増殖21体目「決闘」その1
そろそろ玲汰君もちゃんと主人公します。
カフカの斬撃が空を割いた。
『ぬぅ!』
黒竜王は防戦一方だった。無理もない、なにせ的としてのサイズが違い過ぎるし、カフカは信じられない速度と軌道で空を舞うように攻撃を仕掛けて来るのに対して、図体のでかい黒竜王は満足に動き回ることさえできていない。ここが訓練場で無く平原などであったならまだ違ったのだろうが、自慢の鱗で覆われた鋼の肉体もカフカの猛攻の前では砂上の楼閣に等しく、彼はただ致命傷を避けるので精一杯だったのである。
『やりおるわい、小娘!』
気丈に叫ぶが、最早その姿に戦う前までの余裕は消え去っていた。体中の至る所から血を垂れ流し、回復が明らかに間に合っていない。その眼には明らかな焦りの色が浮かんでいた。
「嘘だろあいつ……黒竜王だぞ?」
「すげえ、あんなに一方的に……」
「あの【戦神】に認められた二人の仲間ってだけのことはあるぜ……」
口々にそんな感想が聞こえてくる。いや、まあ僕としてもカフカすっげえなとしか言いようがないんですがね。あれは完全に主人公の風格ですね間違いない。異世界にやってきて、前の世界で培った技術と力で無双――これは主人公以外の何物でもないな。僕もヒロイン力を磨かなくては。最近のギャルゲーはなぜかヒロイン一覧に男が一人混じってたりするらしいし、僕にも全然望みはあるだろう。少なくとも隣のストーカー予備軍には絶対に負けん。
「そろそろ終わりだ!」
そう叫んでカフカが大きく高周波ブレードを構え――
◆ ◆ ◆
「終わってみれば、一瞬だったね」
何がとは言わないが、こう、うん。ドンマイ、黒竜王。相手が悪かったんだ。
黒竜王君はものの見事に真っ二つにされ『え、ちょ、つよ』の一言を残して光の粒子となって消えた。いや、いい勝負だったと思うよ、僕は。
「じゃあ、えっと。カフカさんは、プラチナからのスタートになるわけだね」
そういってラカムさんはカフカに博士のギルドカードを渡した。カフカはそれを受け取って、ステータスウィンドウにかざした。カードの色は白金。ああ、カードの色でクラスが分かるのか。
そう一人納得していると、ワァッと周りで様子を見ていた冒険者たちが一斉に駆け寄ってきた。
「凄い強いね君! うちのクランに入らない?」
「ばっ! お前うちが先に目えつけてたんだぞ」
「こんな野蛮な男どものクランじゃなくってうちに来なよ! 女所帯で気が楽だよ」
うん。知ってた。これWEB小説とかでよく見る奴だ。試験とかで俺TUEEEEEした後に勧誘される奴。圧倒的主人公力と言わざるを得ないが流石に哀しい気持ちになってきた。カフカ、遠いところに行ってしまったなぁ。悲しいなぁ。哀しいなぁ。
と僕が幼馴染の女の子がアイドルデビューを果たして人気者になってしまったような切ない気持ちに襲われていると、カフカはこちらの方にたったったと駆けてきて、僕とキノメの腕をつかんだ。
「俺はこの二人と一緒がいいから無理だ!」
「「……っ!?!?」」
何という、何という不意打ち。正直うれしさのあまり意識がはるか彼方へと飛びそうになってしまったが、気合と根性で何とか意識を保つ。僕のこの鼻から滝のように滴り落ちる鼻血はきっと僕の心が流したうれし涙だろう。華から出てるのなんて大した問題じゃあなかった。隣を見やると、キノメがいまだかつて見たことの無い表情で静かに涙を流していた。後鼻血。
「この二人ぃ?」
「確かに【戦神】に認められた二人とはいえこんな逸材を独り占めってのはずるいぜ」
「そうだそうだ」
「お前たちは新人なんだから歴戦の俺たちが面倒みるってのが筋だろ?」
「新人にプラチナ級は役不足だぞ」
「【戦神】の紹介状だって偽物かもよ」
「お前ら本当に強いってんなら証明して見せろよ」
なんか、きな臭い流れになって来たな。さっき【鑑定】で本物だってわかったのに難癖つけてきやがる。多くの他の冒険者たちがなんとも言えない様子で眺めてるところからして、ここでまだしつこく勧誘してきてるやつらは普段からガラの悪い冒険者みたいだ。
「君たち、いい加減にしないか」
そうラカムさんが諫めようとするが、まるで効果がない。むしろギャーギャーとわめきたてるだけだった。これにはさすがにはじめに勧誘してきた比較的まともそうな冒険者たちも、「おいやめろよ」と声をかけるがまるで聞く耳を持たない。それどころか、さらに激しく僕とキノメをけなし、いかに自分たちのクランが素晴らしいかを語り始めた。
……あ、やばい。悪口を言われなれてる僕と違ってそろそろキノメの血管が切れそうだ。というか隣から来る威圧感やべえ。助けて。僕の胃に穴が開きそう。
「……それ位にしておけよ」
『ヒェ』
静かに口を開いたカフカに、思わず僕たちはひきつった声を上げた。よく漫画とかで見るけど実際大したことないだろーとか思ってたけどあれだ。前言撤回だ。リアルに浴びる殺気ってやばい。自分には向いていないはずなのに心臓が止まりかけた。恐る恐る視線を下にずらすと、カフカが――帽子のせいで表情は見えなかったが――うつむきがちにナイフに手を伸ばしているのがわかった。
あ、これあれだ。カフカってば天使のように優しいけど親しい人が馬鹿にされるのが辛抱ならんタイプだ。親しい人って…自分で言っててちょっとはずかしいな。
「な、なんだよぉ! こんな雑魚といちゃろくな事ねえって親切にいってやっただけじゃねえかよ!」
あ、そろそろ本気で隣の二人がやばい。爆発寸前だ、ここは僕がどうにかしないと死人が出るな。
「そんなに言うなら僕とあんた、サシで戦おうぜ。どっちが雑魚か教えてやる」
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