増殖10体目「インファイトガンナー」その1
「それで、一体何があったっていうのよ」
僕はキノメの前で正座させられていた。ちなみに、砂利の上である。足がとても痛い。
「え、えっとですね、そのざっくり言うと、着地の時に水で濡れてしまって、風邪をひかせちゃまずいと、男だと思って服を脱がせたこのトリッパー―――カフカは、実はカフカ『さん』だったというか何というか……」
「え、女なの?」
「よく言われるぞそのセリフ」
カフカは遠い目をして言った。大変だったんだろうな、いろいろと。
ふーん、と納得した様なそぶりを見せていたキノメは、「服を脱がせた?」と眉根を寄せた。
「ビックマグナム級の変態ね」
「くっ、言い訳は無い……」
キノメに辛辣なことを言われたが、仕方がない。見た目で人を判断しちゃダメだってビルド村で学んだはずなのに、勝手に男だと思ったこっちが悪い。
「いや、レイタは俺の命の恩人だ! それに悪気があったわけじゃないみたいだから気にしてないぞ、俺は」
「カフカ………」
初対面の人間に対してここまでやさしい人がいたとは。この何かとデンジャラスな世界で2週間近く過ごしているが、初めてのタイプの人種だった。
ああ、そうか。この世界の住人じゃないからか。
「そこら辺にしといてくれるかしら? お二人さん」
と、なぜかイライラしているキノメが口を出してきた。どうしたんだろう。
「その話はこれでおしまいってことで、結局カフカはレイタと同じ『異世界トリッパー』なの?」
「………」
その質問に、カフカは少し口ごもった。
「むう、その異世界トリッパーというのは何なんだ? 俺はここがどこかすら知らないんだ」
「あー、うん。そりゃそうか」
僕は一人納得した。やっぱり、あの次元の切れ目みたいな黒い捻じれに巻き込まれてきたらしい。そもそも、『異世界トリッパー』なんて名前からして、神に呼ばれた奴の方が少なそうだし。
「何から説明すればいいのか分からないんだが―――」
◆ ◆ ◆
とりあえず、ここは普通に説明するより、僕のこの世界での経緯を話した方が分かりやすそうだったからそれを話すことにした……のだが。
「ぞ、増殖するのか……⁉ レイタがか⁉」
とか、
「ゆ、融合⁉ そんなことして体に悪くないのか⁉」
とか、
「おお⁉ 追い払ったのか⁉ す、すごいな! かっこいいな!」
とかさ、うん。
(………っいちいちリアクションがかわいいなチクショウ!)
(同感ね!)
そう、カフカは、その男にしか見えない中世的なイケメンフェイスを持ちながら、いちいち純粋な瞳でリアクションを返してくるのだ。それこそ、ヒーローショーを見て喜ぶ子どもの如きピュアな心で。何というギャップ。ギャップ萌の極致を垣間見た気分だ。
そこには、僕の世界のテレビでぶりっこしてた芸能人とかには無い無垢な何かがあった。一体どんな純粋培養をすればこんな子が生まれるんだ。これが遺伝子の奇跡なのかもしれない。
そしてその姿に、ここ数日間で乾ききっていた僕らの心はかつての潤いを取り戻した。何という効果、すごいぜカフカ、キミは僕たちの救世主だ。
そうこうして話が中断された今でも「すごいな! すごいな!」とはしゃいでいる。天使か。天使なのか。
(まずいわ、レイタ。ここから先はあんな天使に教えられるような内容じゃないわ)
(そ、そうだな……)
ちなみに、ちょうどキノメを仲間にした下りを話し終えたところだ。この先はオークの……。
「そ、そそそそうして! 僕とキノメはビルド村に戻って! 報酬を受け取ったわけなんだよな!」
「え、えええええそそそそうね。1週間ほど時間が空いてるけど別にその間は何もなかったわ。本当よ」
「そして今に至るんだよな! その間決して誓って何もなかったから!」
必死だ。怪しすぎる。こんな怪しさの塊みたいな話信じるわけが―――
「そうなのかー」
信じたあああああああえええええええええ⁉ 最早この子の将来が不安になってきたんですが⁉
こんな純粋な子が生きていけるほどこの世界は甘くないよ⁉
「レイタ」
「どうした」
「こうなったらこの子をパーティの新メンバーとして迎え入れるしかないわ」
「お前は天才だな」
こうして僕等のパーティは新たなメンバーを迎え入れ、パーティ結成以来の結束を見せたのだった。




