救済の方法 9
「でもやっぱり図々しいわよ、そんな何日も世話になるなんて」
「だけど、これで宿代が大幅に浮くじゃないかっ」
「えー……大体あの人、人が良すぎない? な~んか気に食わないって言うか、そもそもあの人ってアレじゃないかとアタシ思うんだけど……今のローズにはすっごい危険な人種のアレだと……」
「何よくわからない事を言っているんだ。いいじゃないか、ユーリも言ってたけどフェイリスさんが良いって言ってるんだし」
ローズがそう小声でマヤを説得している間に、ジューザスは「私は宿に戻るよ」とフェイリスに話をした。
「そうですか。お気をつけてお戻りください」
「うん、ありがとう」
フェイリスにそう返事を返したジューザスは立ち上がり、ローズとマヤは何かまだ揉めているようなので、代わりにジュラードとユーリに向けてこう言葉を向ける。
「それじゃあまた明日にでも話しようか。材料の事とか、まだ詳しく決めていないしね」
「わかった。何時くらいに会う?」
ユーリがそう問いを返すと、ジューザスはフェイリスへ視線を向けた。
「フェイリスさん、明日は午後にまた会長と話すことになっていたけど」
「えぇ、そうですね。ではその時に私の方からローズさんたちの説明も致しますね」
そう答えた後、フェイリスは手帳を取り出して明日の予定を確認する。
「その後は……夕方過ぎになりますが、その頃になりますと会長に予定はありませんので、その時にローズさんたちも交えてまた皆様でお話すると言う事でよろしいのではないかと思います」
「そうだね。会長に話をすれば、材料の入手が多少は楽になるかもしれないし」
「えぇ」
フェイリスが微笑みながら頷くと、ジューザスはユーリへ視線を戻して「明日の予定はそういうことでいいかい?」と聞いた。
「あぁ、いいぜ。詳しい時間はフェイリスさんに聞きゃいいんだろ?」
「そうだね、それでよろしく」
「了解」
ユーリがそう返事をすると、ジューザスは自分の荷物を持つ。イリスに貸した外套はそのままにするしかなかったので、それだけ彼に貸したままでジューザスは「それじゃあまた明日に」と言い部屋を出て行った。
ジュラードは彼を見送った後、まだひそひそと揉めているローズたちに視線を向けた。
「……ローズ、マヤ、話は纏まったのか?」
ジュラードがそう声をかけると、マヤが不機嫌そうに顔を向ける。ローズもジュラードの方を向き、「あ、あぁ……」とちょっと疲れたような笑顔を返して頷いた。
「マヤもやっと納得してくれたよ……」
「そうか。じゃあ今日はここで世話になるということだな」
ジュラードが確認するようにそう言うと、ローズは「うん」と頷く。そして彼女はフェイリスに視線を向け、改めて彼女に「よろしくお願いします」と告げた。
「あの……お世話になります、本当に」
「ふふ、いいんですよ。だって私……」
恐縮するローズに、フェイリスは優しく笑んだまま何かを言いかける。だがローズが「え?」と不思議そうな顔をすると、彼女は笑みを変えぬまま「いえ、何でもありません」と小さく首を横に振った。
ジュラードがすっかり寝ていたイリスとうさこを、フェイリスが用意した寝室の一つに移動させ終えて居間へ戻ると、そこではフェイリスが大量のタオルを用意してローズたちに風呂を勧めていた。
「今お湯を張り終えましたので、是非女性の皆さんで一緒に……」
そう言ってフェイリスはにこやかにローズへタオルを手渡す。だがローズは明らかに逃げ腰の姿勢で、「いや、私は……」とフェイリスの誘いを断ろうと引きつった笑顔で後退っていた。
「あの、私はその……一緒じゃなくても……そ、それに皆で入ったら狭いんじゃ……」
「大丈夫ですよ、家のお風呂は広いのでそれくらい平気です」
「だ、だけど……」
また女同士で裸の付き合いをしなくちゃいけなくなりそうな展開に、ローズはもうどうしたらいいのかわからない心境で涙目になる。
と言うか、何故フェイリスはここまで頑なに『女性同士で風呂に入ろう』と主張するのだろう……。その理由は、今のローズにはさっぱり見当もつかなかった。
「いいじゃん、入ってくれば~」
「ユーリ!」
ソファーでくつろぐユーリが楽しげにローズをからかうと、ローズは怖い顔で彼を睨み付けた。
だが同じく風呂に誘われているアーリィやウネは、もうタオルと着替えを持って普通に皆でお風呂に入る気満々な様子で立っている。なんだか状況的には、凄くローズはアウェイな立場に立たされていた。
「ま、マヤ……助けてくれ……」
どうしたらいいのかわからず、ローズは泣きそうな顔で一応マヤに助けを求めてみる。だが前回の風呂屋での一件では助けてくれるどころか襲われた経験があるので、ローズは助けを求めはしたがあまり内心で彼女の援護に期待はしていなかった。
しかしどういうことなのか、今回はマヤも皆でお風呂に入る事を拒否する立場に立ってくれた。
「フェイリスさん、ローズは恥ずかしいのよ。彼女は女同士での裸の付き合いってのに馴れてないから。そういう人に無理矢理裸での付き合いを強要するのはよくないと思うわ」
言い方は柔らかいが、しかしどこと無くフェイリスに対して刺々しい感情を込めているマヤの言い分に、しかしローズはそんな感情には気づかず『そのとおり』とでも言うように何度も首を縦に振る。
フェイリスはマヤの言葉を聞いて少し考えた後、ひどく悲しそうな表情となってこう言った。
「そうですか……私、もっとローズさんと仲良くなりたいと思って……一緒にお風呂をと……でも、ローズさんにしたら迷惑でしかなかったのですね……すみません、迷惑なことを言ってしまって……」
伏せた眼差しを涙で潤ませ、フェイリスはそう悲しそうに呟く。そのフェイリスの態度に、お人よし成分がジューザス並に高いローズの心が罪悪感に激しく痛んだ。
そしてローズは泣きそうなフェイリスを前に、思わずこう言ってしまう。
「め、迷惑なんて! そんなことないです! は、入りましょう! はいっ!」
女性の涙に弱いのはきっと男の性だろう。
体は女でも心までは”アリア”にはなりきってないローズは、フェイリスの悲しそうな姿に思わずそう返事してしまった後、心の中で激しく後悔した。
「本当でしょうか!? 嬉しいです、ありがとうございます!」
そしてローズからオッケーの返事をもらうと、途端にフェイリスは笑顔になって顔を上げる。彼女のその心からの嬉しそうな笑顔に、今度はローズがまた泣きたい気持ちになった。




