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勇者増殖  作者: T村
この先未改稿
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増殖23体目「図書館」その3

短いです。

 さて、ところ変わって図書館から少しばかり離れた大通りの一角に、僕たち四人はきていた。


「っとな、まあここが僕―――と言っても今の僕じゃないな、治療院の僕がよく世話になってる屋台だ。つーわけでおっちゃん、新顔連れて来たぜ、約束通りおまけしろよな」

「おお、ほんとに連れてきてくれるとはな、しかも可愛らしい嬢ちゃんたちときたもんだ。いいぜ、もう三本おまけに持っていきな増殖のあんちゃん」

「へへへ、ありがとよおっちゃん!」


 僕は「バクノク」を売る屋台のおっちゃんに分かれを告げ、隣を歩く三人にバクノクを渡す。ちなもにバクノクというのはなんかこう薄切りにした肉を、串に刺した固いパンのようなものにぐるぐる巻きに巻き付けてたれをつけて焼いたものである。この世界で言うところのファーストフード的な食べ物で、大変おいしい。ジャンク感といいお手軽感といい、どうにも色んな店のを食べ比べてみたくなり、最初のころはこの通りの屋台という屋台のバクノクを【増殖】していっぺんに楽しんだものだ。

 まあそのせいで僕の奇抜な能力と共に僕はここいらでそこそこの知名度を誇るようになってしまい、たまに頼まれては広場とかで大道芸じみたことをやったりと色々やるようになった。おかげ様で僕はなぜかちびっ子たちから大人気である。毎度毎度思うのだが、何故【増殖】は子供に受けがいいのか。まあ子供は嫌いではないのでいいのだが。

 僕がそんなことを考えながらバクノクをほおばっていると、なぜか三人は手を付けようとしない。もしかして、


「あー、もしかすると宗教的なアレでダメな奴だったか?」


 元の世界でも宗教の戒律であの肉が食べられない――とかいうのはよくある話だ。まいったな、そうすると僕は中々に酷なことをしてしまったかもしれない。そう思って顔をのぞき込むが、「いや、そういうわけでは…」と首を振られた。あれ、じゃあどうして手を付けないんだろうか。この料理苦手だったか?


「いえ、あの、私たち、お金は……」

「あ? あー、ああ。いや、大丈夫だよこれはおっちゃんからもらったおまけだし。そもそも僕は文字の勉強を見てもらってるお礼がしたくて連れ出したわけだし」


 笑顔でそう告げると、カンタロとカントラは目を輝かせて一斉にバクノクにかぶりついた。


「「おいしーい!」」

「はは、そうだろ。おっちゃんのバクノクはカブト一だかんな」


 おいしそうに頬張る二人の頭を、わしわしと撫でながら僕は笑顔で言った。うん、この街のバクノク屋台を全て食べ比べした僕が言うのだから間違いない。


「あの、ありがとうございますね、玲汰さん」

「いや、いいんですよ。さっきも言ったけど、僕はお礼がしたいんですから」


 そう言うと、カンタネさんは照れたようにはにかんで「正面から言われると少し緊張しますね」と頬を掻いた。

 そんな姿を見て、僕はカンタロとカントラと顔を合わせて、一緒に笑った。






 僕は、幸せだったと思う。前の世界では考えられないくらい。でも、だから、幸せすぎて、この時の僕は僕に向けられたとある視線に気づけなかったのだ。僕は、このことを深く後悔することとなった。

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