再びの旅立ち 5
「そーなのよー! もう奇跡よ、奇跡! まさかアタシのマナがこういう形で回収出来るとは思わなかったわよー」
正直マヤたちの話はジュラードやユエには何がなんだかさっぱりなので、何で二人がそんなに興奮して喜んでいるのかわからない。だがユーリも「おー、すげぇじゃん!」と喜んでいる様子なので、何か彼らには重大な事なのだということはジュラードたちにも理解できた。
「そうか、よかった……あれから三年、元に戻れる手がかりも無くて辛い毎日だったけど……」
「え? アタシは別に辛くなかったわよ? だってローズの胸に挟まるのも楽しいし」
「……とにかく、これでマヤは元の大きさに戻れるかもしれないんだな!」
ローズはひどく嬉しそうな様子で、「後は私の体がどうにかなれば」と呟く。それが一番難易度が高い問題に思えたマヤは、しかしそれをローズにツッコむとローズが悲しそうな顔をするので黙っておいた。
「さて……確認しあうことはこれくらいかしらね?」
必要な話が一通り終わったと判断し、マヤがそう皆に告げる。「そうだね」とユエは頷き、そして彼女はマヤにこう言った。
「それじゃあ早速で悪いが、リリンを治せるならばそうしてもらえないか?」
「それは勿論。アタシの責任もあるからね」
ユエの言葉に、マヤはそう返事して頷く。ユエは彼女に安堵の表情で「ありがとう」と言った。
「それじゃあ……あたしはレイヴン先生に今回の事、話に行って来るよ。禍憑きが治るんなら、先生には報告しないといけないからね。リリンの事はマヤさんたちとジュラードに任せるから頼むよ」
ユエはそう言うと椅子から立ち上がり、イリスに視線を向ける。イリスはひどく不安げな眼差しでユエを見返した。
「ユエ、私……」
「……そうだね。レイヴン先生のところ行く前に、あんたの事を子どもたちにちゃんと説明しとかないとね」
ユエのその言葉にイリスは一瞬迷う表情を見せ、そして彼は弱く微笑んで首を横に振る。
「説明は自分でするよ。だからユエは先生のところ、行って来て」
「でも……」
心配するユエにイリスは微笑んで「大丈夫」と返す。しかし返す言葉には、隠し切れない不安が滲んでいる。それがわかったからこそユエは「あたしも一緒に……」と言ったが、イリスはそれを頑なに拒んだ。
「いいから。自分で説明したいんだ……ごめん、わがまま言って」
「わがままなんて……あんたがそこまで言うなら、仕方ないけど……」
ユエは小さく溜息を吐き、イリスの肩を叩きながら「無理はしないで」と彼の意思を尊重することにする。
そうして話し合いはこれで解散となった。
話し合いが終わった後、ユーリはアーリィの様子を見に、彼女が寝ているジュラードたちの部屋に向かう。
「あれ、アーリィ」
ユーリが部屋に入ると、ジュラード用のベッドで寝ていたはずのアーリィは目を覚ましており、彼女は付き添っていたうさこをなでなでしながらベッドの上でボーっとしていた。
「あ、ユーリ……おはよう」
「きゅうぅ~」
ユーリの存在に気づくとアーリィは彼に挨拶し、うさこもついでに挨拶する。ユーリは「おはよー」と返し、そしてベッドに近づいてアーリィの様子を窺った。
「体、大丈夫?」
「うん」
「そっか……ならいいや。いつ目ぇ覚めたの?」
「えと……ついさっき」
答え、アーリィは「お腹すいたかも」と小さく呟く。その一言にうさこは一瞬震え上がった後、悲しそうな鳴き声を上げながら涙目でアーリィに自分の腕を差し出した。
「きゅうぅ~……」
「え? う、うさこは食べないよ! ダメだよ、もっと自分の体を大事にしなよ!」
うさこはお腹がすいたと言うアーリィに身を差し出す覚悟を持つほど、彼女をひどく心配していたらしい。アーリィは「気持ちだけ受け取っとくよ」と言い、うさこを撫でた。
「でも心配してくれてありがとう……」
「きゅいぃ」
「あのー俺も心配したんだけどー」
アーリィがうさこばかりを構うのでユーリが寂しそうにそう言うと、アーリィはハッとした様子で「ご、ごめんね!」とユーリに言った。
「ま、どこも調子悪くないんならいいや。安心した」
「うん」
頷くアーリィの髪に指を絡め、ユーリは彼女を抱き寄せながら顔を近づける。ぼーっとしていたアーリィは、しかしユーリの顔が間近に近づくと「だ、だめ!」と慌てて彼の顔を引き離した。
両手で頬を掴まれて押し返されたユーリは、物凄く不満そうな顔でアーリィを見る。
「なんで?」
「な、なんでって……うさこ見てるから!」
恥ずかしそうな様子のアーリィの答えを聞き、ユーリは視線をうさこに向ける。『空気読め』的なオーラを放つ彼と目が合ったうさこは、ハッとした様子の後に自分の目を自分の手で目隠しする仕草をとった。
「よし大丈夫、うさこ賢いから空気読んだ。マジ良い子」
「きゅ、きゅうぅ……」
「空気読まなくていいんだよ、うさこ!ってゆーかユーリ、うさこのこと脅したでしょ!」
顔を真っ赤にして訴えるアーリィに、ユーリはますます不満げな顔となって「アーリィは俺とキスしたくないの?」と聞く。それに対してアーリィは、「したくないわけじゃないけど」と小さく答えた。
「じゃあしよう」
「こ、ここではダメ! 私、歯だって磨いてないし……とにかく恥ずかしいよ、子どもたちたくさんいるのに……」
今部屋にはアーリィとユーリとうさこ以外はいないのだが、アーリィはそれでも恥ずかしいらしい。ユーリは小さく溜息を吐いて、「わかりました」と言った。
「それじゃこれで我慢します」
「へ? あ、ちょっと……っ!」
ユーリはアーリィに抵抗する隙を与えぬ速さで、アーリィの首筋に顔を埋める。柔らかい肌に赤く痕を残すと、ユーリは彼女を解放した。
「ちょ……と、つぜん、なんてことするんですか……っ」
「前々から気になってたけど、アーリィってテンパると敬語になるよね」
「そそそ、そんなことないっ」
アーリィの可愛い反応にユーリは可笑しそうに笑う。それを若干不満げな目で見つめ、そしてアーリィは思い出したように彼に聞いた。
「そういえばユーリ、イリスはどうなったの?」
「ん? あぁ……あいつなら大丈夫、正気には戻ってた」
ユーリがそう答えると、アーリィはとても安心したように「そう」と返事する。そんなアーリィの反応を、ユーリは少し複雑な心境で見つめた。
「それじゃあの人、人に戻れたんだね」
「あ……いや、人には戻れてない。つか、戻れないかも……姿はあのままだったから」
「え? ……そうなんだ……」




