再びの旅立ち 17
「お、おはよう……」
ジュラードはとりあえず挨拶されたので挨拶し返す。そして彼は何故彼女がここに立っているのかと疑問を抱いた。すると彼の内心の疑問に気づいたように、エリはどこか不機嫌そうな顔のままこう答える。
「朝ごはん出来たから起こしにきたの、うさこちゃんと一緒に」
「……うさこを俺の顔に乗せたの、お前か?」
ジュラードが問うと、エリは「そう」と平然と答えた。
「何故乗せた!」
「あなたを起こすために。本当はこのおたまで叩こうと思ったけど、うさこちゃん乗せたほうが平和的かなって思ったの」
「……それは……確かにそうかもしれないけど……」
おたまで叩かれるよりは、確かにうさこ乗せられる方が痛くないから平和的かもしれないけど、でも起こす方法は他にもあるような気がしたジュラードは微妙に納得できない。
ジュラードは微妙に納得できないまま、とりあえず「ありがとう」とエリに告げた。そしてエリにすごく驚かれる。
「え!?」
「え?」
目を丸くする彼女の反応を見て、ジュラードは「あ、うさこを乗せられて感謝してるんじゃないからな」と説明する。
「そうじゃなくて、わざわざ起こしに来てくれたから……そういう意味だぞ」
そう説明するジュラードに、エリも目を丸くしたままこう言葉を返した。
「違う……私が驚いたのは、あなたが『ありがとう』なんて言ったからよ」
「え……?」
エリの言葉にジュラードは困惑し、そんな彼を見てエリは微笑を零しながらこう続けた。
「なんだかあなたって、突然飛び出して帰ってきてから変わったよね……雰囲気、柔らかくなったって言うかさ」
「な、なんだそれ……」
ますます困惑するジュラードを笑いながら、エリは「だって、以前はありがとなんて私に言った事無かったから」と告げた。
エリのその発言に、なんだかジュラードは恥ずかしさを感じて「そうだったか?」と惚けてみる。
「そうだよ。以前は無口で無愛想で、何考えてるのかよくわからなくてさ……皆とも一緒に遊ばないし、お礼なんて言った事無かったじゃない。リリンもあなたの協調性と社交性の無さを心配してたんだよ? あんな小さい子にそんなことを心配されるって相当だと思うよ」
「う、うるさい……もういいだろう、早くメシを食いにいかせてくれないか?」
段々恥ずかしさが増したジュラードは、それを隠すように怒った口調でエリにそう言う。そんな彼の様子を、やはりエリは楽しげに見つめた。
「はいはい、わかったよ。それじゃうさこちゃん連れて広間に来てね」
「……わ、わかった」
笑いながら立ち去るエリの後姿を見ながら、ジュラードは彼女の言葉を脳内で考える。
確かに自分は変わったと、そう自分でも思う。おそらくそれは良い方向にだ。
一人でいる事は楽だし、何より自分は皆に蔑まれる異端の種族だから、一人でいれば傷つく事も周りを不快にさせることも無い。でもそれじゃダメなんだろう。
この他人で溢れる世界で生きる以上は、完全に一人で生きていく事は出来ない。身内にだけかまって、他を無視することも不可能だ。何より一度他人と協力し、頼り、他人の優しさに気づいてしまった自分の心が、今更その心地よさを拒絶することなど出来そうもなかった。
「きゅいぃ~」
「……お前と一緒にいることさえ、今の俺は楽しいって思ってしまうんだ。重症だよな」
そう呟いたジュラードは、苦笑しながらうさこを抱き上げる。うさこは嬉しそうに手をばたつかせてジュラードを見上げた。
やはりこれからはそれなりの積極性を持って人とも関わっていくべきなんだろうと、それを思いながらジュラードは広間へ足を向けた。




