増殖21体目「決闘」その3
「へへへ、後悔させてやるぜ」
そんな明らかに雑魚臭のきついことを言いながら突っ込んできたのはリーダー格のランディだ。彼の装備は皮などの素材でできた軽鎧で、構えたロングソードからして一般的な剣士。近接職なのだろうが、如何せん隙が多すぎる。素人目に見ても分かりやすい動きで攻めて来るのでかわすのは楽だ。というか、腕だけで振る剣で何が切れるというのか。僕は半ばため息をつくように振り下ろされた剣を棍棒で弾き飛ばした。
「へ?」
「寝てろ」
腹に一発、威力を抑えた【羅刹】を鳩尾に叩き込む。利き手でない左手で放ったからか、気絶とまではいかず、結果として気を失わないぎりぎりの何とも言えないレベルの衝撃が彼の全身を駆け抜けることになった。
「がっあ………!?」
戦いの最中だということも忘れ痛みでのたうち回るランディ。いくらなんでも弱すぎるだろ。僕が一人呆れていると、「この、よくも!」と盗賊のような恰好をしたロディが後ろからナイフ片手に襲い掛かってきた。が、うん、またか。
僕は後ろを振り返ることもせずに裏拳を放った。顔面ど真ん中に命中。なんだか嫌な感触が拳に伝わってきたが気にしたら負けだ。
「え……なん、で」
「何でってお前せっかく背中から襲い掛かってんのにわざわざ叫んで自分が仕掛ける位置を相手に知らせる馬鹿がいるか。殺気隠せとまでは言わねえがもっと気を配って攻撃しろ」
素人にこんなこと言われて恥ずかしくないのかよと振り向きざまに追い【羅刹】。ロディは膝から崩れ落ちた。
「……なるほど、それなりにはやるようだ」
「っ、あぶね」
後ろから音もなく放たれた斬撃を、何とか紙一重でかわす。マルドゥクだ。
「お前はこいつらとは違うみたいだな」
棍棒を軽く振ってからしっかりと握り直し、マルドゥクと相対する。マルドゥクの獲物はショートソードとラウンドシールド、それに腰に提げた二本の短剣だろうか。いずれにせよ、その構え、剣をこちらに――人に向けるということに対しての抵抗の無さ。間違いなく手練れだ。僕はゆっくりと後ずさった。
「たまたま以来の都合でこいつらと臨時クランを組んでいただけだ。そもそも仲間じゃない」
まあ、予想通りの答えだ。マルドゥク、彼だけは身にまとう雰囲気が異質だった。戦っていた時のカフカのような、上手くは言えないが、『戦いを知っている』、そんな空気を纏っていた。
「へえ、じゃあ何でまた戦うんだ」
そう尋ねると、マルドゥクは静かに口を開く。
「おまえ、【代償技能】持ちだろう」
ここに来て初めてマルドゥクはその無表情な顔に獰猛な笑みを浮かべた。
「おれはおまえのそれが見たい」
「っ!?」
全身に妙な悪寒が走り、僕は全力で後ろに跳んだ。僕がさっきまで立っていたところに、マルドゥクのショートソードが振りぬかれる。
「ぐっ、あ!?」
そして、僕は地面の上に転がされていた。
「なに、が」
全身をびりびりとした痛みが駆け抜ける。今確かに避けた筈なのに、僕は確実にマルドゥクの攻撃を受けていた。追撃を避けるため、軋む体に鞭をうち、何とか立ち上がった。見ると、僕の胴体に赤い筋が走っている。どうやら、斬られたらしい。僕は【初級治癒】を数回唱え傷を治療した。
「これがお前の【代償技能】か?」
忌々しげにそう呟くと、マルドゥクはすっと首を横に振った。
「おれは残念ながら【代償技能】は持っちゃいない。これはただの剣技だ」
「ああそうかい」
まあ【代償技能】であろうとなかろうと関係ない。こいつが強敵であることに変わりはないのだから。僕はできる限りのことをやるだけだ。
真っすぐにマルドゥクを見据え、僕は静かに棍棒を構えた。
「そんなに僕の【代償技能】が見たいなら、見せてやるよ」
ずるっ、と僕の体が二つに分かれる。
『!?』
ずるずるずるっとさらに僕の体は分かれ、計二十人の僕が立っていた。
「………………え?」
困惑の声を上げるマルドゥク。気持ちはわかるがそうも言ってられん。僕は二十人全員で一斉に棍棒を構えた。
『袋叩きにしてやる!』




