旧時代の遺産 11
色々と揉めてなかなかモロに乗って出発できなかったジュラードたち一向だが、やっと彼らもモロに乗って砂漠の移動を始める。
今現在ジュラードたちが移動している砂漠を超えれば、彼らが目的とする医学施設のあるクノーへとたどり着く。ローズの見立てでは、明日の昼にはクノーに着く予定だった。
「う~ん……やっぱりなんか納得いかなぁい……」
モロに乗ったローズの胸の谷間で揺られながら、マヤがそう不機嫌な顔で呟く。何が納得いかないのかなんて、聞かなくともローズとジュラードにはわかっていた。
「いい加減納得してくれ……いいじゃないか、ジュラードなんだから」
そう言ってローズはモロの手綱を操りながら、先導して砂漠を進む。
彼女の後ろには、控えめにローズの腰に手を回しながら乗るジュラードの姿。マヤが納得いってない原因でもある。
「ジュラードももっとしっかり私に掴まってくれてかまわないんだぞ? 揺れるし、そんな掴まりでは落ちるかもしれないだろ」
「え? あ、あぁ……」
ローズの言葉にジュラードは頷いて返事をするも、しかし彼はやはり遠慮した様子で添える程度にローズの腰に手を当てるだけだ。彼は足と腰に全神経を集中させ、踏ん張ってモロの背中に乗っていた。
ちなみにモロに乗る前に、マヤが絡んだ事でどっちが前に乗るかどうかでも軽く揉めることになったのだが、その結果にローズが前でジュラードが後ろになった。その理由はマヤいわく『ローズが後ろになったら、ジュラードは背中に彼女のおっぱいを感じながら進むことになるからだめ!』だった。
(……めんどくさいなぁ)
そして自分が後ろになった今も、必要以上にローズに接触すると怒りのオーラを自分に放ってくるマヤに、ジュラードは心の中でそう正直なことを思った。が、絶対に口に出したら恐ろしい事になるので、賢明にも口には出さなかった。
確かにモロのおかげで移動はだいぶ楽になったが、しかしこう制約が多いと正直徒歩で移動しているイリスやウネの方が気が楽そうな感じがする。
そんなことを思いながらジュラードが後ろを振り返ると、後ろにはうさこを持ちながら歩くイリスとウネの姿があった。ちなみにモロはうさこにも若干嫌そうな顔をしたため、イリスが持って運ぶ羽目となっている。モロに魔物と認識されたうさこは、ジュラードの目には何故だが若干誇らしそうな様子だったように見えた。
イリスやウネの歩行のペースに合わせて進むジュラードたちの隣には、同じペースでモロを進めるユーリとアーリィの姿がある。
ユーリが後ろに乗りながらモロの手綱を操り、アーリィは幸せそうな表情でモロの首に腕を回してしがみ付いている。アーリィのその格好のせいでモロは若干迷惑そうな様子だったが、しかし大人しく前を向いて進んでいた。
「いい匂い……」
「……アーリィ、マジで落ちないように気をつけてね?」
モロに夢中のアーリィに、ユーリが苦笑しながらそう声をかける。アーリィは「うん」と返事をしたが、しかしそれはどこと無く上の空な返事だった。
本当に大丈夫だろうかとユーリが不安になっていると、突然アーリィは体を起こして「うん、決めた!」と発言する。アーリィの唐突な不思議発言はわりと日常茶飯事なので、ユーリは驚くことも無く「何が?」と彼女に聞いた。
「あのね、この子の名前を決めた」
「決めちゃったんだ」
勝手に名前を考えていたらしいアーリィに、ユーリは苦笑のまま「なんて名前?」と聞く。アーリィはモロの頭を撫でながら、こう答えた。
「ミルフィーユ!」
「……なんで?」
何故そんな命名をしたのだろうかと、ユーリが純粋な疑問を問う。すると問われたアーリィは、しばし考えてから首を傾げた。
「……なんか、そんな名前がいいかなって思ったから?」
疑問符付きで答えるアーリィに、ユーリはやはり苦い顔で笑う。アーリィは何故ユーリが笑うのか不思議だとでも言うような表情で彼を見つめ、そして視線を再びモロに戻した。
「お前もミルフィーユって名前でいい? それともユーリにする?」
「ちょっと待ってアーリィ、なぜそこで俺の名前を使うの?!」
唐突に出てきた自分の名前にユーリが慌てると、アーリィはまた後ろを向いて彼に「ダメ?」と聞いた。
「いや、ダメかダメじゃないかって言うより……何で?」
「ユーリって名前、かっこいいから……ミルフィーユは可愛い系だから、可愛いのとかっこいいのとどっちがいいのかモロにも選ばせてあげるべきかなって思って」
自分の名前を『かっこいい』と言われた事は素直に嬉しいが、しかしユーリの心情的にこのつぶらな瞳が何考えてるのかわからないモコモコした生き物に同じ名前を付けられるのは何か複雑さを感じる。
「……ミルフィーユの方がいいんじゃね?」
「そう? じゃあユーリがそう言うなら、ミルフィーユにするね」
納得したアーリィはそう言うと、モロに勝手に”ミルフィーユ”と命名して可愛がり始める。
「ミルフィーユ、ふわふわ……」
「……しかしなんでミルフィーユなんだろうな」
独り言のようにそう呟いたユーリだが、答えはわからなかった。
砂漠という生物の生存に適さない過酷な環境でも、そこに町を築こうとする人がいるように、その環境に適応し生息を行おうとする魔物も存在する。
「キイィ~!」
順調に砂漠を進んでいたジュラードたちだったが、突如モロたちが怯えるような声を上げて足を止める。その異変に、直ぐに彼らは魔物の出現を予感した。
「魔物か?!」
言いながらローズは周囲を警戒し、マヤは「おそらくね」と彼女に告げる。ジュラードが「どうする?」と聞くと、ローズは一瞬考えた後に「戦おう」と答えた。
「姿が見えないのが不気味だが、おそらくもう近くに魔物はいるんだろうと思う。砂漠じゃ逃げ切れんだろうし、戦って進んだほうが安全だろう」
ローズはそう答えると、モロに待機命令を告げて砂の上に降り立つ。ジュラードも彼女に続き、ユーリとアーリィもモロをその場に待機させてモロから下りた。
ジュラードたちは各々武器を構え、イリスとウネも辺りを警戒する。うさこは怯えるようにイリスに抱えられたままぶるぶる震えた。
「……来る。下よ」
戦闘前の不気味な静寂を破りウネがそう呟くように言うと、彼女の言葉に応えるかのようにジュラードたちの目の前の砂が突如隆起を始める。それは巨大な何かが砂の中から姿を現す事を示していた。
さらに砂の隆起は一つではなかった。続けて二つ、三つと砂漠に砂の山が生まれる。やがて砂を破り、地中から巨大生物が姿を現した。
「サンドワーム……」
「砂漠じゃよく見るでかい虫ね」
ウネの呟きに続き、マヤが皮肉げな笑みと共にそう答える。ジュラードたちの目の前に姿を現したのは、全長三メートルはありそうな巨大なサンドワームと呼ばれる魔物三匹だった。
「きゅ、きゅいいぃー!」
見上げるほどに大きいサンドワームに、うさこは悲鳴のような鳴き声を上げて怯えまくる。そんなうさこを抱えるイリスは、「あれと戦うの?」と無理そうな顔で見上げつつ呟いた。
「悪いけど、こういう敵だと私は戦力になれない気がする……大人しくうさこと避難してるよ。うさこは責任持って守るから」
全身を固い甲殻で覆われているサンドワームは、余程強い衝撃を与えない限りダメージを与えられないと推測される。
その為力で押し進めるような戦闘は苦手なイリスは、逆にそういう戦闘が得意なローズやジュラード、あるいは大きな一撃が放てるアーリィやウネに戦闘は任せることを決め、自身は最低限彼らの邪魔にならないよう後方に下がった。




