増殖16体目「妄想」その1
「会話の最中に侵入とは無粋だな」
「ご忠告痛み入る、が。こちらはそうも言ってられない状況でね」
二人の警戒しあうような態度から、かろうじてこの二人が初見である事は理解できた。だが、この闖入者、どうにも初めて会った様な気がしない。どう考えてもこんな騎士には会ったことなんて無いのに。
漆黒のブリガンダインに身を包み、その鎧よりも深く暗い瞳だけを面の隙間からのぞかせた黒騎士なんて。
待てよ、暗い瞳……? そう言えばどことなく、誰かに似ているような……。いや、気のせいか。
「さて、用があるのはそちらの勇者なんだ。ジルナード公にはご退室願いたいところだ」
「そう言われて引き下がる様に見えるか?」
そう冷ややかに笑い静かに横薙ぎに手を振ると、ジルナードの体を真紅のブリガンダインが包んだ。ちなみにブリガンダインとは礼式用の装飾が施されたなんかキラキラしたゴージャスな鎧の事だ。みんなゴージャスなのに僕ときたらカッターシャツ、ズボンに胸当て運動靴と言う貧相な装備である。くそ、これが格差社会か。
「そうか、手荒いのは足が付くから嫌いなんだが」
呟いて、片手で顔を覆うように身を捩る黒騎士。指の隙間からこちらを除く目を青色の無気味な炎が包んだ。
「へえ、その眼。かなり高レベルの代償スキルを使うようだが、色から察するに干渉系か?」
にやりと獰猛な笑みを浮かべるジルナード、そこには先程まで僕に見せていたやさしさは無かった。
というか展開が速すぎてついていけないんですけど。何だろう、この懐かしい疎外感。皆僕を置いて話を進めるのは何なの? いじめ?
「それは自分の目で確かめていただこう」
瞬間、眼の炎が黒騎士の全身を包み込んだ。
「【Wahnvorstellung】―――ッ!」
「随分騒がしいですね」
ルサールカはそう呟いて顔を上げた。確かあっちは魔王様の部屋だよなー侵入者かなー助けに行った方がいいかなーでも怖いなー、とそんな感じの事を考えているがボッチ特有の小リアクション故に誰にも気付かれていない。いやまあ気付かれたくないからこその小リアクションではあるのだが。というかビビるときは全然普通にリアクションするくせに普段はそうでもないとか本当何なんだろうこの魔法使い。
「あら、何かあったの? 不安そうな顔をしているけれど」
と、キノメはルサールカの表情の変化に気づいていたようだ。流石は狙撃手と言った処か、勘は相当良いらしい。
「いやあの、キノメさんこそ大丈夫なんですか?」
キノメは眠ってしまったカフカに膝枕をしていた、滝のような鼻血を流しながら。鼻血がかからないようにバケツを構えているあたりにキノメのジェントルメンソウルが光っていた。病院に行きましょう。
「いえこれはごくごく自然な―――そう、言うなれば仕様ね」
なんてことを言うんだろうこの人は。そう思わなくもなかったが、いやでも仕様なら仕方がないかとルサールカはひとり納得した。だって仕様だし。仕方ないよね。仕様だし。
「それにしても随分と話が長いのね、あなたの処の魔王様は」
にやにやと笑いながらキノメがそう尋ねる。ルサールカは、んーと首をひねった。
「いや、あの人が自分の部屋に人を招くなんていうのは、初めてのことですしね……なんだか、『ずっと待ってた』とか、『やっと会える』とか言って楽しそうにしてましたけど」
ガタタッ。なぜか鬼気迫る勢いでキノメが腰掛けていた客間のソファから立ち上がった。しかも寝ているカフカを一瞬で脇の方にそっとよせてからである。こういった処にジェントル以下略。
ルサールカはほほうそういう事かなーと思ったが、すぐに違うと悟った。キノメの額を大粒の冷汗が伝っていたからだ。
キノメはルサールカを睨みつけるようにして言った。
「魔王の部屋はどこ? なんだか嫌な予感がする」




