増殖11体目「東の魔王軍」その2
そもそも、キャラクターなるものを立てていかなければ駄目だと言うこの現代異世界の風習は如何ともしがたいものがあると思うわけだ、僕は。
なぜキャラを立てて生きていかなければならないのか、下手にキャラを立てたところでその先に待っているのは、目をつけられる→制裁の破滅の道だけだ。今思い出してもあれは恐ろしい光景だった。まさか青色のコートに模造刀で「ふっ、俺は終末の(ry」とかやってただけで社会的に抹殺されるとは。
ソースはだれかとか、そんな野暮なことは今関係ないと思う。あれだよ、僕の友達(?)の青崎さんだよ。僕じゃないよ。ほんとだよ。きっと。
ま、まあ嫌なことを思い出してしまったが、今言いたいのはそういう事じゃないだろう僕。何を余計なことを考えてるんだ。
キミのトラウマの扉は全ドアが自動化されてるんだから半径1メートル以内に近づくような話題は持ち出しちゃだめよ、あ、でもキミの心ドアだらけで身動き取れないわね(笑)って言われたじゃないか、相談室の先生に。
顔を両手で押さえながら教室を飛び出したのは2年前、今じゃ目頭を押さえながらまで進歩したんだぜ? 違うこれ進歩じゃないよ悲しすぎるわ。
と、ここまで悲しすぎる僕の学園生活の思い出たちがトラ馬と言う名の不思議生命体に姿を変えて僕のメンタルをガリガリ削りにかかってきてたけど、これはほら、あれだから、副産物だから。
僕の脳内で今練成されようとしている素晴らしい教えを構築するにあたって生み出されるいわば産業廃棄物だから。出てくるのは仕方無き事だもの。産業廃棄物の集積場が足りないのは世の常だろうから。
決してね、常に生み出され続けてて忘却と言う処理が追いつかないとかそういうのじゃないから。いやね、本当。
『あの、玲汰さん?』
「それはきっと君たちの退化し続けるシナプスが誤作動を……っは、何だ黒ローブ君かびびったじゃないか」
あのクラスのやつが来たのかと思って。
『いや、その、なんだか苦しそうにブツブツつぶやいていたから……』
「まあ心の痛みは身体的なそれを凌駕するからな。苦しさはあったよな、うん。……本当に、苦しい……」
何だろう、頬を熱いものが……。っといけない、この流れはいけない気がする。話がとんでもない方向に脱線してるじゃないか。この脱線の仕方はまずいよ、大事故の幕開け的フラグが立ってしまった気がする。
その名も【ブレイクショ……あ、いえ何でもないですごめんなさい中学時代の悪癖が出てきただけなんです悪気はないんですほんとですやめてタグを閉じないで。
『何に謝ってるんですか』
「偉大なる何かにだよ」
なんとなくだが、その何かでこの世界は回っている気がする。何かが何なのかは知らないけど。何故だか謝らなくてはならないような気がしたんだ。本当なぜかは知らんけど。
「まあ、あれだ。そういうのはどうでもいいんだよ、僕が言いたいのは―――」
ドゴーン、と、僕のセリフを断ち切るがごとく、まるで漫画の効果音の様な現実味の爆音が響き、背後から爆風が吹き付けてきた。熱風がチリ、と頬をかすめるが、気にはならない。なぜならステータスが高いから。あと熱風には慣れてしまったから、それも大きいのだろ―――
「ああっつ⁉」
服に火が着いた凄く熱い。何でだろう、何でこんな目にばかり合うんだろう。僕が変なフラグ量産してるからだろうか。僕はパタパタと服をはたいて鎮火した。
仕方がないので自分の胸に聞いてみたところ、「日頃の行い」と返された。もう少しましな答えを返せよ自分。手紙を食った黒ヤギさん並に信用ならない。あれは白ヤギも悪いけど。よし、考察終了。結論はむなしくなっただけでした。こんな無駄時間を費やしても女はテヘペロ♪で許されて、男は許されない。解せねえ。これは増田的世界七不思議の94番目にノミネートせねば。
それにしても今日はよく風に吹かれる日だ、まるで僕の人生みたい。うん? 別に悲しくなんてないさ。だって本当の事だもの。泣きたくはなるけどさ。
「一体何なんだよ……」
『れ、玲汰さん、後ろ!』
黒ローブの、アクション映画等で使い古された様なそのセリフに、僕はゆっくりと後ろを振り返り、そして硬直した。
「お前らが魔王軍だな?」
そこにいたのは今一番会いたくない奴ランキング5位、クラスメイトの横野宗太だった。
「この勇者ソウタが成敗してやる!」
「かっはあああああ⁉」
僕は口からいろいろ吐いて悶絶した。
何だこいつは、何だこいつは! 何が悲しくてこんな痛いことを言ってるんだ、それ絶対三日後くらいに後悔する奴だぞ。そして後悔して苦しんだ挙句、「ならもう行くとこまで……」と言う恐ろしい考えに心の中が支配されるんだ。そしてずるずると泥沼にはまって…………いや、体験談とかじゃないから。そんな愉快なことにはなってないから。ちなみにここで言う愉快とは外野の人間にとってのことであり、当事者たちからしてみれば本当にトラウマものだ。
……………いやだからさ、ほんと体験談とかじゃないから。これもほらあれだから、青崎さんの話だから。
『だ、大丈夫ですか玲汰さん』
「ぐうう、まさか自爆覚悟の精神攻撃を仕掛けてくるとは……」
何より怖いのはそのセリフを聞いた横野の取り巻きらしき人たちが「キャー勇者様ー」とか頭の軽そうなことを言っていることだ。あいつらの頭の中身は羽毛でも詰まってるんじゃないかって位軽そう。
妄信的に勇者(笑)をヨイショするその様はもはや、「え、なに、新興宗教?」ってレベルだ。頼むから無差別殺人とかに手を染めてくれるなよ。
それと、今気づいたが腹立たしいことに取り巻きが美少女ばかりだ。そういうタイプの冒険者だけ集めているのだろうか。なんて羨まけしからん勇者だ。でもこれは妬みなどではない。だって僕には天から舞い降りた(物理的に)天使、カフカがいるから。ホイホイと男になびくようなビッチに興味は無いんだ。あ、あの女騎士滅茶苦茶おっぱいでか…………いや、ほんとだって、興味ないんだって。
『どうして涎垂れてるんですか』
「あいつらをどう始末してやろうか考えていたんだよ」
『さ、流石ですね⁉』
黒ローブが感心したように言った。
いやうん、ほんとだし。僕の心は滾る戦闘意欲で満たされてるし、邪な事とか全然考えてないし。強いて言うと地球育ちの戦闘民族並に戦いたい感じだし。戦いが僕を呼んでるんだし。
「さっきからブツブツと何を言ってるのか知らないが抵抗する気なら俺の【カイザー】がお前らの体を引き裂くことになるぞ! 抵抗しても引き裂くけどな!」
「なにこいつ気持ち悪い」
何、【カイザー】って。それはもしかして君のチートスキルのことかな? ダサいよな? 気付け? そのスキルの厨二以下の命名センスに。
というか結局殺すのかよ、無抵抗のやつを殺すといろいろと面倒なんだぞ。司法とかがさ。まあこの世界の法なら「勇者が殺し? うーん、オールオッケー♡」とか言いそうでいやだ。その敗者が悪って考え改めようぜ?
だってその理屈だと前の世界の僕圧倒的に悪じゃないか。前の世界で思いだいたが、多数決は民主主義の生んだ悲劇だと思う。僕みたいなやつを黒板の前にしょっ引いて、「増田君がやったと思う人ー、挙手ー」とかいうんだぜ。あんなのただの公開処刑………いや、僕みたいなってのは比喩的表現だから。何度も言うけど体験談とかじゃないから。フィクションだから。実在の人物、団体、集団とは一切関係ないから。
『あの勇者のパラメータを【鑑定】で割り出しましたが、見ますか?』
「是非」
敵の情報は知っておくに限る。
いや、別に僕勇者だし敵じゃないんだけどね。そうは言っても話聞いてくれそうな雰囲気じゃないし。最悪と言うかほぼ確実に戦闘に入るだろうし、知っておくに限る。それにしても黒ローブいいスキル持ってるな。僕のスキルツリーにはそんなものない。これは各人の適正値とやらで決まるらしい。今はどうでもいいけど。
『その、これです』
「ふーん。どれど、れ……」
『Yokono Souta』
Lv:65
HP:2500/2500
MP:1200/1200
SP:0
攻撃:1762
防御:1865
魔攻:1109
魔防:1354
俊敏:1735
幸運:632
よし、逃げるか。僕は手早くそう決意してきびすを返すが、袖をつかまれてこけそうになる。黒ローブが僕の袖をつかんだようだ。
「なんだよ、あんた幹部の中じゃかなり強い部類なんだろ? これくらい一人でどうにか―――」
「む、無理です……強すぎますよ、殺されちゃいます……」
変声がとれ、ローブのフードがめくれたそこにあったのは、恐怖で顔をひきつらせ、あふれんばかりの涙を両目に貯めた美少女だった。
まじかよ、僕どうせおっさんとかだと思ってたよ―――って、そうじゃないだろう今は。黒ローブはカタカタと震えていた。さっきまで平然としていたのは恐怖を鎮めようとしていたからか。
一瞬、僕を嵌めるための演技かとも思ったが、違う。10年以上ひたすらに話をする予定もない同年齢の子供たちの顔色をうかがい続けてきたわけじゃない。悲しいことだが、僕はそのお蔭で嘘を見抜くのが上手くなった。
だから、わかる。この少女が、本気で死を前に恐怖しているということが。
「おいお前、ステータス見せろ」
「え、どうし……」
「いいから」
「は、はい」
黒ローブは涙をごしごしと服の袖で拭い、自分のステータスウィンドウを見せた。
『Lusalki』
Lv:85
HP:2454/2454
MP:1500/1500
SP:15
攻撃:214
防御:132
魔攻:8794
魔防:3549
俊敏:735
幸運:2
ルサールカ、か。確かに、このステータスで戦うのはきつい。いやまあ僕より全然強いけど。ていうか幸運低すぎだろどうなってんだこいつ。まあそれはいいか。ルサールカが不運なのはなんとなくわかるし。
これで魔王軍幹部なのだとすると、勇者たちのステータスの高さは異常だ。必要性を欠くと言ってもいい。子どもの喧嘩を止めるためにチェーンソーを担いで大人が乱入するようなものだ。まるで何か別の目的でもあるようだが、今はそこを深く考えている暇はない。
僕等と勇者とで、圧倒的な戦力差があるのは歴然だ、いちおう【交信】を使って増殖体――分身でいいや――分身に連絡を取り、あいつらの後ろの茂みにスタンバイしてもらった。だが、これ以上のことは今のところ出来ない。
つまり僕は、この圧倒的に不利極まりない現状を打破しなくてはならない。
僕が生き残れるであろう選択肢はこうだ。
1、自分は敵ではないことを伝え、ルサールカを差し出す。
2、ルサールカを見捨てて逃げる。
このどちらかを選べば、僕だけが生き残れる望みはあるだろう。しかし、それを選んで良いのだろうかと言う疑問が僕の脳裏をかすめる。
答えは、考えるまでもないだろう。僕は昔からリスクヘッジだった。殊更こういう場面においては逃げに徹していた。それは今回だって変らない。僕は逃げる。ルサールカは死ぬ。
だがそれは、ルサールカが『ただの魔王軍幹部』であったらの話だ。
元プロボッチの僕にはわかる。僕だからこそわかる。ルサールカは、かつての僕と同じ、ボッチだ。
そうでなければいくら魔王軍の中では強くても、幹部一人で転移門なんて言う、何かあればすぐに勇者が駆けつけてきそうな場所に送られるわけがない。
まぎれもないボッチ。
一緒に戦う仲間すらいないボッチ。
そんな自分を誤魔化すためにキャラをつくろうと努力するボッチ。
ボッチはボッチでも、僕みたいなやつと楽しそうに話をしてくれる、優しいボッチ。
ボッチだなんてのは、基本的に周りのやつが勝手にそいつを排除しようとして生まれるもんだ。当事者に罪は無い。本当に何も罪は無いんだ。まあそいつの性格がひどくて浮いたってんなら話は別だが。
それでも人は他者を蹴落とすことによって生まれる惨めな優越感欲しさに平然とそれを行い、大事になれば遊びだなんだと言ってごまかして保身する。
いわばボッチってのは心根の腐った奴らの『暇つぶし』の為に夢も希望も奪われた奴らの事だ。たかが暇つぶしの為に人としての尊厳を踏みにじられたボッチたちはどうすればいい? 誰に助けを乞えと?
ルサールカだって仲間と一緒に来ていれば勇者と遭遇することなく帰還できただろう。もっと自分に自信を持てたはずだ。こんなところで泣いてなんていないはずだ。
こういうとき大抵のやつは友達とかを頼るんだろう。友情だ何だと言ってな。
そして彼らはこういう、「キミが友達を作らなかったのが悪いんだろう? コミュニケーション能力が低いんじゃないかな」と。
友達を作らせなかったのはどこのどいつだ。
コミュニケーションを取らせなかったのは、一体どこのどいつなんだ。
ボッチに救いは無いとでも言いたいのか。
「下がってろルサールカ」
「え?」
ルサールカが震える声で首を微かに傾けた。
「これはあれだ、あれだからな。この後おまえにいやらしいことしてやるための恩を売る一環とか、そういうやつだからな。勘違いするなよ、僕はいつだってそういう事しか考えてないゲス野郎なんだ。下心に命かけてんだ」
「玲汰さん……?」
「だから、」
僕は唇をかんだ。死ぬのは怖い、ましてや相手は横野。僕の体と心にはあいつらに対する恐怖が残ってる。でも、
「絶対に、護ってやるから」
ここで引くわけにはいかないだろう。
「おい勇者さんよ……」
「なんだこの悪党め!」
横野が嫌悪感丸出しの口調でそう叫んだ。まったく、きらびやかな鎧着けやがって。僕に対するあてつけかよ。
恐怖はある。死にたくない。でも、それでも、
ボッチが救われないのなら、きっとそれを出来るのは僕だけだから。
「ボッチの恐ろしさ、教えてやるよ」
「へ?」
僕の一言にあっけにとられ、生まれた一瞬の、そして致命的な、隙。
「【羅刹】………っ!」
僕は全力の一撃を横野に叩き込んだ。




