増殖5体目「サクリファイススキル」その1
(あの人間、何を狙っているのかしら……)
『蒼の射手』は、その起伏の読み取りづらい表情で周囲を警戒した。しかし、怪しげなものは何もない。
(気のせい……?)
では、先ほどから感じるこの言いようのない不安感は一体何だというのだろう。長い間戦い続けてきた戦士としての勘がこんなにも危険信号を発するのは、何だというのだ。
それに、何故あの人間は執拗に岩陰を通過しながら逃げているのだろう。岩が盾にならないなんて事は、初撃で思い知ったはずなのに。何かの意図があって行動しているのか? まさかこの【アルテミスの矢筒】の弱点に気付いたとでもいうのか?
いや、それはない。気付く暇を与えずに狙撃し続けているし、何より気付いたところで戦闘を有利に動かせるほどの弱点ではない。そもそも近づけないのだから、弱点をつくことも敵わないだろう。それにもうじきに夜になる。夜は鬼の領域、相手に勝機は無い。
そう結論付けて、もう一度矢をつがえて、気付いた。
攻撃を当てていないのに、あの人間のHPが減っている。
(こけたか、岩の欠片でもぶつけたのかしら。それにしては減りが激しいような……)
そこまで考えてから、ある可能性に気付いた。
(まさか、【サクリファイススキル】……⁉)
【サクリファイススキル】は、その名の通り、【代償】を払うことによって発現するスキルだ。しかし、【リキャストスキル】等と違い、スキル名に表記されない上に、それぞれの【サクリファイススキル】は、一人しか使用者を持たないため、一般的にはあまり知られていない。だが、【サクリファイススキル】は基本的に圧倒的な能力を誇る。最悪、この状況を打破される事すら―――
(そんなはずは無い……っ。たとえ出来たとして、どうこう出来る程のステータスがあるわけが無いわ)
そう、今はただ黙って弓を引けばいい、そうすればいつか倒れる。深呼吸して、もう一度弓を引き絞って気付く。あの人間が、わき目も振らず一直線にこちらに突っ込んできている事に。
「……っ⁉」
慌てて矢を放つ。この距離はスキル的に必中距離、確実にこの男の額を貫く―――はずだった。
「【絶対回避】!」
しかし、その男は聞いたことのないスキルを使い、至近距離で放たれた一撃を交わして見せた。
「そんな……⁉」
接近戦に持ち込まれるまえに殺そうと、矢筒に手を伸ばし【アルテミスの矢筒】を発動しようとする。が、
「後ろがお留守だな」
目の前の男と全く同じ姿をした男に腕を掴まれ、スキルを止められていた。




