの照れはどうしたって直らねぇだろーからな」
そう答えたユーリが何故かひどく楽しそうに笑うので、ジュラードはそれも疑問に思い首を傾げた。
そして観念してフェイリスたちと風呂へ向かったローズはと言うと。
「今日はローズさんのお名前にちなんで、湯に薔薇の入浴剤を使ってみたんです」
そんなことを嬉々として報告するフェイリスの言葉など耳に入らない様子で、ローズはまた蒼白な顔色でガタガタと震えていた。
「にゅーよくざい? なに、それ」
聞きなれない単語にアーリィがそう疑問を問うと、フェイリスは「お風呂の湯に溶かして使う、お風呂用の道具でしょうか」と答えた。
「アーリィさんは東の大陸の方なのでしょうか?」
アーリィの容姿からそう問うたフェイリスに、アーリィは「厳密には違うけど、そんな感じ」と答える。それを聞いたフェイリスは、こう続けた。
「こちらの方ではお風呂にはこのような入浴剤というものを投入してお風呂を楽しむ習慣が昔からあるのです。最近ではボーダ大陸の先進国でも少しずつこの入浴剤を使った入浴が流行りだしているという話を聞きましたが、ヒュンメイの方にはやはりまだ馴染みの無い習慣なんですね」
そう言った後フェイリスは、入浴剤の使用することによる効果を続ける。
「入浴剤の種類にもよりますが、これを使用することで美容の効果があったり心が落ち着いてリラックスする効果があったりと、様々な効果を得る事が出来るのですよ」
フェイリスのその説明に、アーリィとウネはとても感心を持ったらしく、揃って『なるほど』といった顔をする。
「入浴剤……なんだか面白そう」
「えぇ。エレに帰った時へのお土産にしたいかも」
入浴剤なるものに心躍らせる二人に対して、相変わらずローズはそんなの聞いちゃいない様子でなにやらマヤとコソコソ話をしていた。
「マヤ、俺は一体どうすればいいんだっ」
「知らないわよ。もうこれは自業自得なんだからね、アタシに頼られてもどうしようも出来ないわよ」
「……マヤ、なんか怒ってないか?」
「さぁねー」
なんだかマヤの機嫌が悪い事にやっと気づいたローズは、先ほどまでとは違った様子で不安げな顔をする。
「俺、なんかしてしまったか? あの、マヤ……」
おろおろと情けない顔で困り果てるローズの姿を見て、マヤはいい気味だわと思いながらそっぽを向く。そのマヤの態度にローズがますます困惑すると、背後から何かがそっと近づいた。
「ローズさん、服脱がないのですか?」
「ひゃあっ!」
背後からフェイリスに接近され、両肩をつかまれただけだと言うのにローズは大袈裟な反応を示す。まぁそれも無理ないのだが。
何故なら背後から接近したフェイリスは、既に服を脱いでバスタオル一枚を巻きつけた格好となっていた。さらに彼女はローズの背中に自分の胸を押し付ける形で、彼女に密着したまま声をかけたのだ。
そしてフェイリスは驚くローズに密着したまま、さらにこう耳元で囁く。
「ローズさん、それとも私が脱がして差し上げましょうか?」
「なな、何を言って……」
妖しく囁くフェイリスの声が耳に直接吹き込まれる。このフェイリスの態度に、さすがにローズも異常事態を察した。だが今頃それに気づいてももう遅い。ついにフェイリスは本性を露にして、ローズに迫った。
「ふふっ、ローズさんってなんだかいい匂いがする……すごくいやらしくて興奮する匂いですね……」
「え!? あっ、ちょっと、どこ触って……っ!」
フェイリスの手がローズの太ももを優しく摩り、そこからさらに妖しい動きをする。大きく開かれたスカートのスリット部分に彼女は手を入れ、敏感な太ももの内側に細い指先を這わせた。
「ちょっと、やめ……ひああぁっ!」
ローズの制止なんて聞いちゃいない様子のフェイリスは、ローズの耳元で荒く興奮した息を吐きながらさらに暴走する。そう、美人秘書である彼女の正体は、同性である女性に対して性的興奮と興味を抱いちゃうタイプの人間であったのだ。
この驚きの事実に、しかしパニックで状況を把握しきれないローズはただただ情けなく狼狽するのみで、フェイリスがそういう種類の人間だとは全く気がつかない。いや、正直な話気づく余裕が無いのだろう。何故ならフェイリスは今度は空いている方の手で、ローズの胸を揉むというマヤ並のセクハラに出たからである。
「あん、すごい……こんなに柔らかいのに、しっかり張りがあって形が崩れない……凄いですよローズさん、理想的なおっぱいの形で……ますます興奮してしまいます……」
ちなみにこんなにローズがアレされているのに他の人は何故一切リアクションを起こさないかと言うと、ウネとアーリィは入浴剤入りのお風呂に興味津々でさっさと二人で浴場へ向かってしまった為に、今この脱衣所に二人の姿は無いからである。
そして肝心のマヤはと言うと、本当にもうローズに助け舟を出す気が無いのか何なのかわからないが、彼女はフェイリスに揉まれているローズの胸に挟まりながら、不機嫌な顔をしながらやりたい放題やられているローズをじっと眺めているだけだった。
「あっ、あっ、あぁ……ほんと、だめ、だ……っ」
太ももを撫でていた手は下着へと触れ、薄い下着の布の上から敏感な場所を優しく撫でる。かと思えばフェイリスの指先がもっとも敏感な場所を強く刺激し、ローズは甲高く声を上げながら体を大きく揺らした。
「あああぁ……っ!」
「可愛い声……もっと、もっと私に聞かせてください……じゃないと下着、もっとびしょびしょになることしてしまいますよ?」
「あぁ、だ、めっ……さわらないで……あっ……」




