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勇者増殖  作者: T村
この先未改稿
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12/52

増殖5体目「サクリファイススキル」その2

「後ろがお留守だな」


 そう告げて『蒼の射手』の腕を掴む。かなりギリギリだったが、どうにか行けたみたいだ。まあ、まさかここまでうまく事が運ぶとは思っていなかったな。ほっとしたような、拍子抜けしたような、なんとも言えない気分だ。





「【増殖】!」


 僕は走りながら手ごろな大きさの岩陰で【増殖】し、その場で待機させる。


(僕が合図したら出て来い、良いな!)

(ああ、わかってる)


 それを今の僕の限界数、3回繰り返した。『蒼の射手』を取り囲むように、東西南北、90度程の角度になる様に。そして、僕が残りの箇所に行けばいい。そこから、一気に決めにかかる。

 今回僕が考えたのは、作戦と言うにはかなりお粗末な代物だ。相手のスキルにあった、およそ弱点とも言えないような、『仕様』ともいえるソレを、ただ数でどうにかしようというという雑なものだ。だがそれ以外に方法が無い以上、仕方が無い、むしろこの状況でよくやったと自分を褒めてやりたいくらいだ。


 おそらく、あの【アルテミスの矢筒】は、パッシブスキルではなくかなり熟練度の高いリキャストスキルだ。弓なんて使ったことないから自信は無いけど、それでもただ矢を取り出すには時間がかかっている。常に矢筒の中を矢で満たすとか、そういうタイプのパッシブスキルでないことは言える。パッシブスキルでないのなら、かなりのMPを消費しているはずだ。HPバーは見えても、MPバーが見えないから確証は得られないが。

 きっと、自分のMPが尽きてしまう―――戦闘が長引いてしまうのを避けるために、自分の手の内、【アルテミスの矢筒】を晒して、持久戦では無く、短期決戦に持ち込もうとしたのだろう。

 それに加えて、これは推測だが、『蒼の射手』はスコープ系のスキルを使っているんじゃないだろうか。そうでなければあの位置からの精密射撃は不可能だろう。スコープは確かに便利だが、大きな死角を生むことになる。

 さっきから、一発放つたびに周囲を警戒しているのがいい例だ。

 これを利用して、僕を狙って視界が狭まるたびにじりじりと接近させておき、本体の僕自ら囮として特攻し、射撃に必要なスキルを使わせて死角を作らせ、【絶対回避】で躱し、次の矢を生成する前に接近しておいた3人が取り押さえてどうにかする。本当に作戦とはいいがたい代物だが、こうする以外に手はない。

 僕は静かに突撃を開始した―――




「ええっと、どうすればいいんだろ」

「さ、さあ……?」

「難しいよな」

「そもそもどうにかするって何、行き当たりばったりにも程があるって」


 『蒼の射手』を捕まえた僕等は、この先どうするか全く考えていなかったという今作戦最大の難点にぶち当たっていた。

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