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勇者増殖  作者: T村
この先未改稿
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18/52

増殖8体目「鬼退治」その2


「う、う、うわああああああああああああああ!」

「た、たす、助けてくれええええええええええ!」


 何だ?


「ひ、ひいいいい化け物おおおおおおおおおお!」

「こ、殺されるうううううううあああああああ!」


 何だ、この有り様は。

 オーク鬼のボス、エルルカは誰にも聞こえないくらいの声でぼそりと呟いた。

 昨日まで、何の心配もなく、ただ普通に生きていたのに。今日もいつもと同じ毎日があるって、皆信じて疑っちゃあいなかったのに。

 昨日は攫ってきた『家畜』の具合を酒を飲みながら確かめて、仲間と何度も何度も『家畜』を犯したんだ。それから腹が減ったから、『家畜』を二、三匹殺して食って、寝て、集落の喧騒に目を覚まして、出てきてみれば、


「これは一体どういうことだああああああああ!」


 彼の眼前では、彼の集落の同族が、『圧倒的に強い何か』によって一方的に蹂躙されていた。

 『何か』は、逃げ惑う彼の親友の頭を吹き飛ばした。姿は見えない。狙撃されているのか。次々と同胞たちの頭が吹き飛ぶ。そんな中、こちらに向かってくるものがいた。奴らがやったのか? エルルカは目を凝らす。


「なんだ、あれ……」


 その二人は、全く同じ顔をしていた。それだけなら、双子か何かかと思うのだが、よく見ると至る所に同じ顔をした男がいる。その姿にエルルカは本能的な恐怖を感じた。

 エルルカはオークとはいえ群れのボスである。それなりに戦闘経験もあるし気配だって読める。そのうえで嫌な感覚が全身を駆け抜けたのだ。


 この男たちの気配は、全く、一寸の狂いもなく、同じものだった。


 それはつまり、同じ生き物が複数の体に分かれてるという事である。訳が分からなかった。わからなかったが、それでも止まるわけにはいかなかった。


 エルルカは野太い咆哮を挙げてその『何か』に突撃していった。



 ◆ ◆ ◆



(思ってたよりも酷いな……)


 集落の西を攻めていた【2号】は、『家畜小屋』を破壊しながらそんなことを考えていた。看板に家畜小屋と書いてあったわけではない。だが、どの世界でも家畜以外のものに首輪をつけ、不衛生なくさい飯を食わせる訳はない。

 この集落には、【4号】や【7号】との【交信】で、少なくとも十近い『家畜小屋』が確認されていた。

 ここでいう『家畜』とは、恐らく他種族の集落から攫ってきたであろう女たちの事だった。

 多種多様の人型モンスターや人間の彼女たちは皆、ぼろぼろに犯され目から生気は消えていた。

 【交信】により、全ての玲汰の記憶は統一されている。だからきっと、助けようと近づいた彼女たちの一言を、あの狂気に沈んだ瞳を、玲汰が忘れることは無いだろう。


『ころ、して…』


 結局【2号】には直接手を下す勇気がなかった。だから小屋を破壊し、生き埋めにしたのだ。それが残酷な殺し方というのは、その場のだれよりも玲汰たちが分かっていたことだ。けれど【2号】はそうした。そうする他なかった。

 もう一日、早く来ていれば犠牲者は減ったかもしれない、言いようのない後悔が玲汰の心を締め付けるが、戦場にifは存在しない。今の玲汰たちに出来るのは、この愚かな行為を一刻も早く終わらせることだ。

 たった今、【origin】から作戦変更の指令が出た。

 情けは無用、皆殺しだ。


「ぶっ殺してやる…………っ!」



 ◆ ◆ ◆



 角の形が他とは違うな、あいつは。何体目か忘れてしまったが、こちらに突っ込んできたオークを握りつぶし、血しぶきをまき散らしながらそのオークに対して体を斜めに構えた。


「うううううううううおおおおおおおおおおおおお!」

「【肩車】」


 しゅうん、と体を突進するオーク鬼の下に滑りこませ、股と肩を掴み、突進の勢いのまま顔面を地面にたたきつけた。


「ぐうううううううっぎいいいいいいいいいいい⁉⁉」

「うるせえよ、豚が」


 身体を捻り、全身をバネにして鋼鉄製の棍棒をたたきつけ、両足をへし折る。


「ぶううううううっひいいいいいいいいいいいい⁉⁉」


 オークが不快極まりない悲鳴をあげるが、僕は気にせず頭を踏みつぶした。

 汚らしい色をした濁った血が、さらに僕の神経を逆なでる。

 いらだち気に唾を吐くと、いきり立った他のオークがこちらに向かってきていた。


「「【連掌】」」


 背後から近づいていたもう一人の僕と同時に放ったせいか、僕たちの拳はやすやすとオークの胸を貫いた。


「かかってこいよ、どうせ逃がしはしないんだ」


 怒号と咆哮が入り混じり、血しぶきは吹雪の様に視界を埋め尽くした。



 ◆ ◆ ◆



「僕も、キノメのこと言えないな……」


 【融合】で、一人に戻った僕は、皆死んで消えてしまった集落の中に立っていた。


「………胸糞わりぃ」


 一人、静かに呟いた。

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