増殖15体目「絶対中立ジルナード」その2
「ふふ、それでね、その王様がまたとっても面白い人だったんだ」
ジルナード(ついさっき教えてもらった。魔王の名前)は、笑顔でそう話しながら僕の左肩にもたれかかる。その姿を見ていると、どうにも微妙な気持ちになってしまう。
正直なところ、こういうのは本当にやめてほしい。
ジルナードは無邪気に話し続け、話に熱が入れば入るほどにその体を僕に押し付けてくる。普通の童貞なら勘違いしてしまうのだろう、「ああ、きっとこの人は自分に好意を抱いているのだな」と。しかしそれはただの妄想。そんな陳腐な自己満足の世界の刺激では、童貞に加えてボッチといじめられっ子のスキルを保有している僕の心は動かない。
そもそも僕に優しい奴はいつだって誰にでも優しい奴なんだ。そんなものにいちいち反応して空喜びしてても空しくなるだけだ。
例外があるとするなら、5年前に両親が離婚した時、母方に付いていった姉の夜霧位だろうか。今は増田ではなく蓮花に性が変わっているが、あの人はなぜか僕にしか心を許していなかった。
実の弟でも無いのに。
まあ、蓮花夜霧―――夜姉はいつも僕の味方だったと言える。ついでに言うと死んでしまったばあちゃんも僕の味方だったか。
じゃあキノメやルサールカは何なのか、簡単な話だ。
僕らは互いの傷を嘗めあっているに過ぎない。そも、ボッチとボッチが出会った処でそこから感動のサクセスストーリーが始まるわけがないのだ。
考えすぎだというかもしれないが、実際はこんなものだ。僕は達観しすぎるくらいが人間丁度良いと考えているし、別段どうということもない。そも、ボッチはある種の悟りを開いている種なので問題ないのだ。余計な期待を抱いて振り回されるような『にわかボッチ』とは違うのだよ。
……いやまあプロとか悲しくなるだけなんですけどね。にわかのが良いよ本当。
「ねえ、玲汰君」
「……どうしたよジルナード」
何で突然名前呼んだんだろこの人、そう思って彼女の顔を見ると、先ほどまでとは打って変わって真面目な顔をしたジルナードがいた。きっと、これがジルナードの『魔王』としての顔なんだろう。そう感心していると、ジルナードはその大きな瞳をじっとこちらに向けた。
「キミの分裂体は全員殺されてるよ」
「………っ⁉」
思わず息が詰まりそうになった。だが、ここで詰まると恐らくここから切り出されるであろう『本題』の主導権を握られてしまう。
僕はあくまで平静を装って切り返した。こういった手合いには動揺を悟られてはいけない。付け込まれる。
「何でそんなことが分かるんだ。いやそもそも何でお前が僕のスキルを知っている? 僕はルサールカの前であのスキルを使っていない、だから知ってるはずがないんだよ」
一息でそこまで話し、じっとジルナードの目を見据える。
心理学において、目線と言うものはコミュニケーションという『技術』の大半を占めるものとされている。つまりそれは訓練された人間なら目の動きひとつで考えを探ることすらできるという事だ。これが所謂読心術と言う奴だが、恐らく子の魔王はそういったことに特化しているのかもしれない。
しかし、そうなるとまた厄介だ。仮に僕の仮説が正しいのだとすれば、僕はこの部屋に入った瞬間からこの魔王に観察されていたことになる。もしそうならこの状況は最悪だ。近くに仲間がいない、戦いにもつれ込むとヤバい。しかも僕のことを観察していたのだとすると、僕のスキルじゃ応戦できない。仮にも魔王だ、最悪スキルを使う暇すらなく殺される。
「ああ、そんな事か」
けれど、僕の予想に反してジルナードは静かに微笑んだ。
「分からない訳が無いだろう? だって私は―――」
「お取込みの所失礼する」
ジルナードが何かを言った、その全く以て同時に、その闖入者は現れた。




