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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第99話 将軍、真実を知る

 アルヴィンは、静かに目を開いた。




「……見事だ」




 剣先を見つめ、小さく息を吐いた。




「この距離なら、私はもう死んでいた」




 アイリは何も答えなかった。




 アルヴィンはゆっくりと、片膝をついた。




「私の負けだ」




 その声には敗北の悔しさよりも、確かな納得があった。




 兵士たちがざわめいた。




「将軍!」




 誰かが叫んだ。兵士数人が、思わず前に出ようとした。


 アルヴィンは、それを片手で制した。




「騒ぐな」




 短い一言に、動揺が静まった。


 アルヴィンはアイリを見上げた。




「なぜ斬らない」




「この国に、お前が必要だからだ」




「何……」




 アルヴィンの視線が、アイリの後ろに立つラグナルへと移った。


 しばらく、その顔を見つめていた。




「……久しいな」




 ラグナルも静かに頷いた。




「アルヴィン将軍」




「まさかお前が、敵側にいるとは思わなかった」




 アルヴィンの声に、驚きとどこか懐かしさが混じっていた。




「私は、敵ではありません」




 ラグナルは答えた。




「真の王家を、守っているだけです」




 アルヴィンは、目を細めた。




「真の王家……」




 その言葉を、繰り返した。




「はい」




 ラグナルは、まっすぐアルヴィンを見た。




「マリアンネ様が、生きておられます」




「なんだと!」




 アルヴィンは片膝をついたまま、体を強張らせた。


 驚きがその顔に、隠しようもなく広がっていた。




「マリアンネ様が……生きて……」




 声が震えていた。




「二年前、王女失踪の報せを受けたとき、私は」




 言葉を探すように、一度口を閉じた。




「私は生存を信じたかった。しかし誰もが、もう望みは薄いと言った」




「摂政閣下は」




 ラグナルは静かに続けた。




「二年間、それを否定しなかった」




 アルヴィンの表情が変わった。何かを理解しかけているような、そんな色がその目に浮かんでいた。




「まさか閣下は初めから、ご存命であることを知っていた」




 ラグナルは頷かなかった。それでも、その沈黙が答えだった。




 周囲の兵士たちもいつの間にか、そのやり取りに聞き入っていた。剣を構えることすら忘れたように。




 アルヴィンは、ゆっくりと立ち上がった。膝についた土を、払うことすらしなかった。




「マリアンネ様は……今、どちらに」




 ラグナルは遠く、巡礼路の方角へと視線を向けた。




「神殿へ向かっています」




 アルヴィンのその目には、これまでとは違う光が宿り始めていた。




「マリアンネ様に、会わせてもらえないか」




 アルヴィンの声には、これまでの将軍としての威厳とは違う、切実な響きがあった。




「もちろんです」




 ラグナルは、静かに頷いた。





つづく…




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