増殖20体目「登録試験」その3
主人公感……圧倒的……主人公感……
カフカが主人公過ぎてそろそろ玲汰がヒロイン化しそうです。
スティール級の試験。二体のスタッグ・ボア(何かでかいイノシシ)はゴブリンに引き続きワイヤーフックで瞬殺。
シルバー級の試験。二体のゾンビジェネラル(何か骸骨騎士の強い奴)は近づいてワンパン爆散。
ゴールド級の試験。二体のリザードマン・カイゼル(何かリザードマンの中で一番強い奴)は手刀一発で沈めた。
『…………………………………』
やけに沈黙が広がっているが、無理もないだろう。なんかもうありえんくらい強いからなカフカ。しかも、汗一つかいていない。だが、カフカのそんな姿を見ると、一体前の世界でどんな苦難を強いられてきたのかと思い、僕は情けなくて仕方がなかった。きっと僕なんかより苦しい思いをしてきたのだろうに、それをおくびにも出さないカフカには、この試験が終わった後個人的に話があります。
「いやあ、うん。……強いね」
ギルドマスターのラカムさんも真剣な顔でそう呟いた。というかやっぱりカフカの主人公力が高いな…。これはもう僕はカフカのメインヒロインになれる様、色々とやっておいた方がいいかもしれない。料理とか洗濯とか、そういうところでキノメと差をつけてやる。こう見えて家では家事全般をこなしていたのだ。僕のヒロイン力の高さならやれる。僕は静かにガッツポーズをした。
「すごい…まさか、ゴールドまで…」
フォールさんは、本当にうれしそうにつぶやいた。あ、何だろうこの人からやばい雰囲気が。具体的には戦闘狂的な香りが。僕は念のためさっきカフカに近づいたときに手渡された高周波ブレードを握りしめた。……高周波ブレードって、もうSFってレベルじゃないんですがそれは。確か超高速で振動することによって信じられない切れ味を――とかそんな感じだった気がする。魔力で動くそうだが、本格的にカフカのいた世界が気になるな。魔力も存在してたみたいだし、ロウファンタジーな世界なのだろうか。
「じゃあ、つぎは…おねがい…黒竜王…!」
「な! 待てハイド! それは流石に無茶だ!」
「おいやべえぞ離れろ!」
「い、いやだ! 巻き込まれたくない!」
「無駄口叩かずにとっとと逃げろよ後ろがつかえてるだろうが!」
フォールさんの言葉にラカムさんが思わず声を荒げる。そして冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように全力で距離を取り始めた。……何をする気なんだよ。僕はラカムさんの下に駆け寄って話を聞くことにした。
「ああ、いや。彼女が今から呼び出そうとしているのは黒竜王と言ってね。彼女がプラチナ級冒険者である最大の理由でもあるんだが、普通はアダマンタイト級でないと太刀打ちできない魔物なんだ」
「何でそんな化け物連れててプラチナ級なんですかね」
「プラチナとアダマンタイトの間には途方もない実力差があってね。プラチナを百人集めても一蹴されるのがアダマンタイトなんだ」
要は物差しがでかすぎて測れないと。プラチナじゃあ勝てないけどアダマンタイトなら余裕。そういった感じだろう。フォールさんはプラチナ級とは思えない実力だが、アダマンタイトはそのはるか上を行くという事らしい。怖えよアダマンタイト、ていうかそれすらしのぐレジェンダリのばあさんが一番怖えよ。この世界のパワーバランスどうなってんだ。
「そういうわけで、流石に黒竜王はプラチナの試験にしても強すぎるんだ。だから止めさせないと――」
「カフカ、お前やれそうか?」
そう尋ねると、「うん! 楽しそうだな!」と大輪の花のような笑顔を見せた。
「うっし、じゃあ行ってこい。無茶すんなよ」
「うん! まかせろ!」
そう言って元気良く手を振ってくれたので僕は危うく昇天しかけたが鋼の精神力で持ちこたえた。
「うわっ凄い鼻血」
「持病です」
「持病なら仕方ないな」
……鼻血を抑える薬って、売ってないかな。抜けた詰め物をもう一度詰めなおしつつ僕は馬鹿みたいに青い空を見上げた。
「じゃあ…いくよ…!」
僕がアホなことをしているうちにフォールさんは召喚詠唱が終わったらしく、力強く杖を振り上げた。
ビカビカっと杖から光がほとばしり、光の通り抜けた空間に黒い線のようなものが現れた。そしてそれは空中に円を描くようにとどまり、次第に精巧な魔方陣のような形を描いていく。え、いや、これさっきまでの奴らとエフェクト違い過ぎない? 僕は明らかに存在する格差に閉口した。もうちょっと優しく倒してあげてもよかったんじゃなかろうか。
『ほう、どんな強者が出てくるのかと思ったが……』
魔方陣から放たれた淡い光に照らし出され、そこに『在った』のは、全身が黒い鱗で覆われた、正真正銘のドラゴンだった。ていうか喋ったぞこいつ。やっぱり召喚獣といってもドラゴンクラスになると明確な自我があるのだろうか。というか魔物なのに普通に僕たちの言葉を話しているあたり滅茶苦茶頭良さそうだ。というより強そう。座った格好でも高さが二十メートルくらいある。というかこれは倒せるんですかねカフカさん。いざとなったら主人公のピンチに駆けつける系ヒロインの枠を狙いに行くか? もう完全に思考回路がヒロイン側に移行しているがそもそも僕は主人公って感じじゃないのでイロモノヒロイン枠を狙いに行く。女装も辞さない覚悟だ。
「すっげぇえええええええ!」
と、僕の心配は無駄に終わりそうだ。カフカは僕の【増殖】を見たときのように目を輝かせて黒竜王の周りを飛び跳ねたり駆けまわったりぺしぺし叩いてみたりと大はしゃぎだった。
『え、いや、あの』
黒竜王もいまだかつてない対応にどうしてよいものか困惑気味である。凄い防御魔法はったり分厚い盾を構えたりしている周りの冒険者たちも、『ええ……』と困惑を隠しきれないでいた。いや、まあ気持ちはわかるが。初めてあの姿を見たときはどうかと思ったが今となっては愛おしくてたまらないだけなので何ら問題はない。まあ僕の鼻から滴り落ちる赤いしずくとかブラックアウトしそうな意識とか色々あるが。問題ないな。
「まるで天使ね」
ぽたぽたと妙な音がしたので隣に目をやると、鼻血を垂れ流したキノメが立っていた。……うん、第三者目線で見るとホラー以外の何物でもないな。早いところ鼻血に効く薬でも探そう。僕はそう固く心に秘め、視線をカフカたちへと移した。
「すごい、のね…まるで…怖がって…いない…」
感心したようにフォールさんがつぶやく。
『ううむ、とはいえ、どうにもやり辛いのう……』
しゃがれた老人のような声で黒竜王がぼやく。気持ちはわかるがそろそろ戦ってやれよとフォールさんに視線を向けると、僕の意図を察したのか「そろそろ…」と黒竜王に声をかけた。
『ふむ、試験とは言うが、儂を消滅させて初めて勝利となる。手心は加えんから、死ぬかもしれんぞ』
「そのときは、そのときだ」
カフカは、当然のようにそう言い放った。その言葉にしばし冒険者たちが騒然となるが、先ほどまでに見せた洗練された戦闘技術も相まって、目の前の少女が普通の生活を送ってこなかったことを理解したのか、すぐに静かになった。
「俺は、戦うために生まれた。だからかな、戦うことが楽しい。戦うことを考えるのが、楽しい。まだ見たことない奴と鎬を削るのは、想像するだけでワクワクする。だから、たとえ戦いの中で死に果てたとしても、一片の後悔もない」
『……』
カフカは、ここに来て初めて脇のホルスターから二丁の拳銃のような魔道具を取り出した。カフカはインファイトガンナー、つまり銃こそがメインウェポンであり、それを取り出したということは――。
「本気で闘争う。殺しあおう」
『……ああ、かかってくるがいい』
こうして、黒竜王とカフカとの戦いが幕を上げた。




