増殖???体目「詩編の詠み手」
「うんうん、これはこれは。中々に楽しめそうな話だねぇ」
どこか暗い部屋の中で、彼はそう呟いた。
その部屋は閉ざされているようで、吹き込む風や差し込む光は無い。ただただ彼の眼前のウィンドウが放つ光だけが、彼の目も鼻も無い顔を照らしていた。
その異常なる風貌からして、彼は怪物なのだろうか。否、そもそもの考え方が我々と異なるのだ。常識的な外見と言うのは、その空間内に存在するものの平均値から算出されるものであるはずだからだ。つまり彼のほかに誰の存在も認可されていないこの空間において、彼の不自然極まりない奇妙な風貌もまた一つの『ふつう』と言えるだろう。
彼はその片腕を口元にあて、―――恐らくは笑っているのだろう、うんうんとしきりに頷いた。
「いやあ、彼の性格的にも、僕はてっきり闇堕ち魔界ルート行きだと思っていたんだけどねぇ。存外彼は中々に優しい魂をお持ちの様だ!」
そう高らかに告げると、彼は嬉しそうに破顔する。もっとも、彼は人間に理解できる表情を持ち合わせていないので、もしもここに人間がいたのなら、随分と薄気味悪く映るのだろうと推測できた。
だが、ウィンドウの薄明かりに照らされた彼は、勿論そんなことを気にするはずもない。この世界において、ものを考え動くのは彼だけなのだから。
「次の『分岐点』は魔王城かな。東の魔王はあれでいて計算高く、魔王の本質を理解しているというか、善悪の観点で行動をしない奴だからなぁ。今回の魔王同盟とやらも結局彼女は入っていないらしいしね。そう考えると、彼が魔王側に着く未来も十二分にあるわけだ。それこそ彼のお得意の『敵の敵は味方』理論で言えば」
クスクスと、誰かが笑う声がした。彼は振り返ることなく笑う。どうせこの世界に干渉できるやつなど、限られているのだから。
「やあ、※※※。キミも面白いと思わないかい」
「それもそうだね。なかなかどうして面白い人物だね、彼は。彼が今回の『詩編』の勇者かい?」
その問いに、彼は軽く首を左右に振った。
「それならばまあ、いつも通りなんだがね、彼は同時に魔王たる可能性すら持ち合わせている。多少の分岐は詩編によくあることだが、ここまではっきりと未来が左右される詩編は初めてだ。彼は一体何者なんだろうね?」
「キミがそうまで言うとは、今回の詩編は荒れそうだね」
肩をすくめて見せる闖入者に、彼は優しく微笑んだ。
どの世界からも隔絶されてしまったこの世界では、退屈こそ真の絶望だ。だからこそ彼らは新鮮な驚きを求める。ゆえに詩編に手を加えるのだ。
「僕が手を加える必要もない、だろ……う……?」
「おっと、これはこれは」
何の気もなく開いた別のウィンドウを見て、彼は口をつぐんだ。闖入者はにやにやと笑う。
「そうか、そういえば茸は『三本』あったんだったな」
すごいなあ、と彼は感心したように笑った。
「まさか同時に二つの可能性を実現して見せるとは」




