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High×Low ~ハイスペ男とロースペ女~  作者: なまのき


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8/9

8

 久世理事長からのち(・)ょ(・)っ(・)と(・)し(・)た(・)頼(・)み(・)事(・)を引き受ける羽目になってから半日と数時間が経過して、そろそろ足も覚えつつある通学路を歩く。

 空模様とは打って変わって、気分は暗雲が漂う絶不調。

 理事長室を辞してからの記憶もあやふやで、恐らくは自分の足で帰宅し、自分の腕で夕食を作り、自分の床に就いているはず。

 1人の少女にここまで心中乱され、また1人の少女がここまで胸中を占める事など、まったく予想出来なかった。

 悲しいかな、内に抱くのは思慕や恋情の類ではなく、不安と恐怖なのだが。

 

 そもそも友達なんて言われましても。

 過去の自分ならともかく、現状ではすっかり縁遠い概念ではないか。

 昨日理事長から賜った金言は、実のところ少しばかり、そこそこ、それなりに僕を責めるようにも聞こえた。

 立(・)派(・)な(・)人(・)物(・)にはきっと程遠い。

 自宅から然程離れておらず、学費が無償となる特待制度があり、有象無象の私学を蹴散らす看板が付いてくる。

 周りから一切の反対も無かったし、むしろ選(・)ば(・)な(・)い(・)場(・)合(・)に(・)お(・)け(・)る(・)最(・)高(・)の(・)選(・)択(・)肢(・)だと嘗ての担任は言っていた。

 そう、単に行(・)け(・)た(・)か(・)ら(・)行(・)っ(・)た(・)、それだけなのだ。

 学院が高らかに掲げる伝統や誇りに、何の執着も無い。

 理事長の持つ理念、明治時代から現代まで脈々と続いてきた学院の柱は、崇高で高尚だ。

 それでも今の僕には、抱(・)石(・)や山(・)羊(・)の(・)舌(・)とそう変わらないのだから。

 友達なんて言われましても。


 詮無い事を頭へ浮かべていれば、いつの間にやら学院の正門を潜り、教室棟へ到着している。

 2階へと階段を上り、廊下を右に曲がればすぐに1‐Aの教室だ。

 そういえば昨日は午後の授業を丸々サボった事になる。

 クラスメイトや担任からどう見られているのだろうか、授業のサボタージュは伝統的不良仕草(ヤンキームーブ)だよなあ。

 実際は不(・)運(・)と(・)踊(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)感もあるのだが、妙に罪悪感が湧いてくる。

 今週何度目かの溜息を吐き、教室の戸を開いて自分の席を目指した。


 先に教室へ着き、談笑しているクラスメイト達と形式的な挨拶を交わす。

 互いに発(・)声(・)し(・)た(・)4(・)文(・)字(・)には、特に今までと変わったニュアンスを感じなかった。

 自分の席へ腰を下ろし、横目に見ても僕を気にする様子も無く、四方山話を続けているようだ。

 昨日担任から呼び出しを告げられた時には、クラス内の空気が名状し難い物になっていたが、所詮は他人事、1昼夜で些事と成り果てたのだろうか。

 

 杞憂の故事が浮かぶ中、授業に備えて教科書やタブレットPC等を鞄から取り出しては机に仕舞う。

 すると不意に、薄い紙が擦れる音が机の物入れから聞こえる。

 過去の配布物かと思い、天板下の空洞へ手を伸ばしてみれば、紙製の何かに触れる。

 慎重に引き出し、正体を確かめると、飾り気のない長形の茶封筒であった。

 表裏共に何の記載も無く、切手も無い。

 郵便番号の枠も印刷されていないそれは、ミステリーボックスと形容するべきか。

 箱ではないし、ワクワクもしないけど。


 件の茶封筒を開封する段になったのは、昼休みに昼食を終えてからであった。

 何かしらの通知、通告を目的とするであろうこれは、開けるまで内容が分からない以上、早急に確認した方が良いのは自明である。

 それでも、本当に極めて異常に低い可能性だが、中(・)身(・)が(・)ラ(・)ブ(・)レ(・)タ(・)ー(・)だ(・)っ(・)た(・)ら(・)ど(・)う(・)し(・)よ(・)う(・)、なんて我ながら思春期過ぎる懸念を抱いてしまい、その場で封を開ける事を躊躇ってしまった。

 いや、初めてもらった恋文がオフィス用品に入っていた、というのも嫌と言えば嫌なのだが。

 ともかく教室では開封出来ず、微妙に浮ついた心地で午前の授業を受け、数日前に詰将棋を解いたあのベンチで、満を持して開封に臨んでいる。

 改めて茶封筒を眺めれば、無骨と言うか、事務的と言うか。

 青春だとかロマンスだとか、そういった語群からはかけ離れた外見に、つい乾いた笑いを零してしまう。

 いよいよ中を検めてみれば、2つ折りの紙が1枚だけ。

 

 ”17:00 1‐A 久世佳乃”


 戦時の電報みたいな内容だった。

 おそらく集合時間、集合場所、差出人、の順だろうか。

 普通は業務連絡でもここまでコンパクトに収めないと思う。

 せめて文章にしてもらえれば、あと日付も添えてくれれば。

 最近は取り越し苦労ばかりしている気がするな、と自嘲したところで、隅にもう一文ある事に気付く。

 

 ”読後は速やかに当文書を破棄されたし”


 軍事機密みたいな内容だった。

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