表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/103

第79話 王女を狩る者たち

 アルビオン王国、北部。




 街道沿いに、深い森が広がっていた。


 木々の梢が、風に揺れていた。




 その葉擦れの音に紛れるように、五つの影があった。




 枝の上に。木の陰に。


 それぞれが息を殺していた。


 視線の先には、街道を歩く一団があった。




---




 五人だった。




 先頭を歩くのは、深い青髪の女だった。純白の神官衣を纏っていた。陽光の巫女リアナだった。




 その隣に、深紅の瞳を持つ女がいた。純白の賢者ローブが、風になびいていた。アリシアだった。




 金髪ボブの女戦士が、大剣を担いで歩いていた。金属鎧が、朝の光を鈍く反射していた。その名は、マリー。




 もう一人は、赤髪ショートの革鎧の女。腰に剣を提げていた。アイリだった。




 最後に、長い茶髪の女が、長槍を背負って歩いていた。マイアだった。




 五人は、それぞれの思惑を抱えながら、歩いていた。




 妹を追う者。




 宿敵を探す者。




 その他。




---




 木の上からその様子を、見つめる男がいた。


 遠眼鏡を構えていた。




 男の名は、ラグナル・ヴォルグ。




 視線の先の金髪の女戦士を、じっと見ていた。


 その目は獲物を定めた、猟師の目だった。




 周囲に四つの気配があった。動かず音もなく、木々の間に溶け込んでいた。


 誰も、言葉を発しなかった。


 まだ、監視するだけの時だった。




 しかし。


 その静けさの奥に。


 これから始まる、何かの予感だけが。


 森の空気に、静かに満ちていた。




「間違いない」




 ラグナルが、遠眼鏡を下ろした。


 声は低く、抑えられていた。




「第一王女、マリアンネ・ヴァルケリアだ」




 傍らに控えていた部下の一人が、眉を寄せた。




「本当に、ですか」




 声に、疑問が滲んでいた。




「ただの旅人にしか、見えません」




 金髪の女戦士は大剣を担ぎ、他の仲間たちと笑い合いながら歩いていた。王家の血を引く者の風格など、そこには感じられなかった。




 ラグナルは、答えなかった。


 ただもう一度、遠眼鏡を構えた。




 女戦士の歩き方を見た。


 足の運び。


 重心の置き方。




 白狼特有の歩法だった。


 無駄のない、しかしいつでも抜刀できる体の使い方。




 剣の位置を見た。




 大剣を担いでいるが、その担ぎ方が普通ではなかった。柄に添えられた右手の角度。いつでも鞘から瞬時に抜き放てる、その構え。




 呼吸を見た。




 仲間と話しながらも、その呼吸は乱れていなかった。常に一定のリズムを保っていた。長年の鍛錬でしか身につかない、呼吸法だった。




 視線を見た。




 談笑しながらもその目は絶えず、周囲を確認していた。街道の両脇。森の気配。誰かに教わったのではなく、体に染みついた警戒だった。




 全てが一致していた。




「白狼、特有の歩き方」




 ラグナルは、静かに告げた。




「剣の重心」


「呼吸」


「視線」


「全てが、一致している」




 部下はそれでも、まだ納得しきれない様子だった。




「しかし、あの立ち振る舞いは……」




「偽装だ」




 ラグナルは遮った。




「王女は正体を隠している。それが逆に、確信を深めている」




 あれほど自然に、傭兵か旅人のように振る舞える。それができるのは、本物の王族だからこそだ。中途半端な演技では、こうはいかない。




 ラグナルの、目に確信の色が宿った。




「王女は、生きていた」




 静かな声だった。




「我々の任務は、変わらない」




 その言葉に。


 四つの気配が、静かに応えた。




 声はなかった。


 ただ木々の葉擦れの音だけが、森に響いていた。




---




 ラグナルは、遠眼鏡を下ろしかけた。


 しかしその動きが止まった。




 視線がもう一度、五人の中の一人へと戻った。


 赤髪のショートカット。革鎧。腰に提げた剣。


 アイリと呼ばれていた女だった。




 ラグナルは目を細めた。




 その足の運びに。


 わずかな既視感があった。




 白狼とは系統が違う。




 しかし、踏み込みの瞬間の重心移動。


 その一瞬だけ、体の軸を消すような独特の動き。




 それが、白狼の遣い手が見せる動きと、どこか似ていた。


 気のせいかとも思った。


 それにしては、あまりにはっきりと、目に焼きついた。




 ラグナルはしばらく、アイリの歩き方だけを見つめていた。




 部下が怪訝な顔をした。




「ラグナル様?」




「……いや」




 ラグナルは、遠眼鏡を下ろした。




「今の、任務には関係ない」




 そう言いながらも。


 頭の片隅に。


 その違和感だけが、静かに残った。




 街道を行く五人は。


 自分たちが既に、狩られる側になっていることを、まだ知らなかった。





つづく…




登場キャラクターのイラストをpixivで公開中です!


闇に堕ちたリリム、賢者アリシア、悪魔に魂を売った女ヴァレリア――


物語に登場するキャラクターたちを、高品質イラストとして制作しています。


「このキャラの姿を見てみたい」


「戦闘シーンをもっと想像したい」


そんな方はぜひご覧ください。




▼pixivはこちら


https://www.pixiv.net/artworks/144606685

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ