増殖20体目「登録試験」その2
そんなこんなで始まったわけだが。うん。個人的には実況席とかに行きたい気分だ。んでマイク掴んで「や、やった!」とか叫びたい。おもむろに。特に流れとか一切関係なく。こう、フィーリングで。
「何を馬鹿なことを考えているのかしら」
隣に立つキノメがそう言って肘で僕を小突いた。
「カフカちゃんの晴れ舞台なのよ」
こいつは一体カフカの何なんだろうか。ちょっと不安になってきたぞ。いつかモンスターペアレントじみた行動でもするんじゃないかこのストーカーは。カフカは僕が守らないと……。
「じゃあ、いくよ」
と、僕が盛大なブーメランをぶちかましていると、フォールさんが杖を軽く振り、ゴブリンを二体呼び出した。うん、別にこの世界の魔物に詳しい訳じゃないが、あのビジュアルはゴブリンで間違いないだろう。
「ではまず、このゴブリン二体を倒してくれ」
やっぱりゴブリン出会ってたみたいだ。僕がそう頷いていると、「なあ」とフォールさんにカフカが声をかけた。
「召喚獣って、死んだらどうなるんだ?」
その質問に、目をぱちくりさせたフォールさんは、「どういう意味?」と聞き返した。
「いや、魔物って言ってもさ、召喚獣ってことはお前の仲間みたいなもんなんだろ? だから……」
そう、頬を掻きながらカフカは言った。何だこいつ……聖人かよ……。
「別に、召喚獣は…死ぬわけじゃない。座に…帰るだけ…だから、大丈夫」
「ならよかった。安心して戦える」
そう微笑むのと同時だった。
『……………………………えっ?』
ゴブリン二体の首が、するりと滑るように体から離れ、ゴブリンたちは悲鳴すら上げることなく消滅した。
………カフカの装備からしてわかってたことだけど、滅茶苦茶強くない?
「え、いまえ、何が」
「おいお前何か見えたか」
「なにしたんだあいつ」
口々にそんな声が聞こえてくる。うん、これあれだね。無双系で主人公が言われる奴だね。もうカフカの主人公力が覚醒しているね。誰がどう見たって主人公はカフカだね。……なるほどすると僕はヒロイン枠だったのか。え、僕カフカに攻略されちゃうの? やだ、ちょっと恥ずかしい。
と、俺が中々に気持ち悪いことを考えていると、唖然とした様子でフォールさんが口を開いた。
「今、のは…一体」
あれ、みんな気づかなかったのかな? 僕はたったったとカフカに駆け寄った。
「ワイヤーか? 随分切れ味がいいんだな」
「! 分かるのか?」
ああ、と頷いた。遠くから見ていたというのもあるが、カフカが一瞬だけポケットに手をいれて何かをつかみ、それを振るところが見えたのだ。あと、日光できらりと光が反射したワイヤーも。
「へ、えへへ。やっぱりレイタは凄いな。絶対気づかれないと思ったのに」
そう言ってはにかんだように笑うカフカ。僕はもう手馴れてきたので鼻血が噴出するよりも早く指を突っ込んで止めた。この間僅か0.2秒である。我ながら早い。いつか僕はこの動きで光すら超えて見せる。いつか戦闘に役立つときとかも来るかもしれないし。正直鼻の穴に指を光速で突っ込むことが役に立つ戦闘ってなんだよって話だが。……今フラグ立ったか?
「今の…貴方は、知っているの…?」
フォールさんが聞いてきたので、「見せてやってくれるか?」とカフカに聞くと、カフカは服と同じ濃い緑色の迷彩が施された筒状の手のひら大の道具を取り出した。
「これは…?」
「ワイヤーフックだ。本当はこのフックを引っ掛けて使うんだが、別の使い方もできる」
そう言うと、ゴムで出来たグリップをぐっと握り上部のスイッチをカチッと入れた。それと同時にプシッと乾いた音がしてフックが射出される。成程、ガスで射出しているのか。これなら軽く手を振っただけでゴブリンの首が飛んだ理由もわかる。
「こうして飛ばすだけじゃなくて」
今度は人差し指のスイッチを入れ、ギュンと一瞬で巻き取った。
そうして、少し開けるようにと指示し、誰もいなくなり訓練用の案山子だけが立っている空間に向けて、わかりやすいよう大きな素振りでフックを放つ。
すると、ピアノ線レベルで細く洗練されたワイヤーは、フックがちょうど錘になるように空中で弧を描き、案山子を両断した。
『はっ!?』
また周りが驚愕しているが、原理自体はどうってことない。ピアノ線の先に錘をつけてぶんぶん振り回している中に指位を突っ込むと軽く切り落としてしまうのと同じだ。要は物が切れるくらい細いワイヤーを高速で巧みに振ることで物を切っているだけである。
むしろ驚嘆すべきはカフカの技術力だろう。直線的に高速で射出されるワイヤーフックで十メートル以上先のゴブリンの首を落とすなんて、並の技術じゃない。しかも一連の動作を一秒にも満たない速さで行っているのだ。恐らく、これだけの技術を身に着けるために壮絶な訓練を積んだのだろうなということが、素人目にも見て取れた。
「こういう風にして武器としても使えるんだ」
『………』
カフカの言葉に、歴戦の冒険者たちはみな黙り込み、真剣なまなざしでワイヤーフックを見つめていた。おそらく、彼らもこの単純な構造の道具をああまで使いこなすカフカの技術に気付いたのだろう。既に関心はトリッパーの持つ不思議な道具よりも、彼女自身の能力へと移っていた。
それに気づいてか気づかずか、カフカはフォールさんに笑顔で言った。
「じゃあ、次の召喚獣をだしてくれ」




