増殖4体目「蒼の射手」その2
マズイマズイマズイマズイマズイ……っ!
僕はかつてなく焦っていた。【リキャストスキル・絶対回避】のリキャストが圧倒的に間に合っていなかったというのと、相手が尋常じゃない狙撃技術の持ち主だったということに、憤りに似た感情を覚える。
鬼と聞いた時、勝手にインファイト特化だと考えたのがまずかった。先入観にとらわれ、碌な戦闘経験もないくせに勝手に敵の傾向を予測しようとするなんて、ほんの数刻まえの自分自身に腹が立つ。
今現在、僕と『蒼の射手』との戦闘は絶対的に一方的な戦局にもつれこんでいた。
僕が熟練度の高い【回避】と高い【幸運】で逃げ回り、それを『蒼の射手』が、静かに淡々と矢で狙撃する。【回避】のおかげで急所こそ外れているものの、かすっただけでその箇所が消し飛び、HPが40近く持っていかれる。その都度【初級治癒】をかけているが、MPの自然回復が消費に追い付かず、じりじりと確実にMPは尽きようとしていた。
「絶望的だな……くそ」
『蒼の射手』に進路を予測されないよう、滅茶苦茶に走りながら悪態をついた。少しでも走るスピードを落とせば、間違いなくヘッドショットを決められるだろう。そうなればゲームオーバー、現実世界から永遠にさようならだ。何がどうあっても、殺されるわけにはいかない。僕はまだ10代だぞ、今死んだら未練しか残らないじゃないか。
ここは相手の矢が尽きるまで逃げ切るしか……。
「……私の矢が切れるまで逃げ続けるつもりなら、残念だけどパッシブスキル【アルテミスの矢筒】で無限に矢は生成できるから、意味ないわ」
反則だろそんなの。本格的に打つ手なしか?
「いや、まだだ…死んでたまるかよ」
そう強く自分を叱咤する。世界に最強だなんてのは存在しないんだ。それは僕が一番よく知ってることだろう。いつの時代のどんな強者も、数には勝てなかったんだ。そして今僕はその『数』を手に入れた。勝てない相手じゃない、ようはやり方次第だ。
しかし、相手は確実に数百メートルもの距離を、放った矢に弾丸の様な軌跡を描かせて狙撃してくる。見たところ鬼と言う割にかなり小柄の様だが、流石は鬼と言うべきか、この軌道を描かせるほどの強弓を平然と使いこなしている。
何より驚くべきはなのは、最初に一撃を放ってきたときから全く移動していないということだ。自分の技術力なら、近づけることなく殺せるという自身の表れだろうか、それとも何か別の理由が……?
そういえば、あいつは一発撃つたびに、少し間があったが、あれは……どうしてだ? 【アルテミスの矢筒】とか言ってたが、何であんなことをいちいち教える必要があるんだ? どう考えても、あれは言わない方が有利に事を運べただろうに。声を届かせるために、何かしらのスキルで拡声していたように見えるが、戦闘中に余計なMPを使ってまで伝えたのはなんでだ? まるで何かを誤魔化しているような……。
誤魔化す?
「そうか、そういう事か……!」
ようやく合点がいった。なんだ、そうだったのか。
そういうことなら、いくらでもやりようがある。




