増殖11体目「東の魔王軍」その1
「ちょっとー待ちなさいよ玲汰ー」
「待ってくれよレイター!」
後ろから僕を呼ぶ声がするが、僕は気にせず走り続けた。【境界門】の方から聞こえた物音といい、煙といい、妙に嫌な予感がするからだ。僕が「あ、何か嫌な予感がする」と思ったときには大抵ひどい目に合うので、今回も何か大変なことが起きたのではなかろうかと二人を置いていく勢いで走り続けているのだ。
というか、まだ疲れの残るカフカはともかく、キノメは絶対あれわざとゆっくり走ってるだろ。僕がいなくなってカフカと二人きりでずいぶんと楽しそうだ。クソっ。僕も異常がなかったらすぐにでもUターンして仲間に加わってやる。
そんな決意を胸に張り続けていると、境界門の前の広場らしき場所に出た。
少し視線をずらすと、この境界門の憲兵や商人らしき人物が、へたり込んで震えていた。
なんでここまで境界門の周囲ぐちゃぐちゃなのか、そんなことは考えるまでもない。
そこにいるあいつがやったんだろう。
「おいお前、随分と派手にやってくれるじゃないか」
その言葉に、広場の中心に立っていた黒ローブはゆっくりとこちらを向いた。
『ホウ……マダ歯向カウモノガ……え、あれ何で同じのがいっぱいいるの?』
名も知らぬ襲撃者よ、もうちょっと頑張ろうぜ。軽視されがちだけどキャラづくりは重要なんだぞ。もうキャラが立ってるか立ってないかで消されてしまう世知辛い世界なんだからさ。
『何で? 何でなんだ?』
と、まだボソボソと何かを言っている。仕方がない、僕はジェントルマン(意味深)だから教えてあげよう。
「仕様だよ」
『何だ仕様か……仕様なら仕方ないな』
何とか納得してくれたようだ。死んだばあちゃんが言っていた通り『仕様』は世界の共通言語だったようだ。
ありがとうばあちゃん、ばあちゃんの教えがまた一つ役に立ったよ。
『ヨシ、仕切リナオシテ……』
「馬鹿かお前は」
『えっ』
僕の一言に、黒ローブはビクッと身体を震わせて動きを止めた。
「お前はこんなグダグダな流れになってさ、敵さんが大人しく言うこと聞いて仕切りなおしてくれるとでも思ってんのか?」
『え、えっと、それは……』
「大体何? この声さあ変声してるよね。変声しててさらに片言とかなに? 謎の敵演出したいのが見え見えで逆にひかれるぞ?」
『……すいません』
しゅん、と分かりやすく落ち込む黒ローブ。どうやらこれが黒ローブの素らしい。僕はポリポリと頭を掻いた。
「まあ座れや」
『は、はい』
観念したのか、僕の指示通りに傍のベンチに腰掛ける。
「そもそもあんた何? 何してる人?」
『えっと、東の魔王軍の幹部を』
「ブッ⁉」
むせた。え、何この人魔王軍の幹部なの? 嫌な予感はしてたけどまさかこのクラスでやばい状況になるとは。
『どうかしたんですか?』
ま、まずい。シリアスがおなかいっぱいだったからノリと勢いだけでこんなことやったと知られたら殺されかねない。ここはどうにかさっきまでの感じで貫くしかなさそうだ。僕たちは顔を見合わせてそう悟った。
「あ? あまりにもしょぼいから逆にビビってたんだよ」
『そうですか……』
「そうだよ、仕事変えた方がいいんじゃないか?」
『いえ、魔王様に恩もありますから、そういうわけには』
「へえ、あくまで忠義を貫くとは、最近の悪党にしては殊勝だな」
『でも、全然上手くいかなくて、同じ幹部でもアルモードさんなんかは次々国を堕としていってるんですけどね』
「仕事だけできても駄目だよ最近の悪党ってのは」
『そうなんですか?』
「そうだよな3号」
「ここで僕に振るかふつう……まあ、仕事できても一生独身で死んでいく奴らもいるしな、人当たりが良くないと」
「流石3号」
「良いこと言うぜ3号」
「やっぱりこういうのは3号だな」
「それどういう基準で判断してるのか聞きたいんだけど」
「自分の胸に聞いてみな」
「まあ全員本人だしね」
「気分って言われたんだが」
「そういうもんだろ」
「右に同じ」
「話進めようぜ」
「なんだ、やっぱり3号が話を仕切るんだな」
「かっこいいよ3号ー」
「3号は真面目なんだなあ(笑)」
「おいこら今の誰だ」
「「「「10号でーす」」」」
「よし10号ちょっち表でろや」
「既に表なんですがこれは」
「知らんな」
「うわっつ、ちょま、同じ玲汰じゃないか落ち着やめてまってその方向に足曲がんない」
「騒がしいのも出てったし、話進めようぜ」
「じゃあ後は頼んだよOrijin。僕たちは散歩してくるから」
「どういう意味だっておいマジで行きやがったぞあいつら……」
『大変なんですね』
「同情するならどうにかしてくれ」
そんなこんなで会話は進んでいった。




