旧時代の遺産 10
「……え?」
何故かモロに逃げられたことにジュラードが困惑し、イリスも首を傾げる。するとモロ貸し出しの男も、「おかしいネ」と首を傾げた。
「うちのモロ、ひとなつこいネ。人を怖がて逃げるなんてこと、めたに無いけど……」
その男の呟きに、イリスが何かを察する。彼は「もしかして」と呟き、今度は彼がモロから離れる。するとモロはまた元の位置に戻って来た。このモロの行動に、イリスはひどくショックを受けながら確信した。
「この生き物、私を怖がってるんだ……」
「えぇ!?」
イリスの呟きにジュラードは驚き、イリスは男にこう問う。
「モロって魔物が怖いとか、苦手だったりします?」
「まもの? モロ、まものはだいの苦手だヨ。だから移動中モロが怯えたら要注意ネ、ちかくにまものいるて事だから」
男の返事を聞き、イリスは深い溜息を吐いて「どうやら私は乗れないみたいだね」と呟く。そして彼はユーリかウネ、どちらかにモロに乗る権利を譲った。
「そう言うわけだから、どっちか私の代わりに乗りなよ……」
イリスのその言葉に、ウネは「私は乗らない」と首を横に振る。
「多分あの生き物、私のことも怖がって逃げると思うから。……それより何より、あの暑苦しいのに私は乗りたくない」
「おぉ、つーことは誰の文句も無く俺が乗っていいってことだよな?! よっしゃー!」
絶望から一変して歓喜に踊るユーリを、イリスは何か言いたそうな顔で見る。が、結局彼は何も言わずにユーリにモロを譲った。
「いや~、悪いねイリス。まぁお前はせいぜい砂漠を地味に徒歩で進め! あ、荷物くらいは持ってやるから安心しろって!」
「む、ムカツク……」
イリスがユーリを呪い殺しそうな目で見ていると、ジュラードがユーリに声をかける。
「……男二人が一緒に乗るのは、モロには辛いかもしれないな」
「え? あ、そうだよなぁ……お前とイリスの組み合わせよりも、俺とお前の組み合わせの方が常識的に考えて断然重いだろうしな」
ジュラードの心配に、ユーリも同意する。ジュラードもユーリも体格の良い男性なので、それなりに重量がある。となると、二人が同時に同じモロに乗るのはモロには負担になるだろう。
ユーリは少し考えた後、アーリィをモロに乗せてる最中のローズにこう声をかけた。
「ローズ、お前ジュラードと乗れよ」
「へ?」
ユーリに唐突にそう声をかけられたローズは、困惑した表情をユーリに返す。しかしユーリが理由を話すと、理解した様子で「あぁ、わかった」と頷いた。
しかしマヤは納得いかなそうな顔をする。
「ちょっと待て、アタシの許可無く男と仲良く二人乗りなんて許さないわよ」
斜め方向にローズの浮気を心配するマヤは、そう怖い顔でローズに文句を言う。ローズは困った表情で、「でも仕方ないじゃないか」とマヤに言った。
「仕方なくないわよ! いいじゃない、ユーリとジュラードで仲良く二人乗りすれば! 二人で抱き合ってればいいのよ!」
「でもそれじゃモロが可哀想だろ!」
マヤを説得しようとするローズの傍で、ユーリが「絵面的にも野郎の二人乗りはアレだしな」と小声で突っ込んだが誰も聞いちゃいなかった。
「じゃあユーリと二人乗りならいいのか?」
納得しないマヤにローズがそう言うと、マヤは「それはもっとダメ!」と怖い顔で返事する。
「そんな恐ろしい事してローズに赤ちゃん出来たらどうすんのよ!」
「おいマヤ、お前マジで俺をなんだと思ってるんだよ……」
「二人乗りしたくらいで赤ちゃんが出来るわけないだろ!」
苦い顔で突っ込むユーリと顔を真っ赤にして叫ぶローズに、マヤはしばし考えた後「仕方ないわね」と言った。
「ユーリよりはマシだもんね……ムカツクけど許可するわ」
マヤは渋々ジュラードとローズの二人乗りを認め、ローズはほっと胸を撫で下ろす。ジュラードとユーリは物凄い複雑な気持ちで、互いに顔を見合わせた。
「しかしマヤは私と男が接近すると怒るのに、女性と接近しても全く怒ってくれないのはすごくおかしいと思う……もっとこう、嫉妬してくれるなら女性に……っ……いや、嫉妬してくれるのは嫌じゃないけど……けど……っ」
ジュラードたち以上に複雑な気持ちになっているローズは、そう呟きながらがっくり肩を落とす。それを聞いたユーリは確かにそれはおかしいけど、でも何となくマヤの気持ちもわからんでもないと密かに思った。
「ところでローズ、お前モロに二人乗りしても赤ちゃんは出来ないってわかってたんだな」
「な、なんだ急に……」
何か意地悪い笑顔で妙なことを聞いてきたユーリに、ローズは怪訝な表情を向ける。
この先のユーリの発言が何となく予想できたマヤは、取りあえず二人のやり取りを傍観してみる事にした。
「そうか、お前のことだからてっきりキャベツ畑で赤ちゃんは生まれるとか、男女で手を繋いだだけで赤ちゃんは出来るとかそういう勘違いをしてんじゃないかって思ってたから」
「なっ……馬鹿にするな、それくらい……その、常識の範囲だから……し、知って、る……」
恥ずかしいのか語尾を小さくして返事をするローズに、ユーリは意地悪い笑顔のまま「じゃあ具体的にどうすんの?」とセクハラな質問をした。
「な、なんでそんなこと聞くんだよ!」
「ローズのことだから間違ってるんじゃ無いかと、俺は心配で心配で夜しか寝れねぇんだ。とにかく優しい親友の俺がちゃんとチェックしてやるから言ってみろって」
「余計なお世話……っ」
一瞬怒りそうになったローズだが、ユーリが真剣な眼差しを向けると、『もしかして本当に心配しているのか?』と思うようになる。
勿論ユーリが真面目にそんな心配をしているわけないのだが。というか『夜しか寝れない』とかふざけたことを言っている時点でローズもユーリの思惑に気づくべきだと思うのだが、残念なことにローズだからそんな細かい部分で気づく事は出来なかった。
「わかった……お前がそんなに心配してくれてるなら……」
「おう。で、子作りってどーやんの?」
「っ……それはその、男女が……よ、夜に……」
「夜に?」
「よる、夜に……あの、裸で……ベッドで……ってやっぱり言える訳ないだろ、馬鹿っ!」
ひどいセクハラについにブチ切れたローズは、ユーリを全力で蹴り飛ばす。
大変珍しいマジ切れローズに蹴られたユーリは、ローズに上乗せされたハルファスの力も体に受けて、濁った悲鳴を上げて派手に吹っ飛んで倒れた。




