増殖14体目「魔王邂逅」その2
「つまり、魔王さまがぜひとも玲汰さんとお話をしたいと」
「それ私たちがくる理由じゃないわね」
「言ってやんなよ……」
僕は頭を掻いてそう呟いた。多分ついでに集めてくれといたとかそんなのだって。ボッチなりの心配りだって、察してやれよ。ただでさえ苦手な気遣いを無理にしてんだから。
「って僕魔王に会うのかよ」
それって勇者的にどうなの。いやまあ魔王軍庇って勇者ボコったんなら立派に魔王サイドな気もしないではないけどさ。しないんだけどさあ。なんなの僕ばっかり。
何でこんなダークサイドを突っ走らなきゃいけないんだよ。
「えっと、別にうちの魔王様は人間と敵対してないですよ」
「え、まじで?」
ルサールカの言葉に思わず耳を疑いそうになるが、まあそう言えば神も『三人の魔王』が手を組んだと言っていたし、もしかしなくても東の魔王は中立なのだろう。
しかし、それでもいかんせん腑に落ちない点があった。
「じゃあなんで転移門の所にいたんだよ」
「いや、あれは北の軍に襲われたって知らせが来たから増援に」
「なんで横野に襲われたんだろうな僕たちって」
「…………」
つまり横野は味方と援軍に来てくれた有志を襲ったのか。やばいなあいつ。いろんな意味で。真実を知って思い悩んでなきゃいいけど。
「というわけで玲汰さんはこの廊下のつき当たりの部屋に入ってください、私はお仲間の方を応接間にご案内しますから」
「あ、ああ……」
なんだか僕一人をのけ者にしようという気がしないでもないが、文句を言っても仕方がないので、僕は魔王のいるという部屋に向かうことにした。
カツーン、カツーンと響く足音は一つだけ。魔王の城と聞いていたから、てっきりもっとモンスターが居るのかと思っていたが、割とそういうこともないのかもしれない。現に僕はネズミ一匹たりともすれ違っていないし、視界の中に人影らしきものも感じない。
本当に誰もいない。何の音も聞こえてこない。聞こえてくるのは僕の足音と、妙に落ち着いた息遣いだけだ。
随分と、にぎやかになったものだ。ほんの少し前まではこの静寂が僕の居場所だったのに、今ではまるで別の世界の様に感じてしまう。前は静かでも平気だったのに、今では静寂にとてつもない恐怖を感じる。
静寂の中にいると、またあそこに連れ戻されてしまいそうで。
「弱くなったもんだなあ……」
キノメ、カフカ、ルサールカ……。誰かと過ごす時間は、麻薬の様に人間の心理に付け込んでくる。僕が欲しかったもの、手の届かなかった幻想を、幸せを、当然のように僕にくれた。
暖かくて、愛しくて、切なくて、優しくて。
だからただ傍にいたいと思って。
また、逃げたくなってしまう。
「やっぱりボッチが最強だよな」
護るものが無いから。
失うものが無いから。
悲しむ人がいないから。
後ろが無いから前を向けた。背中が預けられないから全力を出せた。仲間がいないから僕は痛みを知った。
けれど、それは、
「悲しいなぁ」
僕はもう、あのころの自分には戻れない。
知ってしまったから。望んでしまったから。差しのべられた手の、温もりを。
僕はそっと魔王の間の扉に手をかけた。




