増殖9体目「異世界トリッパ―」その1
「行ってきたぞ」
僕はぶっきらぼうに告げた。
ここはビルド村の広場。まだ朝早いからか、そこには村長しかいなかった。
「随分、顔つきが変わりましたな」
「ああ、そう……早く次の街の情報を教えろ」
正直、このあたりにはもう居たくない。
僕は、今日初めて人型のモンスターを殺した。僕からしたら許せないことをしたから殺した。でも、それが彼らにとっての『普通』だったのかもしれない。オーク鬼には、男しかいなかったようだから、他種族を攫ってこなければ種を残せないのかもしれなかった。
そうなのだとすると、僕がやったことは………。
「………アナタは、あそこでアナタがするべき選択をしただけよ。アナタが来なければいつか私がやっていたわ」
「………」
僕は、何をしているんだろうか。異世界まで来て、まだうじうじ悩んでいる。
「この紙を、持っていきなされ」
村長は、そう言って一枚の紙を手渡してきた。
僕は、この世界の文字を初めて見たが、思っていた通りとても読めるような気はしなかった。やはり言語は翻訳されても文字までは…ということらしい。
「第七境界門の通行許可証ね」
「読めるのか?」
「ええ、多少は、ね」
通行許可証とは、どういうことなのだろうか。
「その青鬼の御嬢さんのおっしゃる通り、所持していると、境界門と呼ばれる移動手段を用いることが許可されるものですじゃ」
「境界門?」
「この世界で唯一、『魔王領』を挟んだ地域間での移動を可能にする門ですじゃ」
魔王領というのは、恐らく神が説明していた『4人の魔王』の支配する土地の事だろう。境界門とは、きっと転移系の魔法をかけた門の事だろう。
「おぬしも、異世界トリッパ―ならこれくらい持っておきなされ」
「異世界トリッパ―?」
耳慣れない、それでいてなんとなく身に覚えのある言葉に、僕は眉をひそめる。すると、ばあさんは意外そうにこちらを覗き込み、
「おや、おぬしも神に呼ばれてこの世界に来たんじゃろう?」
さらっととんでもないことを言ってのけた。
「……っ⁉ ばあさん、あんた一体……⁉」
しかし村長は初めてこの村に来た時と変わらぬ笑顔で笑った。
「ほっほ、なあに、ただのばばあですじゃ。……まあ少し、」
「長く生き過ぎたくらいかねぇ?」
一つ訂正しよう、ぞっとする様な、笑顔だ。
「ほっほ、この村のすぐ横に街道があるからの、後は道なりに行けば境界門につきますのじゃ、良き旅路を」
実戦を経て、命の削りあいをした今なら分かる。笑いながら家路につく村長は、どう見ても老人の身のこなしをしていなかった。
「アナタの知り合いって、皆あんななの?」
「………違うし、そもそも知り合いがいねぇよ」
僕はそう呟いて、許可証の後に渡された封蝋の施してある手紙を眺めた。僕にはこの世界の字は基本読めないのだが、キノメに読んでもらったところ、「紹介状 ミネヴァー・ローリスベリス」と書いてあるらしい。どうやら紹介状らしいのだが、こんな立派な紹介状がしたためられるとか、本気であのばあさんの素性が知れない。
謎が一層深まった気がするが、とにかく僕たちは第七境界門を目指すことになった。




