増殖16体目「妄想」その2
えっと、かなりやばい状況になっているらしい。僕は冷汗を流しながら飛んできた瓦礫を躱す。
ジルナードが黒騎士のスキルを受け流すと同時に放った転移魔法により、あの部屋にいた三人は魔王城の地下らしき飛ばされ、そこから息つく間もなく視認が困難なほどの速度による高速戦闘に入った。のだが、本当に恐ろしいのは高速戦闘の余波ではなく、黒騎士のスキル【Wahnvorstellung】だった。
【Wahnvorstellung】、確か日本語だと【妄想】という意味だっただろうか。このスキルは、ある意味【カイザー】よりもたちが悪かった。
悪を「無かったことにする」【カイザー】に対し、【妄想】は「物体の本質を捻じ曲げる」スキルと言えた。早い話、あれを喰らうと「狂う」。どのように狂うのかはまるっきりランダムのようだが、【妄想】をまともに受けた石柱はものの見事にねじ曲がり、目も当てられないことになっている。床も荒れ狂う海原の様に波打っているし、出入口のアーチの要石が崩れないか気が気でならない。
だが、何よりも恐ろしいのは【妄想】を生身で受けることだろう。あれを喰らった体がどうなってしまうのかは、想像に難くない。
「ふん、この程度か闖入者! 国が知れるぞ!」
この状況下で黒騎士を挑発しながら懐に潜り込むってあの人どんな神経してるんだろうか。
こちとら物陰に隠れられないもんだから出来るだけ体を相手の視界に入れないようにコソコソ逃げ回っているっていうのに。
やはり部屋に閉じこもってメガ○ラでド○ルドをやっていても、魔王という事か? これが一国を背負うものの戦いと?
そこまで思案して僕はフルフルと首を横に振った。違う、そうじゃない。そもそも黒騎士は僕一人を狙ってきているようだったし、ジルナードが闘う理由なんて実は存在しない。一国を治める者としての正しい対応は、僕を黒騎士に差し出すことだ。
それでも黒騎士と闘っているわけが分からない程僕は鈍くない。でも、だからこそ悲しくなる。
また僕は守られようとしている。自分がどうにかしなければならないことから目を背けて、別の誰かにやってもらおうとしている。それがいけないことだと分かって、分かったうえでまた逃げ出そうとしている。任せようとしている。チクショウ。
「いい加減鬱陶しいぞ東の魔王――!」
「ぐ――⁉」
漆黒の騎士が放ったビーム状の【妄想】の一撃が空中で突然軌道を変え、跳躍して回避しようとしたジルナードの左脚を目がけ加速する。
僕は、この世界に来た時、天霧さんに庇われそうになった。結果的にそうはならなかったけれど、情けなさすぎるだろ。この世界に来てからだって、横尾との戦いのとき俺は自分で戦うことを諦めてオオタイリクコロガシに頼った。別にそのことについては情けないとは思わない。思わないけど、様はTPOってやつだ。あの時の戦いは誰かにすがったって僕はなんとも思わなかった。
でも、今この状況で見てるだけなんてのは。
そんなのは、違うだろう。
ボッチだろうと、みじめだろうと、最後の最後で譲れないプライドってのがあるもんだ―――。
「クソったれ、やってやんよ」
僕は自分を奮い立たせるようにそうつぶやいて跳躍と共に【増殖】を使用する。
そのまま増えた僕を別の僕がつかみ、ジャイアントスイングじみた動きで投げ飛ばし、ジルナードを間一髪で突き飛ばした。もろに攻撃を食らった僕の一人は信じられないような形に体がねじ曲がり、勢い良く血を噴出して死んだ。だが、分体が死んだところで全員死なない限りはさしたる支障もない。
僕は、思いもよらぬ介入に度肝を抜かれ唖然とする黒騎士に分体達と同時に一斉につかみかかる。
怪我の功名というかなんというか、しまい忘れていた僕の分身たちが全員やられていたおかげで、かなりの数を増やせていた。しかも、横尾戦で熟練度が上がっていたのか、人数は十七人まで増えていた。
その無数の僕たちの決死の攻撃が黒騎士に命中し、よろよろとよろける。
「やったか⁉」
僕のうちの誰かが叫ぶ。ええい死亡フラグを立てるな。そういうこと言うときは大抵生きてるって相場は着いてるだろうが。僕は「気を抜くな!」と叫んで【交信】を発動、意識を同期させてあらゆる角度から黒騎士を注視する。やっぱり体当たり程度じゃ倒れてくれるはずもなし、黒騎士は表情を読み取れない黒塗りの兜の下で恐ろしい雄たけびを上げながらスキルを発動し、周囲にいた僕の分身を次々と肉団子の様に丸めて潰し、殺していく。全く以て気の狂いそうな光景で、しかも【交信】により同期された意識で死の間際の絶望が痛いほど伝わってきて泣きそうになる。
それでも、僕はHPの許す限り【増殖】を発動し、途切れることなく黒騎士に襲い掛かる。正直スキルの使い過ぎでめまいすらしてきたが、そんなものはお構いなしに無我夢中で増やし続ける。
「っがぁ、くそっ数が多いだけの愚図が!」
流石の黒騎士も、度重なる執拗なまでの攻撃にその勢いを殺されつあった。当たり前だ。この黒騎士の力はまず間違いなくサクリファイススキルだろう。サクリファイススキルと言えば強力な代わりに使用者への付加も大きなスキル。そんなものを何度も何度も使っていれば次第に動きが乱れていくのは自明の理だ。
まあ、それは僕も同じなわけだが。
「ジルナード! 今のうちに!」
スキルの連続使用で朦朧とする意識の中、魔王に向かって僕は叫んだ。刹那、
「ああ、君の砕身は無駄にはしないとも―――!」
ジルナードは、號と声を上げて高く舞い上がった。
「”撃ち砕け”、”穿ち砕け”、万象の牙よ――!」
そして、『空間そのものが黒騎士に突き刺さった』。
連載は終わったといったな、あれは嘘だ。
……すいません、ちょっとばかしニコニコで漫画描いてたりしてたらこちらの更新がとんでもないことになってしまって……、またぼちぼち投稿しますので、よろしくお願いします。




