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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第46話 光が結んだ絆

 紅き月が見下ろす中庭には、戦いの余韻だけが残っていた。


 ヴァンパイアが消滅した場所には灰だけが散り、城を満たしていた邪悪な気配も薄れていく。




 リアナはすぐに、アイリとマイアのもとへ駆け寄った。


 その青い瞳には、深い慈愛と決意が宿っている。


 彼女は二人の傍らに跪き、静かに両手を差し伸べた。




「太陽神レオリアよ……どうか、この勇敢なる者たちをお救いください」




 柔らかな白金の光が溢れる。


 光は優しく二人を包み込んだ。


 砕けた骨が繋がり、裂けた傷が塞がり、失われかけていた生命力が戻ってくる。




「……あったかい」




 アイリが目を開く。


 胸を貫いていた激痛が、嘘のように消えていた。




 マイアもゆっくりと、身を起こす。




「回復魔法……?」




「太陽神の奇跡です」




 リアナは微笑んだ。




「お二人とも、本当によく頑張りました」




 その言葉に、マイアは胸が熱くなるのを感じた。




 自分たちは負けた。


 それでも、この戦いを否定されなかった。


 それが嬉しかった。




 しかしアイリは違った。


 立ち上がった彼女は、消滅したヴァンパイアのいた場所を見つめていた。




(私たちは命を懸けた。それでも届かなかった)




 あの怪物を。


 この巫女は、たった一つの奇跡で滅ぼした。


 悔しさが胸を刺す。




 だが同時に理解していた。


 あの時、彼女たちが来なければ、自分もマイアも死んでいた。




「……助かった」




 アイリはぶっきらぼうに言った。




「ありがとう」




 リアナは嬉しそうに微笑む。




「どういたしまして」




 その時だった。


 中庭の壁に埋め込まれた棺の一つから、小さな声が聞こえた。




「……たすけて……」




 全員の表情が変わる。




「まだ生きてる!」




 マイアが駆け出した。


 棺を開く。




 中には十歳ほどの少女が、横たわっていた。


 青白い顔。


 だが息はある。




「よかった……!」




 マイアの目に涙が浮かぶ。




 次々と棺が開かれた。


 中には衰弱した少女たちが、眠っていた。




 リアナが祈りを捧げる。


 白金の光が広がり、少女たちの顔に少しずつ血色が戻っていく。




「助かるのですか?」




 マイアが尋ねる。




「はい」




 リアナは頷いた。




「時間はかかりますが、大丈夫です」




 その言葉に、アイリもようやく安堵の息を吐いた。




 ここまで来た意味はあった。


 救えたのだ。


 少女たちを。




 救助を終えると、赤髪の魔術師が二人へ歩み寄った。




「改めまして」




 赤髪が夜風に揺れる。




「私は、アリシアと申します」




 金髪の戦士が腕を組む。




「マリーだ」




 青髪の僧侶も頭を下げた。




「リアナと申します」




 マイアも礼を返す。




「私はマイアです」




「アイリだ」




 短いやり取りだった。


 だが不思議と敵意は感じない。




 アリシアが尋ねる。




「お二人は、なぜこの城へ?」




「さらわれた少女たちを、助けるためです」




 マイアが答えた。




「ワーウルフを追っているうちに、この城へ辿り着きました」




「そうでしたか……」




 アリシアは静かに頷く。


 そして少し迷った後、口を開いた。




「私たちは、人を探しているのです」




「人探しを?」




「ええ」




 アリシアの表情が曇る。




「長い紫髪の若い女性魔術師です」




 アイリとマイアは顔を見合わせた。


 心当たりはない。




「知らないな」




「私も存じません」




「そうですか……」




 アリシアは小さく息を吐いた。




 その姿を見て、マイアは思った。


 自分たちと同じだ。


 誰かを探して旅をしている。




 だからこそ――。




「お願いがあります」




 アリシアが顔を上げる。




「何でしょう?」




 マイアは真っ直ぐに見つめ返した。




「私たちも、同行させてください」




「マイア!?」




 アイリが驚く。




 マイアは続けた。




「私たちも人を探しています」


「手掛かりはありません」


「だから旅を続けています」




 静かな声だった。


 だが強い意志が宿っている。




「目的は違っても、同じ探し人です」


「もしよければ、ご一緒させてください」




 アリシアは、すぐには答えなかった。


 仲間を迎えるということは、その命に責任を持つということでもある。




沈黙を破ったのは、金髪の戦士マリーだった。




「二人の職業は何だ?」




「マリー!?」




アリシアが振り返り、驚きの声を上げる。




「私は槍士。彼女は剣士です」




マイアはためらわずに答えた。




「アリシア、この二人を仲間にしよう」




マリーの口調は、迷いがなかった。




「なにを言ってるの、マリー。私たちの危険な旅に、この二人を巻き込むわけにはいかないわ」




アリシアの声には困惑が滲む。




だがマリーは、静かに言い放った。




「たった二人で旅を続けさせる方が、危険じゃないか? それに……複数の敵と接近戦になったとき、私一人ではお前とリアナ両方を守るのは難しい。他に戦士がいると助かる」




「……」




アリシアは言葉を失った。




すると今まで黙っていた青髪の僧侶リアナが、柔らかな声で続ける。




「アリシア様。私たち、マリーさんに負担をかけていたのですね。マリーさんを少し、楽にして差し上げませんか?」




「えっ……!?」




アリシアは驚いて振り返る。


リアナは微笑んだまま、淡い光をまとう瞳で、仲間と新たな二人を見つめる。




「お二人との出会いは偶然ではありません。きっと、太陽神レオリアのお導きです。それに……アリシア様には、人を惹きつける力があるのかもしれません」




「リアナ……」




アリシアは肩を落とし、ため息をつく。




「二人がそこまで言うのなら……わかったわ」




その言葉を合図に、マリーはにこりと笑った。




「マリーだ。よろしく頼む」




「リアナです。よろしくお願いします」




青髪の僧侶も優しく頭を下げる。




「マイアです。よろしくお願いいたします」




マイアは心から嬉しそうに、声を張った。




「ア、アイリだ。よ、よろしく……です」




アイリは不意を突かれたように目を丸くしつつ、しぶしぶ名を告げる。




最後にアリシアが、真っ直ぐな目で二人を見据えた。




「アリシアです。よろしくお願いします。――まずは、この城から出ましょう。少女たちを連れて」




紅い月が静かに見下ろす中、五人の影が一つに重なり、夜の中庭を後にした。





つづく---




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