増殖19体目「四大英雄」
そして、なぜか今僕たちは冒険者ギルドのカブト支部、そのギルドマスターの部屋へと招かれていた。
「いや、まさかまたあの【瞬獄のローリスベリス】の名を目にすることになろうとはな……」
そう言ってどこか遠いところを見るような目で葉巻をふかした男がこのギルドのギルドマスター、ロルベリオ・グラヌス、獣人である。
初めて見るまんま犬のようなフェイスをしていらっしゃるこの獣人に感動するよりも、さらっと出てきた謎の呼び名の方が気になってしまった。なんなんだ【瞬獄のローリスベリス】って。なんだその異様なまでの強者感を称えた二つ名は。なんだそれ、絶対強い奴だろそれ。強い奴にのみ許される名前だろそれ。
「彼女は、負け知らずの伝説の冒険者だった。強く、それでいて美しく。情に溢れたいい女だった。彼女が若いころはの男たちはみんな、彼女に抱かれることを夢見たもんさ」
抱かれる側かよ。そこは強気に行けよ。
「あの【不滅女傑】、いや【殴殺戦姫】、【龍殺し】、いや【カブトの戦神】と言っておくか」
二つ名多すぎないか。というか字面やばいが一体何をやらかしてきたんだあのばあさん。
「結局はただ一人の男も娶らず、生まれ故郷の村で隠居していたはずだが……」
だから何でちょくちょく表現が男女逆転してるんですかね。あれかな? あまりにも漢らし過ぎて周りの男たちが乙女化しちゃってるのかな?
「ともかく、まさか隠居したはずの【四大英雄】の一人から直々に紹介状とはね……」
うん、今何気に聞き捨てならない台詞が聞こえたぞ。
「あの、四大英雄というのは一体何なんです?」
「ああ、そうか。君はトリッパーだったね。知らないのも当然か」
そう独り言ちると、彼は語り始めた。百年前にこの世界で起きた戦いの話を。
◆ ◆ ◆
百年前、異世界トリッパーである『クラウド・ワニブチ』が一人のエルフの手によって殺された。初めはまた異世界嫌いの偏屈エルフがトリッパー狩りをした。その程度の認識だった。
だが実際のところ、そのエルフの目的は殺したトリッパーの体から境界神の力の残滓を奪う事だった。
濃度の違いこそあれ度、どんな手段であれ世界を跨ぎ転移したものは全て境界神の力に晒される。そうして、体に境界神の力を多少なりとも宿すことになるのだが、件のエルフは、これを特殊な魔道具で殺すことにより奪いとることに成功したのである。
けれどそんなものを集めてそのエルフは何をしようとしていたのか。
彼は、魔神になろうとしたのである。
彼のたくらみは、成功した。してしまった。魔族以外からの魔神はこれが初めてで、なおかつ境界神の力を得ていたため、周辺諸国は瞬く間に彼の支配下となり世界は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。そもそも魔神自体の出現が数百年ぶりであるというのにあろうことか前々からマークしていた魔族ではなく、エルフの国から出た魔神とあって、世界中の国々は一歩対応が遅れてしまった。
これがまずかった。
元々格式高く、外交やらなにやらでも非常に面倒と言われていたエルフの国に、果たして攻撃を仕掛けてよいものかと思い攻めあぐねる中、魔神率いるエルフは次々と国を落としていった。流石にまずいと思ったときには後の祭り、わずか四年でベルック大陸と東アリシューバ大陸のほぼ全土をエルフが支配することになった。
さらに追い打ちをかけるように、支配地で次々と街単位での生贄を使った過去に存在した魔神たちの召喚が行われ始めたのだという。魔神の狙いは、魔神によって世界を滅ぼし、自らの望む形へ作り変えることだったのだ。
もうおしまいだ。誰もがそう思ったとき、四つの種族から四人の英雄が現れ、彼の魔神と召喚された十二柱の魔神を打ち倒し、世界を平和に導いた。
その四つというのが、人族の『ミネヴァー・ローリスベリス』、獣人族の『ロブッセリオ=カーフ=アルゴリエ』、ドワーフ族の『ドッジ』、そして魔族の『ファルス・アルサース』の四人だったのだ。
◆ ◆ ◆
「というわけで、君たちが会ったとかいう老婦人は、まぎれもなくこの世界を救った英雄の中の英雄なんだ」
「じゃあなんで甥っ子に命狙われてたんだろう……」
英雄殺しを目論む英雄の甥ってなんだよ。血も涙もない世界だなおい。
「ああ、彼はハーフエルフだったからね」
察した。いや、ていうかここに来て話が滅茶苦茶重いわ。え? 何なの? あのばあさんそんなすごい奴だったの? そんなすごい奴が何でオオタイリクコロガシに転がされてたの? あとあの村に渦巻く闇深すぎない? 怖くて僕二度とあの付近に近寄れないよ?
「成程、初めて聞く話だったけれど、大体の大筋は理解したわ」
「何でお前が知らなかったんですかね」
知ってろよそこは。お前ここの世界出身だろうが。僕がそんなささやかな思いを秘めた目でキノメを見つめるが、逆に絶対零度よりも冷たい瞳で射抜かれたのでこの件についてはもう口に出さないことにした。
「さて、この紹介状に書いてあった通りなら、君たち――そこの青鬼の彼女と、いい具合に目が死んでる彼はオークの群れを討伐してくれたようだね」
そう言って微笑むと彼は二枚のカードのようなものを僕とキノメに手渡してきた。
「本来ならギルドに入るにあたり入団試験や何やらがあるんだけど、君たちの実力と身元はあの四大英雄のお墨付きだからね。これはギルドカードだ。これは身分証代わりにもなるから今度から門を通るときはこれを使うといい」
まじか、ばあさんに感謝しなくては。そう思いながら、どんなカードなのかと手渡されたカードを見てみるが、カードには何も書いていない。
「ああ、それはね、ステータスウィンドウを開いてごらん」
言われて、二人ともステータスウィンドウを開く、すると
「うおっ」
「あら」
ステータスウィンドウが煌めき、光のような何かが手の中のカードに吸い込まれていった。おお、ファンタジーっぽい。
「これで、君たち二人のギルド登録は完了したわけだけど、そこの彼はどうすr――」
「HEじゃねえSHEだ! そこんとこ間違えてんじゃねえ!」
「こんなかわいい子が男なわけないでしょう!」
ギルドマスターの言葉に超速反応を見せる僕たち。あの時の悲劇を繰り返してはならない(戒め)。
「え……? あ! ああ! す、すまない。君は女の子だったのか」
「ん? 俺は気にしてないぞ?」
謝るギルドマスターに笑顔で返すカフカ。ええ子や、ほんまええ子やでカフカは……。
「と、とにかく。彼女に関しては一応簡単な試験を受けてもらわなければならないんだが。君は、戦えるのかい? その、トリッパーの多くは戦いのない世界から来るから」
そう遠慮がちに聞いてくる。えっと、確かカフカのいた世界って終末戦争の真っただ中とかそんな感じだった気がする。ほぼ間違いなく僕より戦い慣れていると思うが。というか仮面男の腕吹き飛ばしてたのは多分カフカだしこの中では一番強いと思うんだが。
「ああ、戦いには慣れているからな。大丈夫だ、やれる」
そう返すと、ギルドマスターは立ち上がった。
「ついてきてくれ、案内しよう」




