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勇者増殖  作者: T村
この先未改稿
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増殖9体目「異世界トリッパ―」その2


「それで、その境界門を通るとどういう街に着くんだ?」


 境界門へと向かう道中、僕はばあさんに貰った鉄の棍棒を弄りながらキノメに尋ねた。


「そうね、私は直接行ったことは無いけど、『カブト』かしら」

「『カブト』? 妙な名前だな」


 なんか住人がクロックアップしてそうな名前の街だ。


「ここらじゃ一番大きい街ね。冒険者ギルドの本部もあるし、あの村長も分かっててこの許可証と紹介状を渡してきたんじゃないかしら」

「ますます何者なんだろうなあのばあさん」


 そこまで分かってて僕にこの許可証を。あのばあさんについて考えれば考えるほどに謎は深まっていく。何なんだろうか、この圧倒的に解せない気持ちは。

 とまあそんなこんなで、もう一時間ほど歩いているが境界門はまだなんだろうか。昨日の戦いの疲れがおしよせてきたんだけど。【交信】は便利なんだけど、使うとすべての僕の感覚が同時に襲ってくるのはどうにかならないんだろうか。

 僕がそんなことを考えながら肩をもんでいると、急に強い風が吹き付けてきた。


「? さっきまでは風なんて吹いてなかったのに、」


 どうしたんだろう、とは言えなかった。風が吹き込む先―――否、吸い寄せられる先にあるものを見てしまったから。


「あれは………⁉」


 『空が黒く捻じれている』。そんな非日常的光景を。

 そして、僕はこの光景に見覚えがあった。


「僕がこっちに来た時の………!」


 規模こそ違えどそれは、僕をこの世界に引きずり込んだものと同じものだった。


「どうしたの?」


 キノメが心配そうにこちらを見てくるが、答えている暇はない、僕は一も二もなく駆け出していた。

 僕の推測が正しいのだとすると、ばあさんの言葉からして、神に呼ばれる以外にもやってくるものがいるのだろう。いるのだとするのなら、あの忌々しい自称神が使っていたあれと似たようなものに巻き込まれたんじゃないだろうか。

 そして、神に呼ばれたわけではないのだとすると、恩恵とやらを授かってはいないのだろう。だとすると、


「この高度は……死ぬぞ」


 忌々しげに『空の』捻じれを睨む。僕のときはまだ地面すれすれだったが、ここまで地面と距離があると、最悪転移終了と共に落下、そのまま―――


「くそっ、間に合ってくれ……!」


 僕は、静かに開く捻じれの下に向かって走った。しかし、もう名も知らないトリッパーの身体はもうほとんど転移してしまっている。

 そして、そのシルエットがゆっくりと落下し始めた。強化された視覚で、僕は見た、死の恐怖におびえるその表情を。


「う、おおおおおおおおおお!」


 僕は覚悟を決めて跳躍した。




「っはあ、はぁ……【初級治癒】……」


 水の中に豪快に着地した僕は、途切れそうになる息を整えながら、何とか回復魔法をそのトリッパーにかけた。こっちのステータスもかなりヤバめだが、こいつほどじゃない。僕は続けざまにもう二回【初級治癒】をかけてから、気を失ったトリッパーを運ぼうとする。が、


「あ、あれ? おかしいな……」


 トリッパーの、2メートル近くあるHPバーはほんのコンマ一ミリ程度しか回復していなかった。

 どういうことだろうか。そんな疑問が脳裏をよぎるが、それは考えるまでもない事だ。


 単純にこのトリッパーのHPが膨大だからだろう。


「チートか? いや、そんな筈は……」


 あんな処から転移してくるくらいだ、神の恩恵は無いだろう。

 しかし、そうするとこのトリッパーは元から強かったって事になるのか。そんなことが可能なのだとするなら、こいつは相当過酷な世界から来たということになる。そこでふとHPバーの上の『Cafuca』の文字が目に入った。どうやら名前の様だ。


「カフカ、か。頼りにはなりそうだがな………」


 そうひとりごちて、カフカを水から引っ張り上げる。今気づいたが、カフカは僕より少し身長の低い男だった。

 アサルトスーツ系の構造のジャケットを、迷彩柄のシャツの上に着ている。金属製の飾り気の無いバックルで留められたベルトがジャケットの上に着けられており、ベルトに装着したナイフを抜きやすいように調整してあるのが分かった。

 ベルトは、所々すり切れたズボンにも取り付けてあり、その武骨なデザインのロングブーツを引き立てている。まあ、ファッションどうこうと言うよりは完全に戦闘特化と言った風情ではあったが。

 顔の方は、こげ茶のハンチング帽を、上から銀色のヘッドフォンで抑えるように深く被っているので分かりにくいが、中性的な顔立ちのイケメンのようだった。

 僕としては、顔や服装よりも、意識を失っても握りしめたまま離そうとしない奇妙な形の銃の方が気になったが。その銃には、意味ありげな5つのスロットが備え付けてあった。


「服を乾かしてやって、それからキノメと合流するか」


 索敵マップでパーティメンバーの座標はある程度特定できるから、キノメは心配ないだろう。あいつも【索敵】持だから。

 とりあえず僕は彼に【中級治癒】を使って体力を回復させてから、そこらでたき火でもして体を温めてやることにした。


「ったく、こんなことならファイア系のスキルを覚えとくんだった」


 そう愚痴るが、本格的に仕方が無いので適当にそこらの木の枝を折ってこすり合わせる。

 もう面倒くさくなって【増殖】して四人がかりでやったら、10秒ほどで火が付いた。うん、今後ファイア系のスキルの習得は急いだほうがいいな。面倒くさいし。

 その火種を別の枝にも移し、燃え広がらないように砂利を敷いた上に積んで、オーク戦で手に入れた『豚の油』をかけた。火力はこれくらいで充分だろうか。


「全く、服をこんなに濡らして……」


 いやお前が濡らしたんだろ、とかそういうのはいいから。言ってみただけだし。

 僕はバックルを外してジャケットを脱がせると、たき火の近くの木にかけた。これで10分もすれば着られるくらいには乾くだろう。


「ズボンとブーツも乾かしておいたほうがいいかな」


 シャツも脱がせた方がいいのかもしれないが、流石に全裸はきついだろうし、生地が薄いから着てても乾くだろう。

 そう考えて、僕は彼のブーツに手を伸ばした。



 …………今思えば、ジャケットを脱がせたときに、気が付けばよかったんだ。僕は自らの浅慮を本気で悔やんだ。



 ◆ ◆ ◆



「えっと、どういう状況なのかしら」


 【索敵】の索敵マップを使ってきたのであろうキノメは、たき火の前で見知らぬ人物に対して本気の土下座を繰り出すパーティメンバーの姿を目にして、ぽかんとしていた。


「申しわけも御座いません……っ!」

「いやあの、紛らわしいカッコしてた俺も悪いし、善意での事なんだろ? 別に気にしてな―――」

「本っっ当に御免なさい!」


 僕は尚のこと額を地面にこすりつけた。


「気付かなかったとはいえあんなこと……」

「いや、だからいいのだと…」


 ひたすらに頭を下げる僕と、それを諌めるカフカ。


「だから説明しなさいって……」


 その光景を見て、呆れたようにキノメは呟いた。

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