増殖13体目「僕が玲汰だ」その1
「お、ほんとに戻るんだな」
僕は勝利確定の証、『勝者の選択』画面が現れると同時に、消えていた腕と脚が再生したのを確認した。どうやら嘘はついていなかったらしい。
「とりあえずどうしようかこれ」
僕はちらちらと『勝者の選択』と勇者様ご一行を見比べながらそう呟くと、勇者の仲間の美少女たちが身をすくませた。………失礼だなこいつら。
あれか? 僕がどこぞのエロ同人の様に倒した勇者の仲間をレ[自主規制]とか調[公序良俗に配慮]とかするとでも思ってんのか? まさか僕がルサールカに言ったあれを真に受けてんのかな? うわあ、120%自業自得じゃないですかやだー。ところで自業自得って字面的に得しそうだよね。業を得るって意味だけど。
僕はふふ、と笑い明後日の方を見た。
「ったく、んなことしたらあいつらに軽蔑されちまうから出来ねえってのに」
いやね、じゃあ軽蔑されなきゃやんのかよとか、そもそもキノメからは完全に軽蔑されてないかとかそういうのはいいから。そんなの自分が一番よく知ってるから。かっこつけたかっただけだから。若さゆえの過ちだから。坊やだから。
「…………あれ」
なんか大切な事を忘れてるような。僕はちらりと、隣に立っているルサールカを見つめた。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
「ところで僕勇者なんですけど」
「「「な、なんだってええええええええええ⁉」」」
おいこらてめえらその驚き方地味にきついから止めろ。しばくぞ。
「え、魔王軍入軍志望者じゃなかったんですか?」
「なんでそんなリスキーな職につかなきゃいかんのだ」
僕はいつだって保身に走ってきた様な奴だ、リスクマネジメント界の風雲児と呼ばれた男だぞ。まあ僕が自分で呼んでただけだけど。悲しくなんてないよ、いつものことだ。
「じゃあなんで魔王軍を助けたりなんかしたんだよ」
「何でってお前………」
味方の味方は味方とは限らないが、敵の敵は味方だろう。味方が裏切ることはよくあるが、共通の敵の下に団結した場合は裏切る間もないことが多いので信用はできないが恩を売るには値する。
つまりそういうこと。ちなみにこの場合の敵とは横野である。敵が仲間になるとかそういうイベントは無い。断じて無い。無いさ。無い………よな? 凄い不安になってきたんですけどー。フラグ臭がすごいなー。
ま、まあいい。ここはとりあえず…………説得の前に横野に真実と恐怖を与えてやろう。
「おい勇者、お前随分と正義面してるみたいだな」
そう言ってずいと顔を近づける。怖くは無い。アルクレスに比べたら、微塵も怖くない。最早怖がってた自分が恥ずかしいくらいに怖くない。もう、恥ずかしい。
「勇者様に対してなんて口の利き方だ!」
なんか例の胸部装甲が豊かな女騎士が食いかかってきた。ああ、この人も勇者教の方でしたねよし現実を教えてあげよう。
僕はかつてなくいい笑顔で言った。
「おい、増田玲汰って男を覚えてるか?」
「な、何でその名を………⁉」
この時になって初めて横野は僕の顔をまじまじと見つめ、そして目に見えて顔を青くした。それこそアルクレスを前にした時よりも。
「お、お前は………」
「いやなに、少しばかりあんたのお仲間に聞きたいことがあってね」
静かにそう告げると僕はわざとらしく問いかけた。
「なあ、いじめってのは最低の行為だと思わないか?」




