増殖20体目「登録試験」その1
「おお、すっごい広い」
案内された先、街の外に特設された冒険者ギルド所有の訓練場に着いて、僕の口から出た感想はそれだった。
カブトを囲う巨大な城壁、その平原側の一角を、更に外側から囲むようにしてしつらえられたこの訓練場は、木造の巨大な円環状の建物でおおわれた施設だった。木造の外周部を抜け、中に入ると、様々な訓練のために区画分けされたグラウンドが広がっていた。
木の棒に藁を括り付け、人型にしたものを相手に、木剣で打ち込みの練習をするもの、奥のトラックで大きな荷物を背負って、スタミナをつけるべく走り込みをするもの、教官らしき壮年の冒険者相手に挑みかかるもの、傷ついた冒険者たちを魔法で癒すものなど、パッと見るだけでここがいかに充実した訓練施設なのか推し量ることができた。
しかも、馬鹿みたいに広いので、みんなが伸び伸びと訓練に励んでいる。その顔には、強くなりたいという向上心がありありと見て取れた。凄まじい熱気。強くなりたい者たちが本気で鍛錬を積み、己を磨き上げる様は、ここまで心を打つものなのだろうか。前の世界では基本屑しか知らない僕にはあまりにもまぶしい世界だった。
「皆! 聞いてくれ!」
僕が感心していると、ギルドマスターのラカムさんがパンパンと柏手を打ってそう叫んだ。
瞬間、ぴたっとみんなの動きが止まる。凄い。何がすごいかってみんながラカムさんの言うことをきちんと聞いているのがすごい。冒険者っていうから、荒くれ物のイメージがあったんだが。いや、それを従わせているラカムさんの求心力がすごいのか。
そんなことを考えていると、ラカムさんは拡声器のような形をした道具を取り出した。
「こちらの三人が今日からこのカブトの冒険者ギルドに新人冒険者として所属することになった」
オオオー! と歓声が上がる。どうやら歓迎されているらしい。
「ついては彼女、カフカの入団試験を行うから、スペースを開けてくれ」
そう告げると、みんな待ってましたと言わんばかりに慌ただしく準備を始めた。と、ここで、一人の長身の獣人冒険者がラカムさんに声をかけた。
「どうしてこっちの二人は試験しないんだ?」
そう言って訝しげに僕らを眺める獣人冒険者。いやまあ、気持ちはわからんでもないが。僕も逆の立場なら同じことを言っているだろう。
「ああ、その二人は【カブトの戦神】の紹介でここに来たからね。試験はパスだ」
『はぁ!?』
その場にいた全員が信じられないほどの大声をあげてこちらを見た。ちょ、ラカムさんそういう情報は伏せてほしいんですが。ほら、みんなすごいこっち見てるから。
「い、いやだなぁラカムさん。そういうジョークはあんまり受けないぜ」
「そ、そうよ。酒の席じゃないんだからそんな」
「い、いきなりそんな冗談ぶっこまれたらそこの新人さん方も困っちまうぜ」
は、はははと笑いながら、ラカムさんの悪い冗談という方向にもっていこうとする冒険者たち。いや、うん。そりゃ伝説の冒険者だしね? 僕だってそんなこと言われたら冗談だと思うもの。
「いや、本当だよ。これが紹介状だ」
そういって先程渡した紹介状を、騒ぎを聞いて駆けつけてきた教官と思しき壮年の冒険者に手渡す。
「……この封筒に籠められた魔力の質、独特の筆跡と言いまわし。それに何よりこの封蝋……・いや、一応【鑑定】を……」
なにやらスキルを使ったらしいが、男はまじまじと紹介状を見つめ、目を見開いた。呆然とした顔をあげ、小さくつぶやく。
「ほ、本物だ。これ……」
『えええええええええええええええええええええええ!?』
先ほどの喧騒をはるかに超える騒ぎである。ああ、だからヤメテって……。
「まだ生きてたの【四大英雄】!?」
「【戦神】の生手紙なんて初めて見たぞ!?」
「こんなの国立資料館クラスの遺物だろ……」
等と、冒険者たちは様々な意見を口々に口にしている。いやさ、生きてんだから遺物扱いはどうかと思うよ。というか今大事なのは僕じゃなくってカフカの方だと思うんだが。
そう思ってカフカの方を見ると、「えへへ、二人ってすごいんだな」と微笑んでいた。天使かよ。鼻血出るわ。
「うわっ、なんだこいつ突然鼻から血が」
「え、ちょ怖い」
……僕は無言で鼻に詰め物をした。
「さて、これ以上は収まりもつきそうにないし、先にカフカ君の試験を済ませてしまおうか。頼めるかい? ハイド」
「ん? ああ…大丈夫だ」
と、呆けていた一人の冒険者に声をかけるラカムさん。
「紹介しよう。彼女はこのギルドの誇る召喚士ハイド・フォールだ。ここでは彼女の召喚した魔物と戦って初期ランクを決めることになっている。ちなみに彼女はプラチナ級の冒険者だ」
「どうも…よろしく」
そう言って軽く会釈してくるフォールさん。飄々とした感じではあるが、確かに強そうなオーラがある。多分僕が挑んでも瞬殺だろうな、事実横野に一方的にボコられたし。横野より断然強そうな雰囲気あるから戦ったら負けるんだろうな。
ところで、
「プラチナ級ってのは?」
「ああ、そうか。君たちはギルドについてよく知らないんだったね」
そういわれ、ざっと説明されたのが以下の通りだ。
ブロンズ級。駆け出し冒険者。
スティール級。離れしてきた感じの冒険者。大体ここで調子に乗って死ぬ。
シルバー級。中堅冒険者。依頼のこなし方が板につき、生涯シルバーでいるものも多い。
ゴールド級。超人に片足突っ込んだ冒険者。吟遊詩人に語られるレベル。
プラチナ級。超人。単独で一個大隊は相手にできるくらいの頭おかしい奴ら。
アダマンタイト級。人外。一国を相手に渡り合えるレベル。絶対おかしい。世界に八人しかいない。
レジェンダリ。伝説の四大英雄クラス。四大英雄以外にこのクラスになった者はいない。
ということは目の前にいるフォールさんはかなり強いということだろう。上から三番目って相当である。いやでもそれくらい強くないと安心して試験できないってことだろうか。
「ここで、私の出した…召喚獣を…倒してもらう…。だんだん強いのを出して…倒せた召喚獣の強さで…初期ランクが…決まる」
なるほど。倒せたら次、倒せたら次という感じでやっていって、最後に倒せた奴の強さで決めると。多分連続で戦うのは、持久力とかそこらへんも加味してるんだろうな。よくできたシステムだ。
「さあ…やろうか」
そう言ってフォールさんは杖を掲げた。




