表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/54

第48話 聖光と魔翼

 爆風が、廃屋を呑み込んだ。




 轟音。




 壁が軋み、積み上がっていた腐った木箱が弾け飛ぶ。


 天井の梁が折れ、崩れた木材が雨のように降り注いだ。




「っ……!」




 リリムは反射的に身を縮め、腕で頭を庇った。


 砕けた木片が肩を打つ。


 肺に砂埃が入り込み、激しく咳き込む。


 熱風が、頬を撫でていった。




 遅れて静寂が来る。


 崩れた廃屋の中に、ぱらぱらと瓦礫の落ちる音だけが響いていた。




 白い煙。


 砂埃。


 壊れた壁の隙間から差し込む月光。




 その向こうに――二つの影があった。




 一つは、女。


 白銀の髪を夜風に揺らし、陽光を凝縮したような輝きを纏う女が、微動だにせず立  っていた。


 八本の光の矢を放った姿勢のまま。


 呼吸一つ乱れていない。


 瞳だけが静かに、煙の向こうを見据えている。




 もう一つは――




「……ヴァレリア、さん」




 掠れた声が、リリムの喉から零れた。




 煙の中の影が、ゆっくりと輪郭を持ち始める。


 だが。


 それは、さっきまでのヴァレリアではなかった。




 銀髪は銀のままだ。


 けれどその質感が違う。


 生気のある髪ではない。


 月光を拒むような、冷たい金属の糸。




 深紅のローブは裂け、その背から巨大な漆黒の翼が広がっていた。


 頭部には鋭い角。


 指先は細く長く、黒い爪へと変わっている。




 そして何より――瞳。


 青かったはずの目が、血のような深紅へと染まっていた。




 悪魔。


 いや。


 ヴァレリアの肉体を、悪魔が侵食している。


 その姿だった。




 そして。


 八本の聖光の矢は――止まっていた。


 ヴァレリアの翼の前で。




 漆黒の羽根が、矢を受け止めていた。


 羽根の先端が焼け焦げ、白い火花が散っている。


 それでも、貫通していない。


 翼が、微かに震えていた。


 受け止めている。


 無理やり。


 力尽くで。




 リリムの息が止まる。




(防いだ……!?)




 森で見た。


 エリザですら抵抗できなかった。


 悪魔化したヴァレリア。


 その圧倒的な力。




 けれど――


 陽光の乙女は、表情を変えなかった。


 驚きもない。


 警戒もない。


 ただ、確認するように細い目をわずかに伏せた。




「姿を現したか」




 平坦な声だった。


 そこには感情がなかった。


 強敵を前にした緊張も、怒りも、油断もない。




 まるで。


 処理対象を確認しただけのような声音。




 リリムの背筋を、冷たいものが走った。




 ヴァレリアが答える。


 ……はずだった。


 だが返ったのは声ではない。


 殺意だった。




 悪魔ヴァレリアの右手が持ち上がる。


 虚空が裂けた。




「――紫炎の鎖」




 瞬間。


 空間から無数の鎖が噴き出した。


 紫色の炎を纏う鎖が、蛇のようにうねりながら女へ襲いかかる。


 壁を砕き、床をえぐり、廃屋そのものを引き裂きながら一直線に迫った。




 空気が焼ける。


 逃げ場はない。


 四方八方。


 完全包囲。




 リリムが息を呑む。




(入った――!)




 だが。


 女は動かなかった。


 ただ、右手を上げる。


 白い光が集まった。


 次の瞬間。


 世界が一瞬だけ白に染まった。




 ――消えた。


 紫炎の鎖が。


 触れた瞬間、燃え尽きていた。




 浄化。




 そんな言葉では軽い。


 存在そのものを否定されたように、鎖は灰すら残さず消滅していく。


 紫炎が悲鳴を上げるように弾けた。


 床に落ちた鎖の破片は、音もなく砂へ変わる。




 女の服には、すす一つ付いていなかった。


 変わらない。


 呼吸も。


 姿勢も。


 表情も。


 まるで何も起きていない。




 その光景に。


 リリムの喉が、ひゅっと鳴った。




(……なに、この人)




 怖かった。


 強いからじゃない。


 理解できない。


 それが怖かった。




 人間が強いならわかる。


 才能。


 鍛錬。


 特別な加護。


 そういうものだと思える。




 でも、この女は違う。


 避けない。


 焦らない。


 恐れない。


 ただ最適解を実行している。




 まるで――


 感情を持たない処刑機械。


 そんな異様さがあった。




 しかし。


 次の瞬間だった。


 ヴァレリアの姿が、消えた。




「――っ」




 リリムが目を見開く。




 空間転移。


 悪魔ヴァレリアが、女の真後ろへ現れる。


 漆黒の爪が振り下ろされた。


 空気が裂ける。


 首を落とす軌道。




 今度こそ入った。


 リリムはそう思った。




 だが。


 女は、振り返らなかった。




 ただ。


 半歩。


 横へ動いた。


 本当に、それだけだった。


 剣士の回避でもない。


 反応でもない。


 最短経路を塞がれたから、別の道を選ぶ。


 そんな機械的な動き。




 ヴァレリアの爪が空を裂く。


 外れた。


 ほんの数センチ。


 それだけ。




 女の右手に、いつの間にか一本の光の矢が生成されていた。


 無言。


 躊躇なし。


 距離ゼロ。


 至近距離から放たれる。




 だが――




「幻夢迷宮」




 ヴァレリアの深紅の瞳が輝いた。


 世界が、歪む。


 女の動きが止まった。


 矢が止まる。


 白銀の瞳が、虚空を見る。




 入った。


 リリムの心臓が跳ねた。




(やった……!)




 初めて。


 初めてだった。


 陽光の乙女の動きが止まった。




 ヴァレリアの口元が、わずかに吊り上がる。


 勝てる。


 そう思った。




 ――次の瞬間。


 女の全身から、静かな白光が溢れた。


 迷宮が、きしむ。


 空間が、崩れる。




 ヴァレリアの笑みが止まった。


 そして。


 女が、ゆっくり目を開く。




「……認識阻害系」




 淡々と。


 ただ事実確認のように呟いた。


 感情はない。


 評価もない。


 ただ。


 処理方法を確認した声音だった。




 リリムの背筋が凍る。


 ヴァレリアの最強格の魔法を。


 たった数秒で、解析した。




 女の足元に光が集まる。


 空気が震える。


 白銀の髪が、ふわりと浮いた。




 次の瞬間。


 女は夜空へ飛び上がっていた。


 追うように、悪魔ヴァレリアが翼を広げる。




 崩れた廃屋の天井を突き破り。


 二つの影が、夜空へ駆け上がる。




 月光の下。


 空が戦場になった。





 つづく---




登場キャラクターのイラストをpixivで公開中です!


闇に堕ちたリリム、賢者アリシア、悪魔に魂を売った女ヴァレリア――


物語に登場するキャラクターたちを、高品質イラストとして制作しています。


「このキャラの姿を見てみたい」


「戦闘シーンをもっと想像したい」


そんな方はぜひご覧ください。




▼pixivはこちら


https://www.pixiv.net/artworks/144606685

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ