救済の方法 11
『どうしてこうなった』的な濃厚なアレ展開に、しかしあいにくと今のローズにそう突っ込む余裕は無い。泣きながら抵抗しても、意外と力のあるフェイリスに押さえ込まれて好き勝手にされ放題になっているローズは、好き勝手にされ過ぎてぼんやりし始めた思考の中でか細く「マヤ……」と呟いた。そしてこの声を聞き、やっとマヤが傍観するのを止めて行動に動いてくれた。
「はーい、そこまでよっ! ローズとお楽しみできるお試し期間はもう終わり、残念ね! こっから先のくたっくたに乱れたローズは、アタシしか見ちゃいけないゾーンなのよ!」
「っ……なんだ、それ……」
マヤの意味不明な制止の言葉にかろうじてそう突っ込んだが、それで限界だったのか、ローズはへなへなと力が抜けた様子で倒れるようにその場に座り込む。
ローズの胸から飛び出したマヤは、彼女をフェイリスから守るように二人の間に飛んで立ちふさがった。
「で、あなた、一体どういうつもりなの?」
「どういう……と、言いますと……?」
怖い顔のマヤに睨まれ、フェイリスは困惑した様子で小首を傾げる。あれだけ散々好き勝手しておいて『何で怒られているのかわからない』な態度を取るフェイリスを見て、ローズは怯えた様子でうさこ並にぶるぶる震えた。
「どういうって、アタシのローズにちょっかい出した理由よ! それを聞いてるの!」
「アタシの……と言う事は、あぁ、じゃあお二人も私と同じで……そうだったのですか」
マヤが怖い顔のまま問い詰めると、フェイリスは急に態度を変えて、何か(間違ったこと)を理解した様子で申し訳無さそうにマヤへ「すみません」と謝罪する。あっさり謝られたことに拍子抜けしたマヤが目を丸くすると、フェイリスは彼女にこう言った。
「まさかお二人が既に恋人という関係とは知らず……本当に申し訳ありません、ローズさんの顔と体がすごく好みでつい欲情してしまいました……」
「あ……いや、わかればいいのよ、わかれば……」
色々素直すぎるフェイリスの態度に、ついにマヤでさえも戸惑った反応を返してしまう。そして今の自分の顔と体が好みと言われたローズは、なんだかわからないが物凄く心にダメージを受けた。
「今の私の価値って顔と体なのか……?」
そんな事を呟いて絶望するローズは一先ず放置して、マヤはフェイリスに向き直った。
「つまりあなたはローズの体目的でアタシたちに協力的な態度を取ってたってこと?」
マヤがそう問うと、フェイリスは目を丸くして首を横に振る。そして彼女はひどく真剣な表情でこうマヤへ言葉を返した。
「確かにローズさんの体には興味がありましたが、それが目的であなた方に協力をすると約束したわけではありません。”禍憑き”の事に関しては、私も純粋な気持ちでご協力したいと思って……」
「……あの、何でもいいけど私の体をどーとかっていうことをいちいち会話に盛り込むのは止めてくれないか……?」
いちいち『体が目当て』という一言が挟まれる会話を聞くのが辛いので、ローズはそう小さな声で訴えてみる。だがマヤとフェイリスは完全にローズを無視して会話を続けた。
「ローズさんの体の事は、ついでに襲いたいなぁくらいな気持ちで……」
「そんな軽い気持ちでアタシのローズに手を出したって言うのぉ!?」
「も、申し訳ございませんっ! 今は反省しています……その……だって、ローズさんたちも私と同じと言う事がわかったのだし……それならそんな強引に行く必要もなかったわけですから……」
フェイリスは深く頭を下げた後、今度はまた笑顔でマヤとローズに眼差しを向ける。そして彼女は二人にこんなことを言った。
「その……私、お二人の関係を邪魔するなんて無粋なことは致しません。私たちのような者は、とくに互いにパートナーは大切にしないといけないと理解していますし。しかしですね、よろしければ私もお二人の仲間にいれてもらいたいなって思いまして……」
美人の笑顔は基本的に素敵なものだ。だが今のフェイリスの笑顔は素敵どころか、ローズにはその発言も含めて何かすごい不安を与えるものでしかなかった。
「仲間ってなによ」
「えっと……あ、心配なさらないでください。浮気とかではなくてですね、そうですね……お二人が愛し合うのに時々に私を使っていただけたらって……それだけでいいんです。私はそれで十分ですので」
「……話が見えないわ。つまり具体的にはどういうことなの?」
マヤが怪訝な顔でそうフェイリスに問う。一方でマヤ同様にさっぱりフェイリスの言葉が理解出来ないローズは、しかしこっちは本能的に物凄い嫌な予感をひしひしと感じていた。
するとフェイリスは「つまりですね」と言いながら、マヤにだけこっそり伝えるように彼女に近づいて何かを囁いた。
「……」
まだ腰に力が入らないローズが、不安げな表情でこそこそ話すフェイリスとマヤを見上げる。一体何を話しているんだと、嫌な予感が的中しそうな空気の中でローズが待っていると、やがてフェイリスは「ということです」と言ってマヤへのひそひそ話を止めた。
そして数秒の沈黙の後、マヤはニヤリと微笑む。それは邪悪としか形容出来ない、ローズが一番怯える彼女の表情の一つだった。
「……ふぅん……まぁ、話は理解したわ。……そうね、アタシって基本的に美人で従順で可愛い女の子には甘いのよね。だから絶対にアタシの許可無くローズに触らないって誓うなら、その話を受けてあげてもいいわよ?」
「えぇ、誓います!」
不安を確信に変えるマヤの台詞と、即答で彼女へ何かを誓うフェイリスのやり取りを見て、ローズはまた泣きそうな顔になりながら「一体何の話なんだよ!」と叫ぶ。だがまたもや彼女は二人に無視された。
「それじゃあ、えぇと……その誓いが口先だけのものじゃないってことを証明する為にも、さっきの言葉をもう一回言ってみて。あ、アタシのことはマヤ様でよろしくね」
「はい……私のこの体をどうかご満足するまで、お好きなように使ってください。この体はマヤ様のものです」
なんだかわからないが、気づけばフェイリスは完全にマヤの配下となったらしい。完全にフェイリスを手なずけたマヤは、やはり邪悪な笑みのままでやっとローズに視線を戻した。
「と、言うわけだからローズ。今彼女とは和解したから、しばらくは三人で仲良くヤりましょう」
「なな、何を言ってるのかさっぱりわからないんだが……どういうわけなんだよっ!」
恐怖に後退るローズに、マヤとフェイリスがじりじりと近づく。狭い脱衣所内で、腰の抜けているローズに逃げ場も逃げる気力も体力も、何も無かった。
ガタガタとうさこ並、いや、もしかしたらそれ以上に震えて怯えるローズに、マヤは聖母のような優しい笑顔に表情を変えてこう告げる。
「つまりね、フェイリスはアタシたちの関係のお手伝いをしてくれるって言ったのよ。ほら、いくらアタシたち愛し合ってるとはいえ、アタシのこのサイズじゃ愛ではフォローしきれないことってあるじゃない?」
「ど、どういう……ことだかさっぱり……」
「そうね、はっきり言わないとローズはニブちんだからわからないわよね。えっとね、つまりフェイリスはアタシがこのサイズだから満足させきれないローズの夜の欲求の解消のお手伝いをしてくれるんですって。勿論アタシの完全監視と指示の元にね」
「……!?」
はっきり言われても理解に時間のかかるトンデモ発言を受けたローズは、しばらく衝撃に硬直した後に青ざめた顔色でマヤたちに叫ぶ。
「何を言ってるんだお前たちは! そんなの……待て、わかった、冗談だな? そうなんだよな? えっと、もっとお互いに打ち解ける為の冗談……頼む、そうって言ってくれ」
混乱する頭を落ち着けようと精一杯考えるローズに、しかしマヤは「本気よ」と愛らしい笑みと共に言い放った。
「よかったわ、実は欲求不満になったローズが浮気したら困るなぁーなんてほんのちょっぴり考えてたのよねー。でもこれからはアタシの指示でフェイリスがあなたのこと存分に満足させてあげるんですって。これで安心ね!」
「任せてください、マヤ様。私、女性の体の事は知り尽くしています。それにやはり本当に気持ちいいところがわかるのは、同じ女性だと私は思っていますし。十分にご満足させてさしあげられるかと思います。……ふふ、それにローズさんってすごく感度が良いみたいで……これでほとんど未経験というのは信じられません。開発したらどうなっちゃうのか……あぁ、すごく楽しみです……」
「ひいぃっ……!」
先ほどまでとは打って変わって仲良く……というか、ローズにとって最悪な思惑で手を組んだマヤとフェイリスを前に、ローズは絶望を感じながらその場で震える。そしてローズにとって今は鬼か悪魔にしか見えない二人の美女がまたゆっくり近づくと、彼女は今度こそ本気の悲鳴を上げた。




