再びの旅立ち 18
ジュラードがうさこと共に広間に向かうと、そのテーブルには若干悪夢のような料理が並んでいた。
焼け焦げた乾し肉入り玉子焼きに、異臭漂うサラダ、どぶのような色合いのスープなど……唯一調理工程が『焼く』だけのパンのみが美味しそうな匂いを漂わせて皿の上に置かれている。
ジュラードは何となく懐かしいそれら悪夢のような食事を見てピンときた。
「これ……ユエ先生が作ったのか?」
絶対美味しくないだろう朝食をこの世の終わりみたいな顔をして食べていたローズたちを見ながら、ジュラードは彼用の食事を準備するエリに聞いた。そしてエリは頷く。
「そうだよ」
「……イリス先生はどうしたんだ?」
食事の準備は彼の役目のはずだ。病気になった時も余程体調が悪い時以外は食事を作っていた彼だが、何故今日はお世辞にも上手いとは言えないユエが朝食を作ったのだろうか。
するとジュラードのこの疑問には、げっそりとした顔でローズが答えた。
「彼はその……今寝てる」
「え? 何かまた体調崩したのか?」
心配した様子でジュラードがそう聞くと、ローズは唯一美味しいパンをかじりながら首を横に振った。
「そうじゃなくて、彼は昨晩遅くまでハルファスと人の姿に化ける練習をしてて……」
「? ……あぁ、そういえば変身術だっけ?」
ジュラードが思い出したように言うと、ローズは「そう、それ」と頷いた。
「で、朝方近くまで特訓してて……今疲労で倒れて寝てるらしい」
「それでユエ先生が食事を作ったのか……」
ちなみにユエは朝食を作り終えると、トウマと朝早くに仕事に行ってしまった。他の小さな子どもたちも既にこの朝食を食べ終えているらしく、テーブルには今ローズとマヤとユーリとアーリィ、それとウネとラプラが座っていた。
「こ、こんな事なら私が作ればよかったかもしれない……うぅ、なんでこのサラダは錆びた鉄の味がするんだ……残すと悪いから食べないといけないけど、これは辛い……」
そう小さく呟きながら、ローズは涙目になって水で流し込むようにサラダを食す。その隣ではユーリがわりかし平気そうな顔で食事を進めていた。
「ユーリはこの食事、美味しいのか?」
ユーリの前の席に座りながら、ジュラードが彼に問う。するとユーリは顔をあげ、「美味しいっつーか、食べれない事も無い感じ」と答えた。
「そうなのか? ユエ先生の料理は、正直俺たちの間でも拷問に等しい味と恐れられているもんなのだが……」
それでも長年その料理を食べていたので、子どもたちは皆ある程度はユエの料理の味に耐性を持っている。だがローズたちのような初めてそれを食べる人には、結構きつい味だろうとジュラードも認識している。
何故平然とこの料理を食べられるのかと疑問に思うジュラードに、ユーリは笑いながらこう返事した。
「俺はほら、アーリィの料理で胃袋と舌を鍛えられたから。アーリィも昔は時々凄い強烈な味の料理を作って……」
そこまで笑顔で説明し、ユーリはハッとした様子で右隣に視線を向ける。彼の右隣では、アーリィが泣きそうな顔でプルプル震えながらユーリを見ていた。
「あぁ、ごめんアーリィ! 違う、今はアーリィの料理もすっごい美味しいから大丈夫! いや、すっごいは言い過ぎかもしんないけど、とにかく大丈夫だから!」
『そのフォローもどうかと思う』的なフォローを、ユーリは焦った顔色でアーリィに告げる。案の定アーリィはますます泣きそうな表情となった。
「美味しくなかったんだ……私の料理……」
「わー違う! 美味しい! 今も昔も美味しい! ごめんなさい!」
無駄に謝るユーリをローズは苦笑しながら眺め、彼女はふと気になった事をマヤに聞いてみる。
「そういえばアーリィもこの料理普通に食べてるけど、その……大丈夫なのか?」
アーリィの味覚を心配するローズに、基本的に食べ物は食べなくても平気なので、今はただここにいるだけのマヤがこう答えた。
「味覚はねー……ぶっちゃけ認識させる為の調整が難しくってね。甘いもの以外はどう認識してるかはアタシも正直よくわからないの。美味しいとかは言うけど、まずいっては滅多に言わないし……甘いものは好きみたいだから、甘いってのはわかってるようだけどねー」
「……そうだったのか」
「とりあえず食べれるって認識する味の範囲は広いみたいね、あの子」
「そうみたいだな……今ももう完食しそうだしな」
アーリィが妙な味の料理を平気で作っていた理由は、マヤが彼女の味覚構造を手抜きした事が大きな要因ではないかという衝撃の事実が発覚したが、それを知ったローズはユーリが色々とショックを受けそうなので彼には黙っておこうと心に誓った。
そして魔族の二人もローズたち同様に、異常な味の朝食を取らされて困惑していた。




