増殖21体目「決闘」その4
「ハァ、ハァ…………見たかコノヤロー……ハァ……うぇっほっうげぇ……僕のちかうぉっほぉぶおぇ……え゛え゛あ゛っ」
「ちょっと息も絶え絶えすぎないかしら」
膝に手を突き、大量の汗を垂れ流しながら全身で息をする僕を見てキノメがそんなことを言っているがしょうがないと思うんですがそれは。マルドゥクは僕が二十人掛かりで全力の攻撃を仕掛け、更に【増殖】と【統合】を駆使したフェイントも織り交ぜながらの猛攻で、やっと倒せるほどの強者だったのだ。というか、二十人のうち十一人は無力化された。
……強すぎませんかねマルドゥクさん。たとえ【増殖】があったとしても横野や魔王城での戦いが無ければ経験不足で確実に僕はやられていた。こんなことを言うのも何だが、あいつらにも一応は感謝した方がいいのかもしれないな。
「……ああ、強いな、おまえは」
「ばっか言え、てめえのが余程強い」
すっごいふらふらする。僕は今にも倒れそうなのに何でマルドゥクさんはまだ口を開く余裕があるんですかね。僕はひとまず自分に【中級治癒】をかけて息を整えた。
「おい、あいつ今【中級治癒】使ったぞ」
「あんな能力持っててヒーラーなのかあいつ」
「増えるヒーラーとか便利すぎるだろ、軍からスカウト来てもおかしくないぞ」
そんな声があたりから聞こえてくる。……確かにヒーラーが増えるってすげえ便利だな。これが終わったら治療院に顔出しに行くつもりだったけど、【増殖】の能力について説明するかどうか迷うな。下手に話したらアホみたいに酷使されそう。いや、ここで能力晒した以上いっそ開き直った方がいいのか?
「な、なあ」
とここで僕の増殖体の手によりがっちりとホールドされたランディが声をかけてきた。
「俺たちの負けだよ。だからもう放してもらえるか?」
「あ?」
何言ってんだこいつ。
「この勝負で負けと見なされるのは戦闘続行不可能だけだ。お前ら捕まっちゃいるがまだまだ戦えるだろ」
「「「へ?」」」
ランディとロディ、それにいつの間にかキノメが締め上げていたケィシィが、間の抜けた声を上げる。ああ、こいつらまだ自分たちが出した条件のひどさに気付いてないのか。
「まさか」
流石というかなんというか、マルドゥクは気づいたようだ。僕一体これから何をしようとしているのか。
「まあ軽い迷惑料みたいなもんさ」
ただ、ちょおっとわかってない子が三人ほどいるようなので僕は死んだ目を最大限に生かした素敵な笑顔を見せて、ぐあっと握りこぶしを突き出した。
「今からお前たちを殴りに殴って、治癒スキルで治してってのをエンドレスで繰り返すだけだ」
「「「…………え、ええええええええええええええええええ!?!?」」」
僕の言ったことがどういうことなのか理解したのか、三人が震え上がる。が、まあ気にしてはいけないね。うん、喧嘩を売るっていう事がどれだけ危険な行為なのかをここでしっかりと知っておかないと後々もっとひどい目に合うかもしれないし。別にここらで上がりにくい治癒スキルの熟練度上げたいとかそういうよこしまな目的は一切ないから。真剣勝負だから全力を尽くすだけであって、うん、本当。別にレベリング感覚とかそういうの全然ないから。うんホントまじめに決闘しようという意思が僕を突き動かしているだけだから。
「あら、あなたえげつないことを思いつくのね」
「何だよキノメ、止めろってか?」
「いや全然?」
むしろこいつの方がえげつない気がする。ここは普通止めるところだと思うんだが――いやまて、こんなことしてカフカは僕のことをどう思うんだ、まずいここで好感度を下げるわけには―――。
「ん? 俺はいいと思うぞ? 戦いっていうのはそういうもんだし」
あ、うん。そういえばカフカはこんなレベルじゃない世界の出身だったね。僕の杞憂だったようだ。僕はにっこりと笑って四人の前に立った。
「とりあえず僕が治癒系のスキル粗方覚えるまで、付き合ってもらうからな」
「「「い、いやあああああああああああああああああ!!」」」
◆ ◆ ◆
数時間後、いい感じに治癒スキルを覚えたので、全員の意識を失わせて終わりにしてやった。周りの冒険者たちからなんかすごい目で見られたが気にしたら負けだろう。
あと、殴ってる間マルドゥクは身じろぎすらしなかったのは流石だと思った。結構本気で殴ったんだがなあ。尚ほかの三人は目も当てられないことになっていたが、ちゃんと治癒スキルで後遺症が残らないようにしたから大丈夫だと思う。今回のことを教訓に、相手の実力が分からない段階で喧嘩を売るようなことがなくなればいいな。
ちょっと解説
「いい感じに治癒スキルを覚えた」
→スキルツリー形式でスキル習得するため、他の治癒スキルを覚えるために【初級治癒】と【中級治癒】の熟練度を上げておく必要があったのですが。そうそうけが人を治療する機会なんてないだろと考えた玲汰は、自分でけが人を作って治すというマッチポンプによりめぼしいスキルが覚えられる熟練度になるまで四人に治癒スキルをかけ続けたのです。
四人を増殖体がホールドした状態で殴りまくり治癒スキルを使うという中々にアレな光景ですがこれも便利な治癒スキルを覚えるため、仕方のないことなのです。少なくともクランの仲間からは許可出てますし、まあ、多少はね?
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