増殖18体目「交易都市カブト」その2
「というわけで、異世界トリッパーの僕とカフカは身分証がないし、ここの何か青いのは引きこもり気味で身分証作るどころか街に来るのも初めてのコミュ障なぐぅおあ」
いきなり説明している最中に裏拳を食らった。
「こちらの汚物が言ったことの内後半は口から出まかせもいいところだから気にしなくても結構よ?」
なんて失礼な奴なんだろうか、こいつは。村から一度も出たことないとかいう田舎出身宣言を受けたからそれを哀れに思って(相対的に)都会派な僕が説明を担当しただけじゃないか。どこに不満を申し出るような要素があったというのだろうか。
ここは、門から少し離れた門番たちの駐屯所の一室である。僕たちの様子にただならぬ気配を感じ取ったのか、わざわざこうして作業を一時中断し、炎天下だろうと雪が降っていようとフル装備で一日中門の前に立って身分証を確認するだけというブラックも真っ青な職業である門番には何にも耐えがたいであろう休憩時間をわざわざ割いて話を聞いてくれているのだ。なんといういい人なのだろうか。まるで聖人のごとき優しさに落涙を禁じ得ない。しかも、僕たちのいまいち要領の得ない話も、しっかりと頷きながら聞いてくれて、本気で心配してくれているのが伝わってきた。
なんて、なんていい人なんだろうか。僕は今確かにこの世界に来て最大級の感銘を受けていた。門番とか、検問所にいる人たちってなんか怖いなーって前の世界じゃ思ってたけど、もう完全に心を入れ替えたね僕は。もしもこの街で門番を困らせるような騒ぎを起こしているようなやつがいたら僕がぶちのめしてやる。そう固く誓った。
「そうか、君たちのうち――そこの彼と帽子の子の二人は、この世界に来たばかりだったんだね」
大変だったろう? とほほ笑む門番さん。止めてくれ、これ以上は、前の世界で人のぬくもりに慣れていない僕にこれ以上は―――っ。僕は何とか零れ落ちそうになる涙を気合で食い止める。今ここで泣いたら、きっとさらにこの人に心配をかけてしまうだろうと思ったからだ。いやそれにしても、それにしてもなんていい人なんだ門番さん――名前知らないけど――。
「でも、この街に来たからには大丈夫さ。美味しいものもいっぱいあるし、冒険者ギルドや魔導士ギルド、治療院もあって施設は豊富だし、交易都市ということもあって国の管理下にあるから衛兵たちがパトロールしてくれているからね。それに身分証だって、街の広場にある役場にいけば作ってもらえるよ」
「も、門番さん……!」
僕はこの段階でもし近隣の魔物がこの街に攻めてきたとしたら、この門だけは何人の僕が死んでも守り抜くことを決意した。フロンだろうが勇者だろうが魔王だろうが何だろうとか掛かって来るがいい。人のやさしさを知った今の僕ならなにが相手でも戦える気がした。というか戦う。そして勝つ。僕はそう確信した。
「ええ、あと、こちらの紹介状を預かって来たのだけれど」
とここでキノメが例のばあさんからの紹介状を門番に見せた。いや、そもそもその紹介状はこの街にいる人に対しての物なのかも知らなければ、そういう使い方をするものなのかも微妙なんだけども。
「えっと、見せてもらうね」
そう言って封筒を受け取り、封蝋と差出人を確認した瞬間。
「………………………………え?」
門番さんは言葉を失った。




